騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
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第十五章 操り機械人形 〜月神アルテミーデ〜

第一節 血濡れの帽子

公開日時: 2021年8月23日(月) 12:00
文字数:3,523

【前章のあらすじ】

 セレスティーン大聖堂にて解放されたシェリーだが、呪いである“背徳の紋章”を刻まれ、不死の存在として生きる事となる。それを受け大魔女から不死の薬を入手したアレックスだが、その願いは叶わなかった。

 その後満月によってシェリーが霊力を取り戻し、純真な花ピュア・ブロッサム銀月軍団シルバームーンへの反撃に出る。まずはげつの神殿に向かうべく、花姫フィオラたちはげつの都アルテミーデに辿り着くのだった。



※この節には残酷描写が含まれます。

 ──げつの都アルテミーデ。


 様々な花弁が飛び交う亜空間は、暫くして教会と思しき場所に辿り着く。天使たちを描いた天井に真鍮しんちゅうのシャンデリア、背後にはげつの女神アルテミーデの銅像がある。切れ長な目と波打つ髪が特徴的な彼女は、ドレスで肌を覆い祭壇を守るように佇む。万華鏡を彷彿させる床には、転移装置と同じ模様の魔法陣が描かれていた。


 俺たち純真な花ピュア・ブロッサムが魔法陣から離れると、マリアが玄関を指しながらこう言う。


「此処を出て少し歩けば街が見えるわ。早速魔物の情報がある事だし、巡回しつつ神殿に向かうわよ」


 俺たちは彼女の言葉に頷き、玄関までの距離を縮めていく。それから木製の二枚扉を俺が押し開けると、黄葉だらけの木々が出迎えてくれた。城下町フィオーレに居た時よりも重々しい曇り空で、いつ雨が降ってきてもおかしくない。


 さて、自分たちの現在地を確認すべく、振り返って教会の外観を眺めてみる。

 白すみれ色で塗りたくられた外壁と葵色あおいいろの尖塔は、月というエレメントを表しているのだろう。尖塔は中央部分が最も長く、小さいのが左右に三、四本ずつ並ぶ。玄関の真上にある時計によれば、まだ午前といったところだ。


 ……にしても、やはり少し冷えるな。北に位置しているからか、冷気が鎧の隙間に入り込む。


「ううっ、寒いのです……くしゅっ!」

「だ、大丈夫!?」

「はい、なんとか。ぶるぶる」


 エレが身体を縮こませたあと、可愛らしいくしゃみを放つ。隣のアンナが彼女の肩をさりげなく支える事で、エレは甘えるように寄り掛かった。

 一方、先頭を切って街中を歩くアイリーンは、マリアに魔物の情報を示すよう促す。


「陛下、魔物に関する詳細を」

「ギルドの情報によれば、この街にバンシーが歩き回ってるわ。だいぶ片付いたようだけど、神殿を押さえないと永遠に湧き出るわね」


「じゃあ、神殿に銀月軍団シルバームーンが棲み着いてるってこと?」尋ねるシェリー。

「オーブがルーセ城への鍵になってるんだから当然よ。彼らがこの街の中枢を占拠する事で瘴気が増しているもの


「つまり、あいつらがそこにいるだけで湧くって事か……。バンシーって確か死を報せる魔物だったよな?」

「正しくは魔物を呼び寄せる存在ね。女の子が泣きながら歩いているものだから、騙されてしまう大人もいるのよ」


「見た目が普通の女の子にそっくりだもんな」

「そういう事」


 暫く歩くと住宅街に出る。ビビッドカラーな壁と寒色の屋根が多いこの街は、まるで絵本から飛び出たようだ。

 等間隔で設置された街灯は、まだ昼だというのに周囲を淡く照らす。それに、慌てるように家路に向かう親子もいるのだ。門限というわけでは無さそうだが──。


『急いで急いで!』

『お母さん、雨の日は悪いお化けが出やすいってホント?』

『こないだ、また新聞に載ってたわよ。あなたと同い年の子が襲われそうになったって』


「子どもを狙う魔物……?」

「バンシーの声を聞いて寄ってたかったのでしょう。今回の魔物は、誰彼構わず狙うと聞くわ」


 アンナとマリアが話していた矢先、冷たい雫が頬に当たり、空から涙が溢れる。その涙はたちまちと音を立て、石畳の随所に水溜まりを作っていった。


「あっ! あちらは……!!」


 エレが突如大きな声を上げ、遠くの方を指差す。そこにいるのは先程の親子──のはずが、手前に一人の幼い女の子が立ち尽くしている。

 白金色の髪を引きずり、黒いワンピースを身に纏う彼女は何やら親子と話している様子。母親が膝を折って話しかける中、少女が大声で泣き喚いた。


「早速現れたわね……。隊長、援護を!」

「おうよ!」


 アイリーンと俺が親子の元へ駆けつける刹那、小さな群れが何処からともなく現れる。親子を囲うのは、ドワーフのように背が低く、赤い帽子を被った魔物たち。斧を持つ彼らを目の当たりにした瞬間、俺の背筋が凍りそうになった。


「あれは……レッドキャップか!」

「帽子を血で染める小人ドワーフね……やらせはしないっ!」


 あと一メートル。

 うち一体のレッドキャップが跳躍し、母親の頭上に斧を振り下ろそうとする──!



