騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
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神語り 美人エルフ姉妹、秋の祭典へ《下》

公開日時: 2021年9月9日(木) 12:00
文字数:3,913

【前回のあらすじ】

 エレとヒイラギは、アレックスを秋の祭典に誘う。しかし『ジェイミーと一緒に行くから』と断られたため、ステファンと共に酒と肴を頬張ることに。

 美しき姉妹を見て、彼は何を思うか。名も無き神が奏でる間奏曲インタールードは、いよいよ終盤へと向かう。

 偶然か必然か、三人分の丸テーブルが目の前で空いた。エレ達はそこに腰掛けるが、テーブルが小さいゆえミントの香りが漂う。布製の大きな屋根の下、ステファンの興奮はピークに達そうとしていた。


「姉貴……じゃなくて姉様にステファン様。乾杯いたしましょう」

「「乾杯サルーテ!」」


 ヒイラギは慌てて言い換え、ビールジョッキを握り締める。グラスを打ち付け合うと、誰もがジョッキの縁にキスをした。

 黒い液は一同の喉を通り、苦味が全身を駆け巡る。そして彼らは、ほぼ同時に美味の息を漏らした。


「かぁーー!! うめえな!」

「ベレ、言葉が乱れてるわよ」

「うーん! やっぱ外で飲むビールは最高っすね!」


 早速フォークを手に取り、眼前の肴を捉えるエレ達。紙皿に載っているのは、様々な種類のソーセージとハンバーグ。ステファンは平らな肉塊を小皿に載せ、フォークの側面で裂く。赤身が垣間見え、肉汁が滝のように溢れるその光景に、彼は唾液を飲み込んだ。


「とても美味うますぎますわぁ」

「ええ! 行列ができるのも納得よね」


 ヒイラギは白いウィンナーを、エレはハンバーグを頬張る。この時、ヒイラギの脳内である考えが思い浮かぶ。


純真な花ピュア・ブロッサムの奴らとバーベキューも悪くない。もちろん、就寝中のヴァンツォを襲ってな……ふふふ)


「どうしたの、ベレ? 顔がにやけてるわよ」

「こっちの話だ。それよりステファン、あんまり飲んでないじゃないか」


「えっ、そんなに飲んだんすか!?」

「ビールはうちらにとってソーダみたいなモンだからな、姉貴」


「そうね。ねえ、せっかくだからイイコトしましょ」

「ああ。うちもムラムラしてきたし」

「な、何が始まろうとしてるんだ!?」


 ステファンのジョッキに入ったビールはおおよそ五分の四といったところ。一方、エレとヒイラギのジョッキは早くも底尽きようとしていた。

 酔いが回った二人を止められる者など、この国には存在しない。ヒイラギが立ち上がった後、背後から腕を回してエレに密着。ヒイラギは姉のジョッキを持ち上げビールを口に含んだ後、そのまま唇を重ねるのだった。


「え……えええぇぇえぇぇええぇえええ!!!!!」


『なんだなんだ?』

『うっひょ〜! 美女二人がキスしてるぞぉ!』

『あそこで座ってる奴はどっちの彼氏なんだ?』

『あんな貧相なヤツ、ただのパシリだろ』


(なんで僕がそんな風に言われなきゃならないんだ……。でも気にするな! あいつらと違って、僕は特等席で見れる!!)


