乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

魔族再び

公開日時: 2021年4月10日(土) 13:00
文字数:4,115

注)途中までノーコン不在回。



 ズズンッッ……!


「「「 !? 」」」


 4大家の内その場に居た3人は不穏な気配、つまりザナキアの接近に気付いて天幕から飛び出してくる。


「ほぉ、あの崩落で1人の犠牲者も出していないのか? なるほど? 今代の『勇者』はお人好しか。なるほどなるほど……ふぅっふっふ!」


「魔族……」


「であれば、目障りな虫けらを狩れば面白いことになりそうだな……ふぅっふ」


「!? 待っ………………」


 ズッシャアアアアッッ!!


 ザナキアが軽く腕を振ると、そこから先の地面が波状にめくれ上がっていき、広範囲に渡って破壊が広がっていくのが目に入ってくる。


「な、に……」


 それもある程度遠くになればなるほど甚大な被害が出ているのが見て取れる。一番酷い所は10m程の深さにまで抉れていた。これ程の破壊をもたらすには一体どれ程の力が込められていたのか? ディレクには見当もつかなかった。


「ふむ。鈍っているな。流石に1000年近く、あの偽物に付き合わされたのは痛かった」


「………………は?」


 今こいつは何を言ったんだと理解するのを拒否する頭が、ディレクがやらなければならない事を考えさせる力を奪っていた。


「フローラ! ふろーらああああっっ!!」


「……エリザベス? 嬢?」


「お願いフローラぁ!! うちの、うちの野郎共がぁぁぁ……あああああっ!!」


「っ!?」


 半狂乱になったエリザベスの様子に、ようやく彼女の視界を借りる事を思い出し、兵達の様子やフローラの状況を確認するディレク。……その結果、せっかくあの崩落から助かったというのに、かなりの数の死者が出ているのが分かった。


「なんて、こと、を……」


 その事実にベティだけでなく、ディレクまでもが心を折りかけたが……、


「しっかりするのである」「しっかりしなよ、ディー」


「兄様方……」


「アレは魔族だ。であるならば我らにはできることがあろう?」


「まぁ多少回復したとは言え、ほとんど空っぽだけどね。でもやれるさ」


「……はい、はいっ!」


 幾分気を取り直したディレクではあったが、その目の前に降り立つ人物を見て表情が引きつるのだった。


「ろど……みな……いや、聖女、なのか?」


「ああ、ここに居たのね。分かりやすい位置確認だこと」


「ふん、生きていたかルミナ」


「あら? 死んでいても良さそうな口ぶりね。出てこないほうが良かったかしら?」


「こいつらを見ろ。俺を滅せる程の魔力が残ってると思うか?」


「……随分と順調だったようね」


「お前の方はどうだったのだ」


「ああ……あの代用品、規格外にも程があったわ……」


「つまり御しきれなかった、と?」


 忌々しげに顔を背けるルミナの様子に、ディレクはジュリエッタの無事を確信し、心底胸を撫で下ろすのだった。


「アレはお前が相手をするのではなかったのか?」


「大丈夫よ。この状況下でなら私が勝つわ」


「ふん、どうだか……」


 3人はレアムトップであるはずの2人の関係の悪さに首を傾げる。協力関係では無かったのか? と。


『ディー、兄様方、対魔族用大規模浄化魔法の準備を』


「「「(ジュリエッタ!!)」」」


 3人は思わず声を上げかけたが、何とか心を沈めてジュリエッタのオーダーに沿うべく、意識を集中し始める。気付かれていない今がチャンスであると。


「貴方がアレに対抗できるのなら私は高みの見物と洒落こむけれど? どうするのかしら?」


「ふん。そもそも対抗手段がお前にあるのかどうかすら疑わしい」


「何ですって?」


「(どうかこのまま、このまま魔法を使わせてくれっ!)」


 ディレクの思いが通じたのかは不明だが、2人は3人に目もくれず言い争っていた。そこに先程のルミナ同様……いや、彼女より遥かに静かに、そして隠蔽魔法をまとったジュリエッタがひっそりと降りてきた。


『行きますよ』


「「「(おう!)」」」


「大規模浄化魔法! セイクリッドカノンッッ!!」


「待ってたわ」


「 !? 」


 最初から気付いていたのか、魔法を発動する瞬間にルミナはジュリエッタのすぐそばに現れ、魔法の射出口に当たる両手を掴んだのだった。


「は、離しな……ぁ、ぁ、ぁぁあああああっっ!?」


「「「ジュリエッタぁあああっっ!!」」」


 苦悶の表情を見せるジュリエッタ。普段、泰然としていてピンチに陥ったこともない彼女の、見たことのないその姿に狼狽える3人。


「ああ、これよこれ。幾ら私が手放した光魔法とは言え、私こそがこの魔法を最も巧みに操れるのよ」


「ふん。どうやらそのようだな。光魔法を無理矢理搾取して、瞬時に別の魔力に変換するその技術力は異常なものよな。おまけにその膨大な魔力を蓄えれるというのも、人の身には収まらぬ埒外さではある」


「ふふ……4大家に分けられたと言っても、そもそも私1人の力を分けたんだもの。全部使えて当たり前なのよ? 数多の魔法も、配分の機微も、状態の把握も、大容量の魔力もね。大体あの姉妹達に収まりきらなかったから、国中にバラ撒いたんだし」


