騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
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第十八章 無情に啼く獣たち 〜樹神ウェンティーヌ〜

第一節 空中戦

公開日時: 2021年10月5日(火) 12:00
文字数:3,320

【前章のあらすじ】

 アレックスがヴァルカと外出した後、アルタ街にて魔物が出没。純真な花ピュア・ブロッサムが魔物を討伐すると、ジャックと共にある獣人が現れる。それは、かつて転移事故で下肢を失った不死の獅子アーサーだった。銀月軍団シルバームーン花姫フィオラの動きを封じたのち、エレの声帯を強奪。その後、副メイド長クロエの潜入調査により、じゅの神殿にて亡霊が存在する事が判明した。

 また、アーサーとの戦いで負傷したアイリーンとアンナは、マリアより出撃の停止を命じられる。エレもその一人のはずが、彼女の強い意志により妹ヒイラギと共に出撃する事となった。


 吟遊詩人から声を奪った理由とは。そして彼女は声を取り戻せるか。美しき花々に、新たな暗雲が訪れる。

 いよいよじゅの神殿に向かう日。雲で覆い尽くされた空の下、ティトルーズ城の屋上に着くと少女たちは既に待ってくれていた。今日はアンナとアイリーンがいない代わりに、ヒイラギも助力してくれる。彼女と共に戦うのは、フィオーレ動乱事件以来だろう。エレもまた獅子男アーサーによって負傷した一人だが、変わらず援護に回ってくれるそうだ。


 普段なら石レンガの上に設置された転移装置を用いるが、今回はその隣に佇む怪鳥グリフォンに乗ることとなる。彼を囲うのは複数人の巫女部隊。乳白色のオーブを纏う女性たちは、誰もが真剣な表情で俺たちを見つめていた。

 そのうちの一人である少女は俺に近づき、穏やかな声と共に手で怪鳥を指す。


「隊長様、どうぞ此方へお乗りくださいませ」

「おう。わざわざありがとな」

「とんでもございません。我々は常に陛下たちのお傍におります」


 彼女がお辞儀をするのと同時に、他の巫女たちも一礼する。ここでマリアも「ありがとう」と一言告げたあと、怪鳥の広い背に乗った。ちょうどシェリーが俺の隣に乗ろうとするので手を貸してやる。


「ここは私とマリアにお任せ下さい。後方はベレさんにお願いしてありますわ」

「それなら俺はエレちゃんを守ろう。しかし、ヒイラギちゃん一人で大丈夫なのか?」

「うちの弓から逃れたヤツはいない。姉貴には指一本触れさせないさ」


 ヒイラギの低い声が後ろから聞こえてくる。俺やエレ達と背中を合わせる彼女は、きっと自信に満ちていることだろう。


「さて、そろそろ行くわよ。みんな、準備は良い?」

「ああ」

 誰もが声を揃えたあと、マリアは息を大きく吸って声を張り上げる。


飛べヴォラーレ!!」


――キエェェェエェ!!!!!

 女王の号令と共に、鶯茶うぐいすちゃの両翼が上下する。怪鳥の咆哮は俺たちの髪と服を揺らすだけでなく、奥の森に棲む鳥たちを一斉に羽ばたかせた。


 離陸の瞬間、怪鳥の身体が徐々に宙を浮く。腹の底から感じる重力は、緊張感と高揚感を同時にもたらした。誰もが開花しているからか、唯一隊員では無いヒイラギも既に真の姿に変身。褐色の肢体を包む煽情的な衣装は、本能を微かに揺さぶってくる。そこで俺は景色に視線を移し、辺りを見張る事にした。


 ついに俺たちは城を離れ、街や森・山を通過していく。肌がより冷たい空気に晒されるが、戦えばすぐに身体が温まるだろう。


「このまま東に向かうわよ。いつでも迎撃できるようにしなさい」


 東といえばリヴィやあずまの国があるが、樹の神殿はその近くに存在する。周辺にある風の町ウェンティーヌについては、討伐後に向かうようだ。

 そんな中、シェリーがマリアに話しかける。


「ウェンティーヌって確か、『自然と共存する町』だったよね」

「ええ。一応電気魔力は通ってるけど、蒸気はまだ通ってないのよね。……むしろ、『通す予定が無い』と言った方が正しいのかも」


「ヴィンセント程じゃないが、あそこはなかなか受け入れないだろうな。魔力を通すだけでも荒れたって言うぐらいだし」

「そうね。おじい様とパパからは『交渉するのに大変だった』と聞くわ」

「ああいう場所も落ち着くっちゃ落ち着くが、旅行ぐらいがちょうど良いだろうな」


 マリアと話したように、あの町の住民はあまり機械を好まない。電気の使用は灯りや交通手段・ラジオと必要最低限に留まっていて、あとは天に身を任せるしかないのだ。蓄音機とか娯楽モノはまあないワケじゃないが……大体は大通りに行かないと入手できない。

 風の町について会話をしていると、ヒイラギの言葉で現実に引き戻される。


「おいマリア、さっそく追手が来たぞ」

「何ですって!?」


 背後で十数体の魔物が飛行する一方、彼女は既に片膝をついて大弓を構えていた。蝙蝠の翼を生やした彼らは、おそらく眼下の森林から来たと思われる。


「俺は至近距離で来たヤツを叩き切ろう」

「よろしく頼む。……たぁっ!!」


 ヒイラギは、一本の大きな矢が放つ。直後、魔物のいる数だけ一気に分裂し、奴らの頭をことごとく打ち抜いた。肉片が飛び散り、次々と樹海へ落下していく。


 同時に、俺は左側から何かが迫るのを予感していた。それも迅速に──!

