騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
つきかげ御影

第五節 凍てついた街ウンディーネ

公開日時: 2021年11月15日(月) 12:00
文字数:4,232

※この節より先は残酷描写が含まれます。

 ティトルーズ城で泊まった翌日の午前。ロジャーにジェイミー、ヒイラギにヴァルカ、そして俺の五人はティトルーズ城の屋上で集まった。そこには既に花姫フィオラたちや巫女部隊の姿もあり、中心にある巨大な竜が俺らを見下ろす。朱色の鱗に身を包む彼は“サラマンドラ”と呼ばれる火竜だ。おそらくは、動乱期に暴走したそれと同じ存在だろう。


「おはよう。もう準備はできてる?」

「ああ、よく寝れたさ」


 本当はシェリーの事がずっと気掛かりだった。けど、ジェイミーが励ましてくれたのもあってぐっすり眠れた。六時間も睡眠時間を確保できれば、俺は本領発揮できる。

 ……のは良いが、隣に立つジェイミーの恰好は実に妙だ。幅広の黒いパーカーには中心に海を大きく描き、裾の長い白シャツが垣間見える。カーキに染まったズボンは少しめで、ベルト部分から銀のチェーンを垂らしている。なら流石に足元は防具で覆ってる──と言いたいが、これまたビビッドな色が利いた運動靴だ。果たしてこいつはやる気あるのか?


「あのなあ、遊びに行くワケじゃねえんだぞ」

「これでも俺様はガチだっての!」

「説得力ねえから!」

「まあいいじゃねぇか! 遊びだろうがガチだろうが勝ちゃ良いんだよォ!!」


 この男があり得んくらいに強いのは知ってるが、まさかこれが戦闘服とはな……。思えばエンデ鉱山の時も遊びに行くような恰好だったし、もう突っ込むのはよそう。

 ちなみに口を挟んできたロジャーは、彼らしく軽装だ。どうやら背中に装着された蒸気機具で飛行するらしい。


「ちったぁ重いが、てめぇらの足を引っ張るわけにゃいかねえからな!」

「頼りにしてるぞ」


「無駄話してないで、とっとと乗るぞ」

「搭乗準備、完了」


 俺に話し掛けるヒイラギとヴァルカも、状況に適した服装だ。まずヒイラギは袴で身を包み、胸と右肩を鎧で覆っている。これは、エレと一緒に薬草を取りに行った時と同じ格好だ。あの時は幸い魔物と戦わなかったが……。

 次にヴァルカは、上半身を包む鎧にひざ丈までのフレアスカートという出で立ちだ。鎧が白銀である事を除けば、まるで花姫の戦闘服に酷似している。もしかすると、彼女らを参考にしたのかもしれないな。


 さて、ヒイラギの言う通りそろそろ乗ろう。俺は先頭、ジェイミーは俺らに背を向ける形で後方に座る。間にはロジャーがいるし、空を飛び交う魔物たちを難なく殲滅できるだろう。

 サラマンドラは轟雷のような声を上げ、双翼を翻す。俺たちは残る者たちに向かって手を振ると、アルタ川が流れる西方面へ向かった。




 アルタ川を辿れば、海岸沿いの街が見えてくる。この場所こそがせいの都ウンディーネだ。

 ……が。堤防を超えると、そこは氷の世界。運河も、横へ連なる細長い家々も、全てが凍り付いているのだ。本来なら、建物の殆どが秋色で構成される。しかし今では何もかもが白く、屋根から氷柱が降りそうな程の寒さだ。隙間なく設置された窓の向こう側に、人はいるのだろうか。


 辺りを見回していると、ヒイラギを皮切りに一同で会話を始める。


「随分と派手にやったな。天気さえ良けりゃ本拠地が見えるんだが……」

「旧ルーセ城の事か。距離はそこそこあるが、行けなくはない」

「しかし、開門には五大元素のオーブが必須。残るはせいよう、計二個です」


「清の神殿って海底にあんだろ? 霊術使いがいねえのに、どうやって行くんだい?」

「海を護る神様にお願いすれば行けんじゃね? えっと、なんて名前だっけ? が、が……」


「“ガニメデ”な。亀の姿をした幻獣だよ」

「それだ! グラッツェ~」


 他の神殿が地上にあるのに対し、清の神殿だけは例外だ。本来なら神族シェリーと一緒に向かいたいところだが、あいにく彼女は行方不明。この街の問題を解決した後は、幻獣ガニメデに乗せてもらう必要がある。神の加護があるうちは、地上にいる時のように呼吸ができるのだ。


