乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

夜会てんぷれ

公開日時: 2021年3月9日(火) 18:23
文字数:3,679


 さて、やってまいりましたゲームチュートリアル的な最初の夜会! パチパチパチ!


(あ゛ー……ハイハイ)


 我らがフローラさんは一体いくつのカードを得られるのでしょうか!?


(そうねそうねー……)


 やる気ねえなぁフローラさん。


(だって、目下この調子だもの)


「貴女、聞いてますの!? フローレンシア・クロード!」


「余り大きな声は淑女としてどうかとお思いますわよー」


「んまぁっ! バカにして!!」


(だからキーキーうるさいっての)


 ある意味テンプレートだけどな。

 夜会が始まるやいなや、フローラは珍しく交流の無い他の男爵家の令嬢に絡まれていた。仲良し四人組は今日は組んでない。碌でもない事になるだろうと最初から単独行動だった。


「上記貴族の方に取り入れたからと良い気になって……!」


 と目の前の令嬢がきぃきぃ喚くと、その通りだとばかりにいつの間にか子爵家の令嬢令息までが寄って来ていた。彼らも口々にフローラを攻める言葉を吐くが、その喧騒が一瞬で静まる。


「あん? 取り入っただぁ? こっちの苦労も知らないで?」


 ダンッ! と足を踏み出せば、事情を知る男爵家の令息達は腰を引いて後ずさる。……ちょ、フローラさん、もっかい! もっかい! 面白いこれ!


(やかましい)

「そんなに言うのでしたら恐らくこの後、わたくしご招待されると思いますのでご一緒に如何かしら? ……上段の高位貴族様方のラウンジへ」


 とフローラさんが迫力のある顔を彼らに向けて言い放つと、周りの令嬢令息達がたじろぐ。恐らくは知己を得る栄誉と、やらかして不興を買う危険性とを天秤にかけているのだろう。しかしどう考えても場違いな所へ足を踏むこむ勇気もなく……。


「やあフローラ嬢、待たせたかな?」


 侯爵家令嬢グレイスの登場に、下位貴族家令息令嬢達が道を開ける。


(わぁ、海が割れるかのようだわぁ)

「いえ、グレイス様。今しがた来たばかりで御座います」


 切り替え早ぇえな。


「ふむ、なら良いが……この者達は?」


「ええ、何か皆さんご一緒なさりたいとか。ねぇ?」


 と小首を傾げてみせると「いや、僕達は……その」「わ、私は別に……」等と引いていくが……


 ガシッ!


「 !!!? 」


「(貴女は逃しませんわよ……?)先程話が弾んだのでこの方を連れて行きたく存じます。宜しいでしょうか?」


「ああ、構わないよ。私はグレイス、シャムリア侯爵家の者だ」


「ああ、あ、私、は……エッシャー男爵家が長女、ミランダ、と申します」


「そうか、今日は宜しくね」


「はひぃっ!」


(みーちーづーれーじゃー)


 鬼かお前。ミランダ嬢、涙目じゃねえか。ってかちょっと意識飛びそうだぞ?


「ミランダ様! さ、行きましょ」


「えっひへぇえ……(グスッ)」


 無理やり大声で起こしやがった……。鬼女かな?



 ………

 ……

 …



 コツ、コツ、コツ……


 一歩一歩、断頭台の階段を


(違ぇよこんちくしょーが)


 えー、風呂さん雰囲気楽しもうよー。


(風呂ってなんだ!? 変な変換した挙句にそれまで略すな! 悪乗りし過ぎだこのどノーコン!)


 んー、伝わり辛い。お前は20点。それよりそっちの連れてきたのは大丈夫なのか?


(うん、たまに逃げ出そうとするけどがっちりホールドしてるから大丈夫)


 この令嬢面白いよな。泣き出しそうなぶっちゃいくな顔してると思ったら、グレイスの視線が自分を捉えそうになると余所行きスマイルに戻るんだぜ? なんかそういうCM無かったか?


(あったけど、あんた目が見えてなかったのに何で分かんのよ)


 書き込みがあれば何でも分かる。


(ま、いーけどね。あ、そろそろ着きそう)


 2階に上がったフローラ一行は、突き当り正面、最も広いブースに陣取る上位別格貴族様方のおわす所へ向かったのだった。


(……うわぁ無駄空間)


 言うことがそれか。貧乏性が。


(1DKでも生きていけるもの)


 聞いた俺が悪かった。


「よく来たな」「どうも」「よぉ、待ってたぜ!」「ふふ、いらっしゃい」

「いらっしゃ……い」「ようこそおいで下さいました」「(ペコリ)」


 フローラも余所行きスマイルとカーテシーを決め、


「本日はお招き頂き有難うございます。こちらは先程仲良くなったエッシャー男爵家令嬢ミランダ様です」


「およっ! よろしくおねあいしまう」


(あ、噛んだ)


 超噛んだなぁ。めっちゃ涙目だぞ?


