騎士系悪魔と銀月軍団《ナイトデビルとシルバームーン》

花に寄り添う悪魔騎士、邪を滅ぼし燐光と共に
つきかげ御影
つきかげ御影

【第一部】

序 俺もお前が大嫌いだ

公開日時: 2021年1月21日(木) 12:00
文字数:938

「アレックスさん……さようなら」


 白銀の長い髪をなびかせ、蒼く大きな瞳を持つ女は唇を震わせた。

 俺のほうを振り向くと、白いワンピースとまっすぐな髪がふんわりと揺れる。片手を胸に当てるのは、いつもの癖だ。


 彼女の近くには、年季の入ったドアがある。


「もう行ってしまうのか?」

「はい。そろそろ彼らが探す頃ですから」


 窓から差し込む茜色の光。それは傷み切った木の壁やら床やらを照らしたが、今はどうだっていい。

 下がった眉、瞳から溢れる雫、そして無理やり引き上げた口角。そんな彼女がまぶしかったから。


 悪魔オレが神にすがるのもなんだが。今すぐこいつを闇で隠し、もう一度俺の腕で抱き寄せたい。それができたらどんなに幸せなことか。

 俺は、古いベッドの上から見送ることしかできないというのか? 受け止め難い現実が近づくほど、彼女から目を逸らしたくなる。

 白いシーツを無意味に見つめていたはずが、徐々に滲んだ。


 見るなよ。

 見てんじゃねえよ。

 俺の無様な姿を見て、勝手に泣いてんじゃねえよ。


「……さっさと行けよ、この……バカ女……」


 お前の顔なんか、もう見たくねえんだ。


「言われなくても、わかってますわ……!」


 なら早く消えてくれよ。

 こっちはもう胸が痛いどころじゃねえんだ。


「あなたのそういうところ、大嫌いですもの!!!!!」


 ああ、それで結構さ。


 ドアが強く閉ざされる音。

 脳裏にこびりつく、涙まじりの怒声。


 忙しない足音が、

 遠のいていく。


「……なんで……なんで俺は悪魔なんだよ!!!!」


 こんな辛い想いをするくらいなら。


 親父からもらった力も、

 俺という存在も、

 何もかもいらねえ。


 天井の一角に張られた蜘蛛の巣。

 こんなグロテスクな模様を見つめたって無駄だ。


 あの雪のような肌とかさ、

 柔らかな感触とかさ、

 甘い吐息とかさ。


 忘れられるわけねえだろ。


 だいたい俺たちの関係なんて、一騎討ちだけで終わるはずだったんだよ。

 それなのに……いつの間にか劣情が抑えきれなくなって。


 美味そうに飯を頬張ってたお前の顔だって、俺への想いを詠う声だって、

 全部ぜんぶ俺のモノにしたかった。


 ああ! クソったれが!!

 こんなことなら、お前なんかと会わなきゃよかったよ。


「……『お幸せに』なんて言えるか、バカ野郎」


 俺は腕をまぶたに押し当て、先までの刹那を思い返すことしかできなかった。





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