騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
つきかげ御影

第十章 夏に咲く恋の花

血まみれの寝台

公開日時: 2021年6月24日(木) 12:00
文字数:1,356

※この節には残酷描写が一部含まれます。

 エク島から戻って数日後、マリアから布袋を受け取って帰宅。ソファーに腰掛け、袋からある布地を取り出した。

 それは、丁寧に折りたたまれた黒マント。かつてアリスが隠密行動をする時に使ったものと酷似しており、顔を隠せるようフードも取り付けられている。


「俺も、これを身につける時が来たか……」


 もし俺がこのマントを羽織るときは、で過ごさねばならない。それがマリアとの約束だからだ。


『ミュール島の連中は、今も魔族を嫌っている。もし俺がそこにいると判れば、間違いなく摘発するだろう。それでも、彼女を一人にしたくない』


『…………あなたがそこまで言うなら、止めはしないわ。その代わり、無事シェリーと一緒に戻ってきなさい。あの子に何かあったら承知しないから』


 エク島へ向かう前、俺は自分の意見をマリアに押し通した。彼女はきっと呆れただろうが、それでも俺がシェリーに付き添う事を了承してくれたのだ。


 シェリーの幸せは俺の幸せでもあり、隊長としての責務でもある。

 ミュール島の事を考えると重圧に押し潰されそうだが、その度に『大丈夫だ』と自分に言い聞かせてきた。


「いざという時は、親父の力がある。それまでは……“アダム”として振る舞えば良い」


 アダム──それがミュール島での偽名だ。日中でもこんなマントを被れば注目を浴びるだろう。けど、つのを隠す魔法など持ち合わせていない以上は致し方あるまい。まあ、隠者という存在はありふれているから、後は寡黙に徹すれば問題無いはずだ。


 アリスはどういう気持ちでこれを被り、俺に会いに来たのだろうか……。

 ふと考えがよぎった刹那、意識がある映像を呼び覚ます──。




 その粗雑な寝台の上で、一人の女が仰向けになっていた。乱れた銀髪に、無惨に引き裂かれた白のドレス。長剣が突き刺さる胸元からは、鮮血がドクドクと溢れ出す。

 彼女の顔は何処かで──いや、何度も幾度も見てきたはずなのに、それが誰だか思い出せずにいた。


『アレッ……クス、さん……』


 女が名前を呼ぶ。それも──聞き覚えのある声で。


『おい、────!!!!』


 嘘だ。


『私は……もう、生きたって……』


 ウソだ。


『バカ野郎!! 俺を置いてったら一生恨むぞ!!!』

『知って、ますわ……。ですが……』


 うそだ。



『生まれ変わったら……次、こそは……』



 んなの……夢に、決まってるだろ!!!



『必ずお前を助ける! だから、んな事──ッ!!』



 俺の手を包み込む温もりは、

 するりと



 滑り落ち───







「違う! 違う違う違う違う違う違う!!!」


 あの女は、そんな末路など迎えちゃいねえ。

 旦那と普通に生きて、普通に歳を取って死んだんだ!!


 ああ、きっと暑さでどうかしてるだけだ。勿論、この頭痛だってな。

 考えただけで、吐き気が込み上がってくる。水瓶みずがめを取りに行くのすら億劫だった俺は、思わず治癒薬ポーションのコルク栓を抜いてしまう。薄緑色の液体が喉を通ると、口の中は僅かな苦味で支配された。


「……んな事、考えてる場合じゃねえ」


 俺はナイトテーブルに置かれたシェリーの写真を手に取り、親指でなぞる。写真の中の彼女は、決して俺を気に留めはしない。けれど、そんな事は今となれば大した問題では無かった。



「俺たちの幸せを奪おうってなら……何もかもを棄てて、本当の悪魔になれる」



 そして翌日。

 俺は彼女と共に、約束の地へ向かう事となる──。




(第一節へ)






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