「そんなに緊張しないで。落ち着いて、そう……皆優しいからね」


「は、はひっ……あ、りがとうございます(ポー……)」


 お優しいエリオットさんだこと……って、あ、シンシアさんの目が開いた。


(ぎゃあっ……)

「ミランダ様! お飲み物! 取りに行きましょう!」


「あ、えっ……(ちょっと何なんですの! せっかくエリオット様が話しかけてくれましたのに! ああん、エリオット様ぁ……)」


「(そのまま視線をわずか右にずらしてみてー……はいそこ)」


「(なんです)のぉっっ!? (あ、あのメイド、何なんですの!?)」


「(多分、公爵家の肥やしにならなそうな軽薄な令息令嬢を闇に葬る系の方ですわ)」


「う! (うっそ、です、わ……そんなはず)」


「(じゃあもう貴女の事気にしないわね。苛立ち紛れに巻き込んだ自覚はあるから見捨てるのは気が引けただけだけど、自ら溶岩に飛び込む人をどうこうしたいとは思わないわ)」


「(う゛ぇっ!? ……それほどなんですの?)」


「(コクリ)」


「(……フローラ様。……何卒お見捨てにならないでぇ、私が悪うございましたからぁ!)」


「(わかったわかった、生きて帰ろうね)」


「(はい……グスリ)」


 こうしてフローラは、逆らえない舎弟……女の子だから舎妹? を増やしていくのだった。なんて悪どい……。


(人聞き悪いなこんにゃろー)


 フローラ達が飲み物を手に別格貴族達の下に戻ると、


「ふん、そんなもの。そこらに居る者達にでも取りに行かせれば良かったのだ」


「ディレク。彼女らは慣れていないのだから。それにうちにも居るだろう? そうやって……」


「お? 何だまだ始めてねえのかよ? ほれ、お前らの分も取ってきてやったぞ」


「……って子が」


「アーチボルド。彼らは仕事してこの場にあるのだから、使わないということは軽んじるということにもなりかねないんですよ?」


「細けえ眼鏡だなぁ。どうでも良いじゃねえか」


「良くはありませんわアーチボルド様。結局仕事を貰えない、即ち要らない者とされてしまっては、仕事に呼ばれることそのものが無くなってしまいます。そういう事にも気を配るのは、持てる者の義務というやつですわ」


「お、おう、悪かった……」


(おお、やり込めてドヤ顔のアメリア様……プライスレス!! けどこれは良くないわね)

「アメリア様、アメリア様」


「……? 何でしょう?」


「ちょっとお耳を拝借……(アーチボルド様のような豪放磊落な方には教え諭すより、先回りする感じでそっと方向を示されるのが宜しいかと。後日、その支えに気付いた時、掛け替えのない存在だと気付かれるでしょう)」


「( !! フローラ様……とてもためになりますわ! また何か気付かれましたらお教えくださいませね!)」


「(ええ、勿論)」


 そして二人してクスクスやってると、アーチボルドが何か悪巧みしてるなぁと零し、エリオットに女の子の内緒話を悪しざまに言うものではないよ、と窘められていた。このモテ力の違いよ。

 てか、フローラさんや。


(何だねノーコンさんや)


 アレか? 攻略対象をもう無理矢理でもくっつけちゃえ作戦なのか?


(おっ、鋭いね。その通りだよ。こっちに流れ弾来ないうちに余地を無くしてしまおうって話なのさね、ふっふっふ)


 ……なんかウザいドヤ顔してるのが想像できる。


(うざいですって!?)


 ガシッ


 その時不意に腕を掴まれる。何事!? と思ってそちらを見てみると……。


「(フローラ様……一人にしないで下さいませ……!!)」


「(ああ、ごめんごめん)」


 シンシアの殺気を感じてから、ミランダ嬢は生まれたての子鹿のようになっていたのを忘れていた。それから何をするにつけても、おっかなびっくりになってしまっていた彼女はすっかり弱気になって、今の状態に至る。


「ね……」


 ここで、ある意味最高権力者であるジュリエッタが口を開く。女性陣が口を開けば男性陣は一歩下がるからだ。


(じぇんとるめぇん♪)


 ……イラッ。


(すんまそん)


 ……イライラッ。


(すみません。続けて下さい。ごめんなさい。あんたがなんかイライラすると気持ち悪いのぉ!)


 チッ。


「あの話……出来そうに、ないから……今日はお開き、で、良い?」


「あ、はいそうですね」


「あら、そうですの? いや、残念ですわぁ。せっかくお近づぐぇっ! ……(何ですの!?)」


「(引き留められたいの? もう次は止めないよ?)」


「(ごめんなさい、すみません、許して下さいませ!) ……今日の所はこれでお暇しますわね」


 お前らよく似てるなぁ。


(……うん、ちょっとそう思う)


「ん……。グレイス?」


「了解。送っていくよ」


「サイモン……も」


「ああ、例のアレですね。分かりました。私もお供します」


 こうして男爵家令嬢コンビは二人に送られるのだった。カード? 二人共ちゃんと7人分貰ったよ。ミランダ嬢がずっと皺にならないよう握りしめて、凝視し続けていたのはちょっとアレだったけどな。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート