騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
つきかげ御影

第二節 魔族と神族の一騎打ち

公開日時: 2021年6月1日(火) 12:00
文字数:3,655

13th.Rub, A.T.26


 今日はとっても良い日!


 まずはラウクさんと散歩。あの人ったら、私が転びそうになったときはきちんと支えてくれるの。どこかの悪魔と大違いで、とっても優しいわ。その時の温もりが今も忘れられなくて……あの人と一つになるときが待ち遠しいの。


 あと最近、私から稽古をお願いしてたら師匠に褒められちゃった。まあ、『やっとその気になったか』なんて言葉は余計だけど。それもこれも、あの悪魔をぶっ飛ばすため。絶対に負けないんだから!








 ──ティトルーズ暦二十六年、十八のルビー。


 血濡れのベヒモスが倒れ、草木が揺れる。


「……ふう」

 肩の力が抜けると、大剣の切先が自然と下を向いた。


 この頃は確か例の力を使わずにってみたが、全然余裕だったんだよな。まあ、あの時はアリスを助けるためだけに使ったようなもんだし。

 いつものように骨の一部を引き抜くと、血を振り払って袋に放り込む。


 直後、例の耳が痛くなるような声が後ろから聞こえてきた。



「そこのあなた!!!!」



 ……相手にすると面倒だし、放っておこう。

 しかし俺が無視していると、彼女が腕を掴んできた。


「お待ちなさいって言ってるでしょ?!」

「うっせえな、俺は忙しいんだよ!」


 俺が腕を振り払ってもなお、アリスは睨みつけてくる。そんな彼女の格好は、黄金の鎧に天使のような四枚翼──と先日同様開花時の状態だ。俺の大事なモノを踏み潰した女がいったい何の用だと云うのだろう。


「私と勝負しなさい!」

「はぁ??」


 俺に向かってビシッと指差し、身勝手な宣戦布告をするアリス。俺が彼女を避けようとしても、いちいち立ち塞がる以上断念せざるを得なかった。


「トチ狂った女を相手にするほど俺は暇じゃない」

「ダ・メ・ですわ!!」


「わーかったよ。手加減してや──」

「勿論、本気で来てくださいね! 恨みっこ無しですから!!」


 アリスが鬼気迫った顔を近づけてくる。この厄介天使?をめとるヤツが何処にいるものか──甚だ疑わずにはいられなかったのは内緒だ。


「腕もげたって知らねーからな」


 適当に彼女と間合いを取り、力を解放する。

 その一方でアリスは杖を具現化させた後、の中心を両手で掴んでから大きく回す事でくうを切った。それから片手に持ち替えて勢いよく振り下ろした後、石突で地面を強く叩きつける。


 そして彼女は杖を突き出し、青白い光を溜め込んだ!


「先手必勝ですわ!」


 光が収束した矢先、無数の光弾が真っ直ぐに飛び交う。『妙な言葉遣いだなぁ』と思わなくもないが、油断すれば以前のベヒモスと同じ目に遭うだろう。

 ──と思ったが、随分と遅く見えるものだ。どれくらい遅いかと云うと、素人がボールを投げるくらいには遅い。隙間を掻い潜れば、当たる事は無さそうだ。


 回避を繰り返した末、無事アリスに接近。

 とりあえずこの爪で横に薙ぎ払ってみるが──


「させませんっ!!」


 彼女が自身を覆うほどの盾を召喚。俺の爪は盾の表面を抉るだけに留まり、本人を傷つけるには至らなかった。


「それを使えば凌げただろ? まさか、内心は俺に助けを求めてたとか?」

「あ、あれは……その……!」


 精神の乱れか、霊力が弱まっている。たちまち盾に亀裂が走った今、追い打ちを掛ければ破れそうだ。

 爪でもう一振り。すると今度こそ粉々に砕け散り、ついにアリスが焦慮を見せた。


「わーっ! こ、こんなんじゃ……!」

「その辺で諦めたらどうだ? でねえと、マジで怪我をするぞ」

「……いいえ、まだまだですわ!!」


 彼女が声を張り上げ、バックステップする事で間合いを取る。両手で杖を掴んだまま俺を見据えた後、水晶色の瞳が一瞬光ったような気がした。


捕捉ブロッカ!」


 何をする気か予想が付かぬままだ。

 アリスは俺を睨んだと思いきや、翼を光らせて杖を振り上げた!


解放ティーラ!!」


 流星群の如く、翡翠色に輝く光の筋たち。なだらかに曲線を描いた末、容赦なく迫りくる。


 大丈夫だ、こんなの避けちまえば──!

 俺が動こうとした刹那、その考えは光によって貫かれた。


「うあぁぁああ!!!!」


 言葉にできぬ程の激痛が全身に襲い掛かる。

 無論、俺への追撃は止まないようだ。彼女が杖を水平に掲げると、一条の巨大な槍が中空に浮かび上がる。


 だがその槍を目視した直後、既視感が脳裏をよぎった。


「槍……そうか……」


 俺は思い出したのだ。アリスのそれとほぼ同じものを打ち出せる──と。

 此処で出さない方が愚かだ。痛みを堪えて立ち上がると、俺もまた片手を掲げる。すると赤黒いオーラに包まれた槍が手中に収まったのだ。大きさはアリスが出したものに近く、人間が貫かれたらあっという間にバラバラになるだろう。一瞬、彼女が目を見開かせたように見えたのは、決して気のせいではない。


『本気を出せ』と要求してきたのはそっちだ。

 お望み通り、打ち砕いてやるぜ!!