「ぐぅっっ……魔力が」


「あら? こんな物?」


「(ギリッ)」


「はっ! なるほどね。でももうこの魔法は使え無さそうね」


「ほう、それは良い事を聞いた」


「そうね、貴方にはもう怖い物が無……」


「お前も用済みだな」


「く……は? うごぼえぇっ!!」


 ルミナの背後に回ったザナキアは、先程とは違って本気を思わせる蹴りをルミナに叩きこむ。それをぶつけた所で死なないと分かってるかのように。事実、ルミナは派手に吹っ飛んだものの、すぐに起き上がってザナキアに向かって吠えていた。


「がぁっぅ!? 何するの!?」


「言ったはずだ。用済みだとな」


「……どういうつもり?」


「元からお前は邪魔だったのだ。邪魔ではあるが、お前を使えば計画自体は前倒しにできそうだから使っていた。それだけに過ぎない。我等が人間などという下等生物と手を取り合うことはない」


「……ああ、そう。はっ! バカにしないでもらえるかしら! これでも聖女! 貴方位の魔族なんていっぱい相手にしてきたのよ!!」


「それはそうだろう。お前が邪魔だと言ったのは脅威だったからだ。……光魔法が使えてたらな」


「なっ……」


「長く一緒にいて分かった。お前には光魔法の気配が全く感じられない。そして今、光魔法をわざわざ別の形に変換した上でその身に吸収した。つまり、元聖女は光魔法を全く使えない。……だからお前は怖くない」



 ………

 ……

 …



 俺、ふっかぁつ! ……参上じゃないとイマイチ語呂が悪いね。ま、それは置いといて、我等の喪女さんはというと……。


「ぜぇっぜぇっぜぇっぜぇっ……」


「も、もう休まれては……」


「なんでっ、あんたっ、ついてっ、きてんのっ、ひぃっ、はぁっ」


「ほ、放って置けなくて」


 死傷兵の間を奔走してヘトヘトになっていた喪女さんに、何故かシェライラが付き従っていた。メイリアやミエ、エリと言った将官達も巻き込まれていたが、シンシアの必死の働きにより皆軽傷であったのと魔力が枯渇していたのとで、避難させていたりする。鬼将軍ずは後方に送られていたのが幸いして無事である。以上ちびゴーレムよりの情報でした。


「すー……はぁぁぁぁっっ……。端から見たら、私がガリガリの敵兵を連れ回してるようにしか見えないと思うのよねぇ。……どう思う?」


「あー……」


 言われてみりゃそうですね、とバツが悪そうに視線を逸らすシェライラ。


 ゾクッッ!


「!? 何今の……?」


「どうかされたんですか?」


「いや、なんかすっごい嫌な気配が……。それにベティの悲鳴も聞こえなくなったし……。まぁそっちは無理もないと思うんだけど。仲良かった人が何人も死んでるんだもん。あの子の魔法だと、その様子がしっかり目の前に繰り広げられちゃうもんね……。一体何が起きてるんだろう?」


「………………」


『フローラ嬢!!』


「うわっ、びっくりした! どうしました皇子!?」


『ジュリエッタを……助けてくれっっ!』


「ぬがああ!! 今度はそっちかぁ!! くっそくっそぅ空っ欠だよこんちくしょーが!!」


 そしてまたしても喪女さんは走らされる事となるのだった。



 ………

 ……

 …



「ジュリエッタ様ー!!」


「ふむ。思ったより早い到着だな」


「………………乙女様?」


 喪女さんが目にしたのは、まるでロドミナを庇うような形でズタボロになっていたジュリエッタの姿だった。


<ちょっと遅かった。……って、まだ死んじゃいないけど>


(生きてるのね!? ごめん遅くなって!!)


 そして喪女さんが駆け寄ろうとしたが……


「今、始末する所だ。もう少し待っていろ」


「こんの……邪魔、するなぁああああっっ!!」


 喪女さんが渾身の光魔法を魔族に照射する! ……が、


「……え? 嘘……」


「ふむ、やはりこうなるのか。不思議なものよな。我等はあの魔王を騙る偽物の中に押し込められた、死してなお強き意志を持った魔族や歴代魔王達の意思の欠片の様なものなのだが……勇者が魔王となったが故に勇者由来の魔法が利かないらしい」


「はぁっ!? 何それ!!」


「しかし聖女の魔法の方は依然として脅威であった……が、今それも始末して終わりとなる」


「〜〜〜っ!! こうなったら素の能力で(カクンッ)って、あら? ……ちょ、駄目! もうちょっと頑張って!!」


「ふふ……どうやら相当無理してきたらしいな。肉体も魔力も限界ではないか」


「くっそ……さっきの蘇生活動が響いてんの……っ!?」


「うそ……」


「え?」


 思わず呟いた声の主の方を見ると、泣き濡れてフラフラになっているベティの姿があった。


「あっ……違う! 違うから!」


「何が違う? 本当の事を教えてやれば良かろう?」


「ちょ、黙ってろこらぁ!!」


「先程、人間共を一掃した時に出た大量の死傷者。アレはお人好しらしいお前が治療行為によって魔力を枯渇させればと、この俺が画策した事ではあったが……なるほど。この小娘がお前に的確な指示を出していたのか。道理で回復する人間が多いと思っていた」


「黙ってろって言ってんだろ!!」


「わ、わた、わたしの、せ……」


「だからこそ……勇者、そして帝国の命運も尽きることとなるわけだ。でかしたぞ小娘。人間の身でありながら、よくぞ滅亡の引き金を引いた。褒めてやろう」


「い、っぃぃいいっ、嫌ぁあああああぁぁあぁあぁっっ!!」


「だあぁぁあああっ! こんのクソ魔族があぁっっ!!」

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