乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

大群とはこういうことを指すのだ

公開日時: 2021年4月8日(木) 13:00
文字数:4,113

――フローラサイド


 オレオレ俺ですオーレです。少し未来の話が聞こえてる気がするのは気のせいなんだぜ?


(分かんねえよ。あんたが何言ってっか)


 それより何か地響きして無え?


(あっちこっちでの戦闘が原因じゃないの?)


「………………」「………………」


 鈍感な喪女さんだと当てにならんね。フローレンシアちゃんはどうよ? 変態さんも動き止めちゃってるけど。


(おま……)


「(お静かに)」


(はい……)へーい。


 ズズン……ズン………………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


(うわっ! 揺れだしたっ!)


 えー、皆様。これが体験できる最高ランクの震度……


(やかましいわっっ!)


「……アルモの野郎、殺られたのか?」


「それは死んだ、という事でしょうか?」


「そうだ。あいつが死にでもしない限り、魔法の供給は止まったりしねえ仕組みのはずだ」


「……ですが、帝国であれば無力化した後、無理に命は取ったりしません」


「アルモが死なざるを得ない状況ってのも良く分からんな。シェライラのために、絶対死なないとのたまってやがったからよぉ」


(え? もしかして?)


 もしかするんじゃなぁい?


「……一時休戦と致しませんか?」


「ああ? ああそうだな……って無条件で飛びつきたい所だが条件がある」


(条件だぁ!? 舐めてんのかこの変態がぁ!)


「(お静かに)」


(……済みません)


 怒られてやんのー。


「(ノーコンさん?)」


 済みません。


「条件とはもしかしてグレイス様の安全の保証でしょうか?」


「ああ、そうだ。このままだと巻き込まれて粉々だからな」


「「………………」」


(こいつは嫌いだけど、んー……御免代わって)


「こっちもこっちでお父様やお祖父様を守りたいし、グレイス様は勿論見捨てられないから受けてやるわ」


「そうかよ残念女」


「あと、あんたのスキル止めなさい。じゃないと魔法使えないじゃない」


「もう解除した」


「そ、おっけ。この城って土魔法で出来てるのよね?」


 そう言って喪女さんは土魔法で小さなゴーレムを作り出した。


「うおっ!? 妙な魔法使いやがるな……」


「……よし、アルモって子の支配下じゃないから魔法の通りも良い。普通にできるわね。大量っ! 生産っ!」


 ずわぁぁぁぁあああっ!


「ううっげ! 気持ちわるっ!」


 数万単位の小さなゴーレムがうぞうぞ動く光景に、一匹でも居たらドン引きされる赤○キさんがドン引き。


「(よく言った)変態はだあってろ。っつか、あんたはグレイス様を連れてこいよ」


「………………」


 変態さんは壁に向かうと、一部を強引に砕いた。そこから中に向かって歩き去ってしまう。ええのん? あれ。


「あいつは嫌いだけど、その執着は普通に信用してる」


 ほーん。


「ゴーレム達にお父様達をこちらに連れて来て貰って……と。んでシェルターよね。んー、素材は使いたい放題だからできうる限り頑丈に作りましょうか。こんな感じでっっと。他のみんなも心配ね。予備を作って探させましょうか。どうせ材料は沢山あるし」


「連れてき……んだこりゃああああ!?」


「ああ、来たか赤き変態」


「あ゛あ゛!?」


 何処かの彗星さんやそのファンに怒られませんかね?


(……それは考慮してなかった。普通に赤い変態だと……)


 とにかく赤き変態さんが目にしたのはかまくらのごっつい版の様な、堅牢なシェルターだった。何で作ったのか、ふわふわの物まで用意されていて、グレイスが振動で壊れる事のないように配慮されていた。ちな、ヴェサリオはヴェサリオで、なんだか高級そうな寝具でグレイスを丁寧に包んでいた。意外。


(ふわふわのはグラスファイバーよ。てか、言ったじゃん。あいつの執着だけは信用してるって)


 ふーん、ほーん。


「んじゃそこに設置して」


「……おう」


「んー、うん。収まったわね。んじゃ後はこの崩壊をやり過ごすとしますか。……あんたと一緒ってのはすんごい嫌だけど」


「………………は? 俺様もここに入れるつもりだったのか?」


「は? 入らずにどうするつもりだったんだあんたは。あんた魔法使えないだろうが」


「……これ幸いに見殺しにして、後顧の憂い無くグレイスを開放する気かと」


「お前と一緒にすんなぁ!?」


 喪女さんは激おこであるが、赤き変態さんもそっちはそっちで驚愕の表情で引けをとって無え。うーん、もうひとひねり!


(しなくて良いんですよ?)


 おおう、フローレンシアにまで突っ込まれた! 新鮮っ!


「(この扱いの差よ……)とっとと中に入れ。入り口閉じるから」


「息が詰まったりしねえのか?」


「外気を風魔法で取り込むように作ってあるから大丈夫。外気を取り込む際、水の層を何回か通してるから、外がどれだけ土埃にまみれてても大丈夫だと思う」


「……お前、バカじゃなかったのか?」


 バカじゃなかったの?


「失礼だなてめえ等は……」


「てめえ等?」


「なんでもねえよ」


 え? これもしかして俺にとって美味しい状況!?


(やめてあげてくださいね?)


 はーい。


「(くのやろ……)おっと、振動が激しくなってきた」


「……これは壊れねえのか?」


「あんたが魔法を止めたりしなけりゃね」


「……そうか」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!



 ………

 ……

 …



 ガコンッ!


「ぷあっは! 凄い土煙ね……」


『ーら……フローラ! フローラアアア!!』


「わぁっ! びっくりした。ベティなの?」


『わ、私の野郎共が……うわあぁぁあああんっっ!!』


「おおおぅ、落ち着いて? 野郎共? ……兵の皆さんっ!?」


『何人か巻き込まれた! 私のせいだ! 私の見通しが甘いから!!』


「大っ! 全っ! 開っ!」


 ビッカアアアアアアアアアアッッ!!


 ズダダダダダダダダダダッッ!!


「ぶえっぺっぺっ、埃っぽ……ぃいえぇえ!? んっだこりゃああ!?」


 赤き変態さんが、中々出てきて良いと許可を出さないフローラに業を煮やし、勝手にシェルターから出て来た。そこで彼が目にしたのは、シェルターを作る時の比ではない程に大量の小さなゴーレム達が、駆け足で城砦跡から離れていく姿だった。万じゃ効かないんじゃないか? 億単位かな? ちな舞っている埃や塵からも作ってるらしく、どんどん辺りの視界がクリアになってきていた。


「……ぶったまげたな。こりゃ俺様以外がこいつに当たってたら絶対勝ててねえなぁ。で、あの残念女は何処に……」


 変態さんは俺のフローラを探して周りを見る……と、


「ああ、居た……って何やってやがんだお前?」


「見りゃ分かるでしょ! 治療よ治療!」


「………………そんなこともできんのかお前」


「最近できるようになったのよ。ん? もう喫緊のやばい人はいない? よし、じゃあ後は後方に送りましょ。べてぃー! 終わったよぉ!」


『ありがとうフローラッッ!! 愛してるー!』


「おう、ベティ、俺も愛してんぜー」


 おれもー!


「(お前は要らん)」


 酷ぇw


「………………なに、いって、やがんだ?」


 喪女さんの、突然虚空の誰かに対して愛の告白という変態行動を目撃してしまった元祖変態が、戦慄の表情で喪女さんをみやる。


「(おま、ふざけんな?)うちの司令官と頭の中で交信してんのよ。あんた達もやってたでしょうが」


「あぁ? ……ああ、そういやなんか妙に連携取れてるって言ってたな。俺達のは断片的だったが、その口ぶりだとめちゃめちゃ意思疎通がガッツリできてそうだよな」


「そうね。ガッツリよ」


 とあしらう喪女さんだったが、突然遠くで悲鳴が上がっていた。


「いやああああああああっっ!! アルモおおおおおおおっっ!!」


「何事!?」


「!? あー……今のはシェライラの野郎だな」


「シェライラ? アルモとカップルの?」


「そうだ」


「いやっ!! いやああっ!! ハルロネ……っ! はるろねぇえええ!! お願いアルモを助けてぇ!! 何でも……何でもするからあああああっ! ……はる、ろね? いやああああああっっ!!」


「……悲鳴しか聞こえてこねえな。どうなってんだよ?」


「ベティ? 状況説明お願い」


『アルモって子をザナキアって魔族が殺そうとしたの。咄嗟に心臓は守ったらしいけど、瀕死も瀕死の重傷よ。そして治せるであろう能力を持ってるらしいハルロネも、全身血塗れで息してるかわからない状況』


「なんでそこに集まってんの?」


『フローラが動けない敵将を一箇所に集めたからじゃん?』


「………………あそっか。って和んでる場合じゃない、ゴーレムちゃん、場所はどっち!?」


「ああ? 助ける気か?」


「あたのぼーよ!! 勇者だーっしゅ!」


 別に『勇者』をつける必要はまるで無くね? って感じの、単なる身体強化のダッシュで、喪女さんはアルモの元に飛び出した。


「(言わぬが花って言葉知ってる?)」


 羊頭狗肉って言葉知ってる?


「(返された、だと!? ……って、別に立派に見せるだとか騙すつもりで勇者つけたんじゃないから、それ、微妙に違くね?)」


 どうでもええやん。ほれ、つくぞ。


「っとぉ! ってうわっ!? 思ったよりよっぽど酷い……。これ、助かるかしら? どう? 先輩」


 既に光の回復魔法の師匠であるパウワが既に治療に当たっていたが、彼の表情が全てを物語っていた。


「いや〜ぁ、僕もさっき来たばっかだよ〜ぉ。誰かさんが重傷者を受け持ってくれたから〜ぁ」


「って、割にガッツリ魔法使った感じですね」


「生命維持に当たってる別格貴族の方々のがヘロヘロですけどね〜ぇ」


「あ、ほんとだ」


 そこにはへばってるディレク達の姿があった。


「そこまで繋いでくれたってことね。よし、できるだけやってみる!」


「……助けて……くれるの?」


 骨と皮だけになった女性が、喪女さんを力無くみやる。半分諦めかけていたようだ。


「できるなら、そしてできる限りで、ね」


「助けて……下さい……なんでも……します……から……」


「いきなり全開っ!!」


 ビッカアアアアアアアアアアッッ!!


「あうっ……」


「ああ、御免ね。一刻を争う感じだったから。後、あんたも凄い有様ね? 魔法かなんかの影響?」


「……はい」


「も一つ言わせてもらうわね。女の子が軽々しく『なんでも』なんて言っちゃ駄目よ」


「………………」


「そんな言葉が足枷になったら、このアルモって子の足枷にもなりかねないし、何よりあんたが犠牲になったって知ったら多分泣いちゃうわよ?」


「………………ふぅぅっっ!」


 さめざめと泣き始めたシェライラの様子を伺いながらも、喪女さんは最大出力で癒やしの魔法を続けるのだった。

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