「喰らいなさい!!」


 真摯な表情に戻るアリス。

 俺も同じように手を振り下ろすと、各々の槍が飛ぶ瞬間は偶然にも重なった。


 鼓膜が破れる程の爆発音と共に眩い光が漏れる。二条の槍は魔族おれ神族かのじょの間で粉砕され、無と化した。


「うっ!」

 僅かな沈黙が流れた後、アリスが突如よろめき出す。おそらくは霊力の使いすぎだろう。まだ魔力が有り余る俺はこれを好機と捉え、反撃に移る。


「『恨みっこ無し』──そういう約束だったろ?」


 眼前に展開された魔法陣から一筋の閃光が差し込み、アリスを撃ち抜く。彼女は既に回避する余裕が無いようで、いとも容易く身を焦がされた。


「あぁああ!!」

「それだけではないぜ」


 魔力を更に注ぎ込むと、閃光は視界全てを埋まる程に膨張して大地が揺れる。神族が魔族の魔法を喰らえばどうなるか──それは、アリスの反応を見れば一目瞭然だ。


「きゃぁぁぁああああああぁぁぁあああ!!!!!!」


 こく魔法は彼女の装甲を剥がし、翼から幾つもの羽根をむしり取っていく。露わとなった雪肌にも紅い亀裂が走り、ついに血を吐いて前に倒れたのだ。


「ぐはぁあ!!」

「勝負はついたな」


 俺は攻撃を止め、元の姿に戻る。アリスに近づいて煽ろうとした矢先、彼女は片腕を押さえながら上体を起こした。装甲や衣服が破損してもなお、瞳には未だ生気が込められている。


「私は……まだ!」

「諦めろ。今度こそお前は死ぬぞ」

「どうせあなた、私を玩具にする気でしょ!? でしたら、此処で殺しなさいっ!」


「おいおい、喧嘩を吹っ掛けてきたのはお前だろ。それに『あなた』ってあたかも前例がある物言いだな?」

「あの人に似ていますのよ、その見た目も力も……声も!」


「あの人?」

「……ご存じ無いなら、結構ですわ」


「いや、教えろよ! 俺が気になって仕方ねえよ!」

「あなたの顔を見て、つい思い出してしまっただけです。きっと、とは違う存在なのにね……」


 どうもこいつには、俺に似た存在に嫌な思いをさせられたらしい。けれど言っている事が支離滅裂で、彼女が何を伝えたいのか判らずにいた。

 ただ言えるのは──『詮索すべきでは無い』と云う事。この頃の俺は乙女心センティメンティの『セ』の字すら無知ではあったが、本能が口にするのを止めたのである。


「いくら俺でも、傷だらけの女に手を出す趣味はない」

「……え?」


 おそらく覚悟を決めていたであろうアリスは、唖然としたまま俺を見上げる。

 ふと左手に視線を向けると、薬指の部分が微かに光った気がした。その正体は指輪であり、彼女が誰か──おそらく、前述した“ラウク”がそうだろう──と結婚している事を察する。


「もう俺に勝負を仕掛けるな」

「どうしてですの?」

「お前が弱いから」


 女と云えど、敗者に手を差し伸べる俺ではない。彼女に背を向け、ギルドの本拠地を目指して足を運ぶ。

 その時、頭の片隅で『彼女は最後までうるさい女』だと思っていたが──珍しくも吠える気配がなかった。








18th.Rub, A.T.26


 悔しーーーーーーーーーーーい!!!!!!! せっかく修行してきたのに、なんで勝てないの!!? どうしてあんなに強いの!?? 神族である私が魔族に負けるなんて絶対に絶対に絶対に絶対に絶っっっっっ対に許せない!!!!!!!


 ムカつくから今日はやけ食いよ!!!!! いいもん、食べた分はちゃんと動きますから!!!!


 ……思えば、意識の中で兄貴と戦う前にシェリーが追憶に苛まれていたよな。アリスと会った当時は『あの人』について聞き出せなかったが、まさか──。

 いや、今考えるのはよそう。シェリーはそれを思い出すだけで苦痛だろうし、マリア辺りに訊くのが良いかもしれん。


 閑話休題。俺に乱暴された以上、アリスはずっと俺を恨む事だろう。

 だが、眼下に記された内容によれば案外そうでもないらしい。


19th.Rub, A.T.26


 どうしてかしら。あんなのに負けて屈辱なのに、何もかもが頭から離れられない。おまけに、指輪とか私の事をじろじろ見てたのよ? ……まさか、あの人って変態?


 そうだとしたら、次会ったときにお説教ね! 勝負をさせてもらえないなら私が叱りつけるまでよ。そうすれば、あの性格が直るでしょ。


「……めんどくせえ女」

 俺は込み上がる照れを誤魔化すようにぼやいた。




(第三節へ)






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