 周囲の煽りを受け、深いキスと共に触れ合う姉妹。互いは満足して唇を離すと、野次馬たちから謎の拍手と口笛が湧き上がった。

 野次馬が消え去ると、ヒイラギもまた席に着く。何事も無かったかのように残りのビールを飲み干すが、ステファンは己の獣を抑制するのに精一杯だ。


「どうするよぉ姉貴、もっと食ってもっと飲もうぜ?」

「そうね。ねえ、ステファン様。ベレと一緒に取ってきてくださらない?」

「了解っす! エレ様たちのご命令なら!」


 他人から『パシリ』と罵られ、傷ついた事を忘れるステファン。彼が勢いよく立ち上がると、ヒイラギと共に屋台をまわり始める。

 一方、エレの背後に佇む大柄な男に気づく者など、誰一人いなかった。



 ステファンとヒイラギが他店のビールと肴を購入した後のこと。彼らは、エレに近づく男の存在にようやく気づいた。しかし、肝心のエレは演奏中の管弦楽団を眺めるのみ。不安を覚えたステファンは、エレを助けるべく半歩踏み入れる。


「ヒイラギ様! エレ様の付近に男が──!」

「大丈夫だって。姉貴はあんたが思うより強いぞ」

「ですが……」


 男は徐々にエレに近づき、肩に触れようと手を伸ばす。

 しかし、全ては彼を油断させるための罠だった。


「ぐぎゃあぁあぁぁあ!!!!!!」


 エレに左足を踏みにじられた男は泣き叫ぶが、助けに来る者はいない。エレは彼を見遣る事もなく、楽団の方を眺めるのみ。

 男が涙を流しながら去り、ヒイラギは「ほらな」と誇らしげに言う。ヒイラギとステファンが持ち場に飲食物を置くと、エレが二人の存在に気づいた。


「エレ様! お待たせしやした」

「おかえりなのです!! なんて美味うま──いえ、美味しそうなのでしょう……!」


 エレも酔いが回り、本性が垣間見える。ステファンは一瞬首を傾げるが、『気の所為』と自己暗示して食べ物をテーブルに並べていく。


「姉貴、今日ぐらいは良いんじゃねえの?」

「何を言ってるのベレ。いつだってうちら──じゃなくて、わたくし達は上品でいなきゃ!」


 ステファンが密かに耳を傾けたとき、エレの声が普段よりやや低い事を悟る。一人称や口ぶりにも違和感を抱く彼だが、もはやどうする事もできない。

 それは妹も同様であった。


「ひ、ヒイラギ様!?」

「なあ、ステファン〜。今晩うちの家に泊まってけよぉ」


 ヒイラギがステファンに抱きつき、鼓膜に吐息を吹き掛けた。唐突の快感に襲われ、彼の短い悲鳴が裏返る。ステファンはヒイラギから離れようとするが、彼女の腕力と誘惑に逆らえずにいる。


「あの、ぼ、僕、初めてなんすけど……」

「ウソつけぇ。ホントはあんたもムラムラしてんだろぉ?」

「そうですよぉ。今晩だけですからぁ♡」


 エレまで身を乗り出し、姉妹揃って声に艶を込める。ステファンは彼女らの為に水を持ってこようと立ち上がるが──。


「おいおい、うちらから逃げる気かよぉ」

「そうだそうだぁ、まだこれからだろ?」

「お、落ち着いてください!! いま水を持ってきやすから!!」


 エレにまで腕を捕まれ、身動きを取れずにいる。必死に振り払おうとするが、計り知れぬ腕力が諦念を生んだ。

 仕方なくまた席に着くと、ヒイラギは自身の頭をステファンの肩に預ける。そして不可解な言葉が口から次々と漏れた。



「もうこのままさぁ~~~~※◆#×%*+□▼……すぅ」



 ヒイラギが突如無言になり、寝息を立てる。依然としてステファンが戸惑っていると、エレが妹を煽った。


「ベレったら寝ちゃうの~~~? じゃあ、ステファン様におぶってもらわなきゃだねぇ」

「ちょ、マジっすか!?」

「ほら、まだ残ってるだろ。あ〜んっ♡」


 左肩に圧力が掛かる中、エレはフォークで刺した生ハムをステファンに差し出す。先程まで興奮していた彼だったが、今は疲労の方が上回っているのは言うまでもない。




 秋の祭典を終え、彼らはエレ達の自宅へと向かう。


 ダークグリーンの屋根と赤白橡あかしろつるばみの壁で構成された家──ステファンはヒイラギをこの場所まで背負う事となった。細身の肉体で背負ったせいか、彼女を下ろす頃には力がほぼ残っていない状態だ。