 彼らが今後について話してくれた事で、俺も今一度整理できた。

 だが直後、向かいから竜の群れが急速に飛んでくる。彼らは咆哮を上げ、たちまち俺たちを囲い込んできた。


 白縹しろはなだ色の鱗で覆われた竜──アイス・サラマンドラ。しかしその全長はたったの三メートル弱しか及ばない事から、幼少と思われる。

 うち一体は口元を光らせ、冷気を溜める。間髪入れずに青い炎をこちらに撒いてきたが、ジェイミーのえん魔法によってあっさりと無にされた。


「《頼む、サラマンドラ。奴らを燃やしてくれ!》」


 ジェイミーは、幻獣に判る言語でサラマンドラに指示。すると火竜は首を上げ、急上昇をしてみせた。彼に跨る俺たちは思わず落ちそうになるが、身体を掴む事で何とか凌げている。


──ゴォォオオォォオオオ!!!!

 吹き荒れる風は氷竜ひょうりゅうどもの体勢を崩し、熱気を帯びる炎は円を描いて鱗を溶かす。氷竜は悲鳴を上げ、次々と森の中へ落下してしまった。


 火竜はそのまま飛行速度を上げ、都へ直進。地上からは鋭利な何かがせわしなく飛んでくる。その正体は、銀月軍団シルバームーンの兵士が放つ矢だった。


「邪魔だっつの!!」


 ジェイミーが特大の竜巻を起こした事で、大量の矢が巻き込まれる。矢は中空で幾度も弧を描いた後、矢じりを弓兵たちに向けて発射された。黒鉄色くろがねいろの鎧を射抜かれた事で、地上から男の呻き声が鼓膜を掠める。