暗黒の重力ブコ・ネーロ!」



 親子の前に現れた虚空は、飛び交う小人と周囲の一体を闇へいざなう。残りの六体は俺たちの存在に気づき、板を引きずるような声を上げながら突進してきた。


 瞳は血のように赤く、鋭い牙と爪を持つレッドキャップ。

 眼前の敵は俺をつまづかせようとして、こちらが斬り掛かる直前に前方転回。くうを切る音が迫る中、振り向きざまに大剣を用いる事で斧が真っ二つとなった。


 ヤツは焦ったのか、転倒すると共に長靴が脱げてしまう。血痕だらけの靴が石畳に打ち付けられると、鉄の音が街中に響いた。


「隙あり!」

 尻餅をつき、怖気づくレッドキャップの身体を貫通。引き抜けば老いた顔から大量の血が溢れ、肉片が四方に飛び散った。


 残る二体をアイリーンが相手する一方、三体は花姫フィオラたちが応戦している。



 だが、アイリーンの援護に向かう瞬間。

 二体のレッドキャップが挟撃し、彼女の両腕を切り落とした。



「────!!」


 激痛の余り顔を歪め、絶句するアイリーン。

 衝撃的な光景を目撃し、思わず大剣が手から滑り落ちそうになるが──。



開放アベルト!」



 背後から彼女の声……?

 振り向けば、もう一人のアイリーンが片手を天に掲げ声を張り上げる。両腕を失った方の彼女にもう一度視線を戻すと、頭上には大きな虚空が生じていた。


 その虚空から現れたのは、先程吸収したレッドキャップ二体。

 それらが落下すると共に、二本の斧は挟撃した奴らの頭上に見事刺さった。まさかアイリーンが分身を使えるとは思わなくて、純粋に尊敬の意を表したくなった。


「とどめをお願い!」

「任せた!」


 彼らの元へ駆ける傍ら、大剣を担ぎ長剣を鞘から取り出す。

 濡れた地面を片足で踏みしめた後、秒にも満たぬ速さで残りの奴らを分断。後は花姫たちが始末してくれれば──。


「あのやろっ!」


 怯える親子の前に立つ少女──バンシーは大きな口を開け、今にも叫ぼうとしていた。

 俺は即座に翼を展開。雫が肌や翼を叩く中、長剣で化け物を串刺しにする!


「ぐぇ……っ!!」


 白金の髪は血に濡れ、両手がだらりと下がる。彼女の死を確認すると、俺は剣を抜いて親子に近づいた。


「早く逃げろ!」

「は、はい……!」


 母親は上ずった声で答え、子を連れて走り去る。

 右側から葉の擦れる音が聞こえると共に、また一体のレッドキャップが現れた。


 しかしそいつが着地する刹那、足を滑らせて転倒。鮮血の色をした帽子が取れると、額に埋め込まれた何かを目視した。

 白銀に光るそれは、他ならぬ銀の心臓。レッドキャップは帽子を拾わんと、鉛筆のような腕を伸ばす。


氷撃ギアーレ!」


 俺が氷の弾を放つと、その片腕は瞬く間に凍りついた。

 ヤツが凍傷に悶える隙に、切先で心臓を破壊!


 銀の破片が飛び散ると、残党と共に掻き消える。

 魔物の気配が消えたと思いきや、またしても誰かの足音がこちらに近づいてきた。



「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう!」



 木陰から姿を表したのは、先程襲われかけた親子。少年が笑顔を向ける傍ら、母親は俺たちにお辞儀をしてきた。


「まさか純真な花の皆さんが助けに来てくださるなんて。何とお礼を申し上げて良いものか……」

「これが俺たちの仕事なんだ。気にするな」


「もしかしてお姉ちゃんたち、神殿に向かうの?」

「うん! そこにいる悪い奴らを倒しに行くんだ!」


 少年の問いにアンナが答えると、母親が「まあ!」と感嘆を漏らす。そして彼女は、俺たちに有意義な情報を提供してくれた。


「神殿でしたら、廃墟都市エリヴィラの先にございます。あちらは無人ですので、同じように魔物が棲み着いているかと……」

「大丈夫なのです! わたくし達が倒してきますから!」


 不安げに話す母親に対し、明るく返すエレ。すると母親の顔も綻び、懐から財布を取り出した。


「細やかですが、こちらが今回のお礼です」

「ちょっと! こんなの受け取れないわよ……」

「お気になさずに。もし貴方がたが助けてくださらなければ、うちの子が危険な目に遭っていましたから」


 彼女の手にあるのは多額の紙幣。マリアが動揺するも、母親は押し付けるように差し出してきた。


「ありがとな。大事に使わせてもらう」

「あ、アレックス!?」

「そろそろエリヴィラに行かねばな」


 マリアが俺を制止するが、構わず紙幣を受け取る。俺が「じゃあな」と一言告げたとき、少年が嬉しい事を言ってくれた。


「僕、大きくなったらお兄ちゃんみたいな騎士になる!!」

「お前ならなれるさ」


 少年の頭を撫でると、彼は幸せそうな眼差しをこちらに向ける。こんな温かい気持ちになれたのは、アルと接した時以来だろうか──。


「今度こそ行くぞ」

「「はい!」」


 秋雨が止む気配は一向に無い。

 しかし、俺は晴れやかな気持ちで住宅街を去る事となった。




(第二節へ)






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