「ぐえぇぇ、疲れた……」

「おいおい、女子をおぶってそりゃねえだろ?」


 意識が戻り、ステファンの肩に腕を回すヒイラギ。反射的に避けようとするが、今度は背後からエレがしがみつく。


「そうですよ? もっとクールにしなきゃ!」

「なあ姉貴、こいつを調教しようぜ?」


「ま、待ってくだせえ! “調教”ってなんすか!?」

「そのまんまの意味だよ。姉貴、そっち放すなよ!」

「はい! さあ、ステファン様。こちらにいらして……」

「‥…っ!」


 ステファンはエレの囁きに逆らえず、高揚を自覚する。疲労困憊である以上、抵抗する力は微塵も残っていなかった。

 ついに彼は部屋に連れ込まれ、ベッドの上で押し倒されてしまう。



「えぇええ、縛るんすか!?」

「当たりめえだよぉ。デリカシーの無い事を言ったんだから」

「うふふ。ま・ず・は〜」


「うわっ、やめ……」

「ステファン様ったら嬉しそうなのです。ベレ、どうしましょう?」

「まだ早い」


「痛い、痛いっす!!」

「大丈夫だ。じきに慣れるよ」

「耐えたらご褒美をあげるのです。さあ、お次は──」

「ひぃぃいいぃぃいいいぃいいい!!!」




 〜§〜




 暗闇の空に、一筋の光が射し込む。大きな寝台で眠るは、一人の男と二人の女。誰もが身を露わにし、心地よい夢を見ている事だろう。

 最も外側で眠るステファンは、瞼をこじ開け上体を起こす。真っ先に脳裏をよぎったのは享楽ではなく──困惑だった。


(あれ、なんで僕ここにいるんだっけ……?)


 一晩限りの刹那は痛みとして刻まれ、しかし何処か心地良いもの。ステファンの中で、ぼんやりと何かに目覚める予感が在った。

 しかし──左隣の女ヒイラギが瞼を開けた時、ステファンに悲痛な現実が待ち受けていた。



「…………は? なんであんたがここにいるんだ?」

「えっ!?」



 ヒイラギは、『見知らぬ男がいる』と疑うように眉をひそめる。その棘のある声音は、姉のエレを起こす事となった。


「うーん…………って、ステファン様!?」

「待ってくだせえ!! そもそも二人が僕を連行して──」


「んなことするわけないだろ! ほら、とっとと服着て帰れ!」

「そうなのです! 帰ってください!」

「ひぇぇええ!? なんで僕が!?」


 ヒイラギに蹴られ、寝台から転がり落ちるステファン。シーツを剥がされた時、エレの甲高い悲鳴が上がった。


「きゃーーーー!! えっちーーー!!」

「んな、理不尽っすよぉ!」



 昨晩、ステファンは酩酊状態のエルフ達に連れ去られ、奇怪な状況に追い込まれた。だが、酒乱の二人にそのような記憶は存在していない。服を着て家路に向かうステファンの背は、見えぬ神に哀愁を与えるのだった。








 ──それから数日後。


「姉貴、聞いてくれよ。ステファンのヤツ、うちに飯の誘いが来たぞ」

「あら、そんな事が。どんな店?」


「『ヒイラギ様を喜ばせたい』つって、高級店に連れてくんだってよ。ったく、パシリの癖に調子乗りやがって」

「その割には嬉しそうじゃない。もしかして、気になってる?」


「んなわけないだろ! 姉貴のバカ!」

「うふふ、照れてるわね」

「違うわ!!」


 果たしてステファンは、エルフ達の心を射止める事ができるのか? 双剣使いの恋物語は、まだまだ続く。






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