 とうとう肩まで迫ってきたとき、反射的に長剣を振り下ろす!


「はっ!!」


──グシュッ!

 歓迎を受けたのは、インクのような黒い肌を持つ魔物“グレムリン”だ。そいつはゴブリンのように醜い顔をしているが、身体は至って細い。いくら空は飛べると云えども、何らかの衝撃を受けたら簡単に吹き飛んでしまうようだ。


「マリア! 今度は前方から来るよ!」

「あたしは前とエレの近くをカバーするわ。シェリーとアレックスはその逆をお願い!」

「おうよ!」


 敵が群れを為すのも把握済みだ。グレムリンが全方位から襲い掛かる中、シェリーはショットガン型の魔力変換銃を唸らせ、横に並ぶ魔物たちを一斉に撃ち落とす。


「倒しきれないときは突っ切るわよ。雷霧トゥオビア!!」


 俺たちの後ろで、マリアが電気を帯びた霧を撒き散らしたようだ。シェリーやヒイラギも狙いを的確に定めているが、俺が手を休めて良い理由にはならない。時に急接近してくるグレムリンに対し、剣を振り下ろしていった。

 しかし、これではいくら倒してもキリがない。そこで俺は、マリアに一つ提案をしてみる。


「結界を張ってくれねえか?」

「ちょうどやるところよ! みんな捕まって! あいつらもそろそろ魔法を使ってくるわ!」


 マリアはそう言って怪鳥を囲うように結界を張る。グレムリンたちが炎や氷など各々の魔法を放つが、タイミングが遅かったようだ。結界に弾かれてバチバチと火花を散らすも、壊れる様子が無い。

 誰もが屈み、グリフォンの背にしがみつく。無論俺も右手をエレの肩に回しつつ、厚みのある羽毛に顔を埋めた。


「《グリフォンよ、あなたの翼で奴らを吹き飛ばして!》」


──キェァァァァアア!!!!

 再びグリフォンの咆哮が轟いた直後、呼吸ができない程の重力が働く! 本当に掴まってねえと落っこちてしまいそ──


「きゃあぁぁああ!!!」

 ヒイラギの悲鳴が響き渡ったとき、予感が的中した。ここは俺が助けに行こう!


「エレ、しっかり掴まってろ!」

 赤いリボンを揺らすエルフにそう声を掛けると、彼女は恐怖に耐えながら頷く。そして俺はすぐさま身体を後ろに向けて手を伸ばすと、褐色に染まった手が握りしめてきた。


「離すなよ!」

「ぐ……っ!」

 歯を食いしばり、ヒイラギの身体を一気に引き上げる。彼女が再びグリフォンに跨ることで無事助け出すことに成功した。


「すまんな……危うく落ちるとこだった」

「良いさ。この中で落ちれば、奴らの餌食だからな」


 何とか逃げ切れたのか、グリフォンは速度を落として空を羽ばたいている。ふと正面を見てみれば、木造の家や店が並び立つ町へ辿り着こうとしていた。それはフィオーレや焔の都フラカーニャと違ったおもむきだが、今はそこに視線を向ける時ではない。


「あれが風の町ウェンティーヌ、ですわね」

「ええ。あの先に遺跡が見えるでしょ。もうすぐ神殿に着くから、そろそろ降りる準備をなさい」


 生い茂る森に囲まれる、石造の遺跡。此処が今回の目的地であり、亡霊たちが待ち構えているようだ。冷風が運んでくる湿気は、かつては違う国の所有地であった事を物語る。

 やがて少しひらけた平地が近づくと、俺とヒイラギは一斉に飛び降りる。その際花姫フィオラたちは翼を展開させたため、着地が俺とヒイラギより少し遅かった。


 その建物は、石で粗削りされたようなアンバランスな外観。これまでの神殿と違って天井は大きく欠けており、何らかの紛争や天災に巻き込まれた証かもしれない。今は木々の大半が暖色に染まっているが、こちらは所々で緑葉も存在する。土地の有り様を大事にしているからか、空気がとても新鮮だ。


「グリフォンに乗ると、こんなにも早いのですね」


 シェリーが話すと、エレが相槌を打つ。姉の着地に気づいたヒイラギは、「大丈夫だったか?」と尋ねて身を案じていた。気を引き締めるという意味を込めて、俺もエレに話しかける。


「苦しいと思うが、『長くは続かない』と信じるんだ。何かあったときは、俺たちが必ず助ける」


 俺が肩に手を添えると、彼女は澄み切った翠の瞳でこちらを見つめる。

 その眼差しは声を失う前と同じ輝きを放っており、俺の心に潤いを与えるのだった。




(第二節へ)






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