「よし、飛び降りるぞ!!」

「良いぜェ!! おりゃああああ!!!」


 俺の指示に合わせ、誰もが火竜から一斉に飛び降りた。俺は一回転する間、大剣に持ち替える。その一方で、四方からは矢を弾く音がけたたましく聞こえてきた。


「よっ……と!」


 幸いにも、俺たちは街の広場と思しき場所に着地する。中心には城下町フィオーレのように噴水が配置されているが、凍っているせいでどんな石像があるのか判らない。

 それよりも、今は兵士を倒す方が先決だ。俺たちに向かって突進する奴らの他、屋根や高台・バルコニーから銃を構える者までいる。……まずは目の前の連中からだな。


「どっからでもかかってこい! 手加減は無しだぜ?」

「「うぉぉぉぉおおぉぉおおおおぉおお!!!!!」」


 兵士どもが雄叫びと共に剣を振り上げる。だが、俺に躱される事でどの攻撃も空振りだ。

 彼らが隙を見せる刹那、大剣を横に払い肉を断つ。首や腕など、あらゆる人形ひとがたのパーツが弾け、雄叫びはたちまち悲鳴に変わった。


「もう女の尻に敷かれるのはごめんだ。消えろ、偽善ぶった悪魔め!!」


 残る兵士は俺を睨み、傷み切った剣で挑む。俺は背後に回って彼の胴体を切断。下半身を断たれた男は助けを求めるも、同士たちに踏まれて惨めな末路を辿った。


 左方向から感じる気配──銃兵だ。俺が振り返る瞬間、屋根に立つ兵士が大型の銃を乱射させる。銃弾が絶え間なく放たれる一方、剣身で身を護る事に専念した。

 だが──。


「とっととくたばれ! この羊頭が!!」


 剣で銃弾を受け止める最中さなか、背後から気迫が襲い掛かってくる。こうなりゃ刺される覚悟を──


「うぉあ……!」

「てめぇの背中、オレに預けな」


 後ろに立つ者が誰か、もう振り向かなくても判る。加えて俺を狙う銃兵は、誰かに命を絶たれたようだ。


「楽してうちらを殺せると思ったら大間違いだ」


 宙を舞う、褐色肌のダークエルフ。既に魔族の力を解放しているヒイラギは弓を構え、片っ端から銃兵たちを撃墜していく。勿論、それで退く彼らでは無かった。


「この裏切り者どもがぁ!!!」


 決死の思いをぶつけるように、残る銃兵たちが高所から大きく跳躍。中には手榴弾を投げ飛ばす者もいたが、ヒイラギの矢によって不発に終わった。


「ふっ、いかにも弱者って感じだな」


 彼女が弓を射た瞬間、一本の矢は複数に分裂。それらは弧を描いた末、兵士たちの頭や顔を撃ち抜いていった。


「ぐあぁぁぁぁあ!!!」

「銀月軍団に、栄光……あれ!」


 空を舞う銃兵たちが地に落ち、血だまりを広げていく。ふとヴァルカの方を見れば、彼女は兵士たちに包囲された状態だ。

 だが、何故かその状況を見ても不安が沸き上がらなかった。それは、彼女が直ちに放ったげつ魔法のおかげだろう。


「殲滅」


 彼女が淡々と武器を構え、虚空から複数の紅い刃を現す。三日月を描くように兵士らの身体を抉った末、ハルバードで一閃。表情一つ変えぬ様は、まさに殺戮兵器──もし彼女が今もジャックのもとにいれば、ますます恐ろしい存在だっただろう。


 ヴァルカの手により、最後の兵士たちもついにたおれる。

 これでようやく探索に──と思ったが、今度は紺碧色の髪を揺らす女が上空から現れた。それも、活力の無い拍手を添えて。


「うふふ。ただ女を率いるだけの男ではありませんのね、アレックスさん」


 ……やはり、見た目も話し方もシェリーを想起させる。目の前にいる女はあいつの鏡映しドッペルゲンガー。それなのに、背筋がゾクッとするのは何故だ……?

 彼女は中空で座り、不敵な笑みを浮かべるのみ。俺たちがもう一度戦闘態勢に移ると、高らかにこう叫んだ。


「さあ、出てきなさい! 徹底的に凍らすのよ!」


 俺たちの前に、複数の黒い魔法陣が石畳に浮かび上がる。そこから現れたのは、小人ドワーフに似た清の魔物フロスティだった。


「ひゅうう、さみぃねェ!」


 彼らは木製の杖を構え、一斉に白い霧を射出。刺々しい冷気が俺たちを襲うも、一人の影が霧へ突進しだした!


「へへ、俺様を止めてみな!!」


 身体にえんの氣を纏い、踊るようにフロスティの群れへ突っ込むジェイミー。流石の奴らも想像つかなかったのか、唖然として魔法を弱めてしまったようだ。その隙に彼は魔物たちを殴打。本当に、こいつが動いたらあっという間に終わるよな……。

 ジェイミーは倒れるフロスティの前で手をはたいた後、勝ち誇るような視線をシェリーに送る。


「で? これがどうかしたの?」

「くっ、まさかこの男が来るなんて……止むを得ませんわ」


 シェリーは海岸の方を向き、何やらボソボソと呟く。直後、彼女の言葉に共鳴するように、激しい縦揺れが俺たちを襲った。


「おおおお!!? 何が起こってんでい!?」

「幻獣の存在を検知。あと十秒で海岸へ接近するでしょう」

「まさか! さっきヴァンツォが話してたヤツじゃ……!?」

「とにかく行くぞ!!」


 俺たちが海岸へ飛行する中、ロジャーは機具を用いて後から追いかける。

 そして──


「おい!? これマジヤバじゃねえの!?」

「あっはははははは! あなた達は此処で果てる運命でしてよ!」


 ジェイミーが捉えたものは、海上に佇む巨大な獣。

 厳かな風格は失われ、今では銀月軍団の兵器として変わり果ててしまった。



 そう──彼こそがGanymedeガニメデ

 ティトルーズの海を護る、清の幻獣だ。




(第六節へ)






読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート