騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
つきかげ御影

第四節 残念な女王様

公開日時: 2021年1月25日(月) 12:00
文字数:2,525

 吸血獅子ヴァンレオーネを倒してから数日後のこと。陛下から『訓練に参加せよ』という御通達で城へ呼び出された。


 連れて行かれたのは、かつてお世話になった訓練場。ドーム状の空間はあらゆる状況を想定するためか天井は高く、声がよく通る。壁掛けの蝋燭ろうそくが広い室内を照らすおかげで、昼夜問わず見通しが大変いい。思えば、昔の仲間と一緒にトレーニングしたり、剣を交えたりしたっけな。

 しかし、今目の前にいるのはその昔の仲間なんかじゃない。つい最近に知り合ったばかりの、美しい銃士──シェリーだ。彼女は既に花姫フィオラと化していて、臨戦態勢といった様子である。


 訓練とはいえ、こうして対峙すると緊張感が増す。

 相手が仲間だとか女だとか些細な理由で手加減すれば、礼儀に反するのは明白だ。


「よろしくお願いします」


 向かいに立つシェリーは丁寧にお辞儀すると、すぐさま二つの拳銃を構えた。その眼差しは、実戦さながらの真剣ぶり。彼女なりの礼儀に応えるべく、俺も「こちらこそ」と片手を胸に当てて頭を深々と下げた。これがティトルーズ王国に務める騎士の挨拶だ。


 張り付めた空気の中、シェリーの息を吸う音だけが聞こえる。

 細い指先がトリガーを引いたとき、長剣を持つ自身の手が反射的に動いた。


「行きます! たぁああっ!」


 光弾の嵐!

 この魔法の弾……剣じゃ防げねえぞ。


 的確に避けつつ、徐々にシェリーの懐へ近づく。


 ところが、彼女は拳銃を握ったまま俺から離れた。

 頭目掛けて、しなやかな脚を高く浮かせる――!


 なんとかかわせたか。

 って、今度はハンドレールガンかよ!


 呼吸を整える間に銃口を光らせ――


「喰らいなさいっ!」


 レールガンから放出される、蒼の閃光!!

 いくら訓練とはいえ、もろに喰らったら洒落にならねえ。


 ひぇぇ。

 閃光が身体をかすめるも、なんとか傷を負わずに済んだ。


 シェリーの手元には、既に二丁拳銃がある。

 対応速すぎだろ……。いや、これぐらいでないと花姫は務まらないか。


 再び吹き荒れる光弾。

 何度でもかわしてやるぜっ!!


「えぇ!?」

「ほらよ」


 よし、相手はかなり焦ってるようだ。

 一歩、二歩と近づき……


「俺の勝ちだ」


 ようやく、彼女の喉元に剣を突きつけることができた。


「……参りましたわ」

 シェリーは心底悔しそうに変身を解く。これで戦闘終了と判断したので、俺も同じく剣を鞘に納めた。


「それでもさすが上位部隊だ。下手したらこっちは蜂の巣になってたとこだよ」

「これぐらい本気を出さないと、実戦ではもっと厳しくなりますから」


 実戦に近い緊張感を保つことで互いを鍛える。うん、訓練の基礎がしっかり身についているな。


「さて、もう少し付き合っていただきますわよ」

「構わん」


 身体がちょうど温まったところだ。

 俺たちはもう一度訓練を再開。剣と銃の交戦は、汗が流れるほど白熱した。




 訓練の終了を陛下に報告すべく、シェリーと共に庭へ。

 やれやれ。戦士でもある陛下は、指示だけして優雅に紅茶を嗜むってか。バラ園に置かれた丸テーブルが皮肉なくらいさまになっている。


 ……と思ったけど、俺の想像するティータイムとは随分違うぞ??

 テーブルにはケーキスタンドがなくて、在るのは白い陶磁器のティーセットだけだ。ぶっちゃけそこまでは良い。

 問題は、陛下の手元にある。どう見ても嗅ぎ煙草じゃないし、もっと危険なモノを吸ってるようだ。いかにも瞳にハートマークを浮かべそうな、恍惚って単語が似合う目つき。俺は真横で彼女を見ているというのに、どうやら気が付かないらしい。無論、シェリーも国王に対しゴミを見るような目を向けていた。


「あの……そろそろ返してくれない? アレックスさんが見てるんだけど」


 このフランクな言葉遣いは、幼馴染だから許される。陛下――と今後も呼ぼうと思ったけど、マリアでいいや――は麻袋の中から口元を離して俺を睨むと、よそ者を追い払うように片手を外側へ振った。


「スケベはとっとと消えなさい」

「は?」

「『消えなさい』って言ってるの!」

「なんで俺がキレられなきゃいけねえんだよ」

「はぁ~あ。せっかく良いところだったのに、あなたのせいで台無しだわ」

「いや知らんから。だいたい、危険な薬を取り締まってるヤツが何吸ってんだよ」


「知りたい? これはね、シェリーの……」

「わーーーーーー!!!!!」


 突如シェリーが叫び出し、俺の身体を勢いよく突き放してきた。つか、その力はどこから来てるんだよ……おかげで尻餅ついちゃったじゃねえか。

 ちなみに彼女は顔を赤らめたままマリアに抱き着いているが、何が起きてるのか未だわからずにいる。


「もう返してってば!! うあーーーーん、これじゃあ私が変態だって思われちゃうよーーー……」

「えっ? えええ??」

「隊長」


 ちょうど背後にいたアイリーンが手を差し伸べる。お言葉に甘えて立ち上がると、彼女は俺の耳元に近づいて衝撃的な真実を囁いてきた。


「袋の中身ですが、実は――――」

「…………マジで?」

「あーーー! アイリーンさん!! それだけは言わないでって約束したでしょ!!」


 涙を浮かべ、アイリーンに向かって叫ぶシェリー。だが、アイリーンは『何のことでしょう?』という風に首を傾げ、ぱちぱちとまばたきしてみせた。……このメイド長、なかなか黒いな。


「アレックスさん、このことは絶対忘れてくださいね!? でなかったら、今度こそあなたの身体に風穴を開けますわよ!!」

「あ……うん」


 物凄く必死さが伝わってくるので頷かざるを得ない。でも、アイリーンから真実を聞かされた以上は勝手に昂ってくるのだ。本人が脚を上げるときに『じっくり見れば良かった』とも。


 ところで、あんなヤツと結婚した皇配殿下は妻の嗜好を知ってるのか? それとも知ってて結婚してるのか? どのみち隊長の俺がティトルーズ王国の未来を憂いたことに変わりはないし、銀月軍団シルバームーンが暴れる理由も正直わからなくもない。


 まあ、今はここを離れよう。そのままシェリーに泣かれても困るし。


「邪魔みたいだから、そろそろおいとまするよ」

「本日もお疲れ様でした」

 一礼するアイリーンには、とりあえず「教えてくれてありがとう」と小声で言っておいた。


 なるほどね、あの二人ってそういう関係なのか。しかもシェリーは訓練中、ずっと――。

 魔物が来なければ、今日は最高の夜になりそうだ。




(第五節へ)





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