騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
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第十二章 ティトルーズ城動乱

Sh. 囚われの人形

公開日時: 2021年7月9日(金) 12:00
文字数:1,188

※この章より先は残酷描写が含まれます。

 あれからどれ程の時が過ぎたのだろう。


 錆びた壁が私の背を冷やし、繋がれた鎖が身体を縛り付ける。

 あの男に恥を晒された私は、狭い部屋でひとり扉を見つめた。


 扉の微かな隙間に張り巡らされた格子。鎧で覆われた者たちが幾度も行き来するも、誰もがその扉を開けようとしなかった。

 ううん──違う。正確に言えば、彼らは好奇な目を私に向けるだけで、助ける気も無い。それどころか、舐めるように私を覗き込んでくるの。


 嗚呼、身も心もあの人に捧げたはずなのに──何故、このような目に?


 お願い、アレックスさん……。

 早く私を助けて。


 今の私は、生きる事も死ぬ事も赦されない。

 もう、痛みなんて感じたくないの。


 前世むかしもそうだった。彼の父も、私が抵抗をやめるまで何度も傷めつけた。

 今度は子になぶられ、“罰”を口実に良いようにされてしまう。


 私の身体にを刻まれてから、全てが変わった気がする。その正体を彼が明かす事なんて無い。つまり、普通に生きてみないと判らないという事──。


 ねえ、皆はどうしてる? マリアは? お父さんに、お母さんは……?


『──て』


 誰かの、意識こえ……? これはきっと、あの子の意識だ。

 彼女が泣いている。助けを求めて泣いている。


 けれど──精神を研ぎ澄ました刹那、稲妻が全身を駆け巡った。


「ぅあ、がぁああ……!!」


 ダメ、ここで諦めちゃ……!

 大丈夫、すぐに終わらせてしまえば……!!



『ねえ……誰か助けてよ……』



 安心して。今から私が……解き放ってあげる。

 だから、もう泣かないで。


 君の痛み、私が受け止めてあげるから……!


「……くっ……!!」


 私の霊力ちからよ、呪縛を解いて。

 大切な友達を──どうか暗闇から救い出して。


『……シェリー?』


 屈辱が、苦痛が──身体に入り込んでくる。

 あの子は、私のためにどんな苦しみも引き受けてくれた。


 だから、今度は私の番なの──!


「う、」


 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。

 あなたの本性なんか知りたくなかった。



 あなたに惚れた私が、間違いだった──!



 彼女の記憶は吐き気を催し、ついに共鳴を床へ撒いてしまう。

 カビの臭いと相まって、私の意識は再び朦朧としだした。


 最後にあの子がなんて言ってたのか、わからない。

 ただ判るのは──とうとう彼に知られてしまった事だけ。


 蛇の目には、囚われている私が映り込んだ。



「俺が見張らねばなるまいか」



 目の前に立つのは、この身を初めて捧げた男。

 私を捕らえ、傷めつけた張本人でもあった。


「……あなたにどうされようと、私は……!!」

「あれだけの処罰を受けてもなお、無駄口を叩くか。……ならば」


 彼が懐から取り出したのは、三本の針。指の間に挟まれたそれはいずれも鋭く、用途を考えるだけで尊厳が漏れそうだった。



「安心しろ、貴様の傷は俺が癒やす。これも遊戯のうちだ」



 その後、私は断末魔と享楽の間を幾度も彷徨う。

 漆黒の紳士服が穢れてもなお、彼の人形として在らねばならなかった──。




(第一節へ)






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