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D・ケンタ D
D・ケンタ

LAST MISSION:リアクター暴走阻止③

公開日時: 2022年4月21日(木) 06:48
文字数:5,962

 21世紀半ば。開発者の名前から、ヴァイトリングエンジンと名付けられた半永久動力と、新型アクチュエーターの開発により、新型機動兵器の開発が進められた。


 2062年、各国主要企業の協力により、人型機動兵器「グライフェン・パンツァー」(略称グライツァー)の開発に成功。地形に左右されず、高い機動力と汎用性を持つグライツァーは、各国軍から高い評価を得、結果戦場の風景は一変した―――




 ◇




「クソっ!邪魔くさい!!」




 正面にいる敵機にショットガンを放ちながら、ヘイロー6―――武宮龍巳はコックピットの中で悪態をつく。


 リアクターの臨界まで時間が無い。それまでに隊長に指示されたとおり、制御装置を破壊して暴走を阻止しないといけないのだが、敵部隊もそれを察したのか、先程までの時間稼ぎの攻撃と違い、確実に攻撃の激しさが増している。




「喰らえっ!!」




 ショットガンを被弾し動きを止めた敵機にパイルバンカーを突き刺し、強引に放り投げようとする。


 しかし打ち抜いた箇所が悪かったのか、敵機は機能停止せず、そのまま武宮の機体へと組み付いてきた。




「しまった!?このっ!」




 引き剥がそうとするが、その間に他の機体が動きを止めた武宮の機体へと照準を向けてくる。




『武宮っ!』




 しかし間一髪、味方が放った無数の銃弾が武宮を狙っていた敵機を襲い、その隙に武宮は組み付いていた敵機にショットガンを撃ち込み、なんとか引き剥がす。




「悪い、助かった」


『俺が援護してやるから、さっさと行け!!』


「分かっている!」




 味方機はそのまま敵機の集団へと銃弾を浴びせ、その間に武宮は加速器へと機体を走らせる。




『やっと来たかっ!遅いぞ新入りっ!』


「すみません!」




 先に加速器へと到達し、制御サーバーへと攻撃を加えていたヘイロー3が武宮に向かって怒鳴りつける。




『謝ってる暇があるなら、さっさとこのポンコツを壊すのを手伝え!!』




 喋りつつもヘイロー3は機体の左腕に装備したロッドと右腕の機関砲で制御装置への攻撃を続けているが、加速器が止まる様子はない。




「どらぁっ!!」




 ヘイロー3に続き、武宮も装置の基盤を破壊しようとパイルバンカーを打ち込む。


 しかし、打ち込まれた鉄杭は制御装置の外壁を穿ったものの、内部までは届かず、加速器は未だ健在で臨界に向かっている。




『チィッ!こちらヘイロー3、アルファ1っ!どうなっている、只の制御装置にしては頑丈過ぎるぞ!?』


『サーバーの外壁は、硬タングステン合金で覆われています。更に回線切断などの事故に備え、バックアップが組み込まれている為、中心回路を破壊しないと停止しません……今転送したポイントを破壊してください!』


『そういうことは早く言え!面倒くせえなチクショウっ!?』




 悪態をつきつつも、武宮とヘイロー3は送られてきたデータを機体のFCSにリンクさせる。するとモニターにターゲットが表示され、FCSによる補足、ロックオンが可能になる。これで無駄に破壊する必要がなくなった。




『そこか!』




 破壊した外壁から銃口を突っ込み、ターゲットに向かって機関砲を発射する。するとモニターからターゲットの表記が一つ消失した。




『よし……ヘイロー6、残りは手分けしてぶっ壊すぞ!』


「了解っ!」




 それだけを言い終えると、二人は制御サーバーの残りのポイントに向け機体を疾走らせる。




「ここか。どらァっ!!」




 FCSでロックオンした箇所に向かい、パイルバンカーを打ち込む。硬タングステン合金製の外壁に阻まれてしまう。何度も同じ箇所に打ち込み、遂に穿つことが出来たものの、回路を破壊するまではいかず、穴を空ける程度にとどまった。しかし、それで十分だ。




「喰らえっ!」




 武宮は空いた穴にショットガンの銃口を差し込み、内部に向けて引き金を引く。


 発射された散弾が内部の回路をズタズタに破壊し、モニターからはターゲットの表示が一つ消えた。




「よし、次っ!」




 それを確認し、次の目標へと機体を疾走らせる。しかし、臨海までの時間は刻一刻と近づいており、更には彼らの行動を察した敵部隊が、武宮達に向かいだした。




『させるかっ!』




 ヘイロー4が機体に装備したマシンガンとバックパックのバルカンを掃射するが、敵部隊は巧みに連携を取り、徐々に距離を詰めてくる。




『足を狙え、動きを止めるんだっ!』




 そう言うと、ヘイロー2は敵機の脚部に向けてライフルを発射する。的確に打ち込まれた銃弾により敵機の動きが止まる。


 それに続きヘイロー4も掃射を続けるが、敵機の動きは鈍るものの攻撃の手は衰えずヘイローチームを襲う。




『臨界まで残り2分……二人共まだかっ!?』


『3基は停止しました、残り2基です!』


『頼むぞ。奴らが変なことを企む前に終わらせてこい!』




 そう声をかけて、ヘイローリーダーは襲撃してきた敵部隊について考えを巡らせていた。




(奴らの装備からして、三大勢力かそれに次ぐ国力を持つ国の部隊だろう。だからこそ狙いが分からん。装置の破壊やデータの奪取が目的だとしても、技術共有を結んでいる以上、そんなことをすれば自分の首を絞めるだけだ。だとしたら……)




 敵部隊への攻撃を続けながらも思考を続ける。そして、ある考えへと至った。




(もしかして、リアクターの破壊ではなく暴走させること自体が狙いなのか?だとすれば奴らの目的は……まさか!?)




 暴走によるリアクターの破壊ではなく、暴走そのものが目的。彼の頭の中で、カチリとピースがハマる音がした。




『ヘイロー3、6っ!急いで最後のサーバーを停止させろ!!』


『隊長っ?どうしたんです?』




 急に通信を飛ばされた、今まさに最後の制御サーバーへ攻撃を加えていたヘイロー3が訝しんだ声を上げる。




『全員よく聞け!奴らの正体と目的について見当がついた』




 その言葉に、全員が戦闘を続けながら耳を傾ける。




『奴らの目的は、リアクターを暴走させ、その危険性を世論に過剰認識させることだ』


『何!?』


『そんなことになれば、新エネルギー開発計画は凍結される可能性があるぞ!U.S.P.やS.I.O.にとってもデメリットしかない!!』




 その通り、新エネルギー開発計画が凍結されれば、残り僅かな地下資源でエネルギーを賄わなければならず、確実に資源の争奪戦争が起こる。そんなことになれば、どの勢力が勝とうと、甚大な被害が出ることになる。




『確かにな。だが、そうなれば得する国が一つだけある』


『そんな国がどこに……まさか!』


『……ラスイェット、ですか』




 オペレーターが呟くように言ったその名前に、ヘイローリーダーは肯定の返事を返す。


 ラスイェット共和国連邦。旧ロシア圏を中心に、北方諸国によって形成された、社会主義共和国。表向きは他の勢力と同じく、新エネルギー開発計画に援助している国であるが、何故その国の部隊が襲撃してくるのか。当然の疑問が隊員から上がった。




『ラスイェットは、今や世界最大の資源輸出国だ。そんな国が、本気で計画に援助すると思うか?』


『そ、それは……』


『もし計画が成功すれば、貿易経済を資源輸出に頼っているラスイェットは大打撃を受ける。だからリアクターを暴走させる事で計画を凍結させて、各国をラスイェットからの輸入に頼らざるを得ないようにしたいんだろう』




 何というエゴイズムだろうか。そんなことを許すわけにはいかないと、全員が操縦桿を握る手に力が入るのを感じた。




『クソ、責任重大じゃねえか……こんのっ!』


「あと、少しっ!」




 悪態をつきながら、ヘイロー3と武宮はそれぞれの獲物を使い、残ったサーバーへと攻撃を続ける。




『っ!よし、外壁が割れた!』


「こっちも貫通を確認!」




 継続の甲斐があってか、何とか外壁の破壊に成功した。あとは内部のターゲットを破壊するだけ。




『グレネードっ!』




 ヘイロー2からの警告に、いち早く反応したヘイローリーダーは投擲された物体に機体のカメラを向ける。投擲されたグレネードの着弾箇所を予測し、隊員へと指示を出す。




『リアクターに飛んだぞ!総員備えろっ!』


「っ!?」




 飛んできた指示に従い、各機咄嗟に反応しリアクターから距離を取る。


 勿論、リアクター自体も強固な外壁に包まれているが、それでも何が起こるかわからない。


 そして、飛来したグレネード弾はリアクターの付近に着弾。各員が備える中、弾頭が起爆した。




『な、なにっ?!』




 しかし、視界に飛び込んできたのは炸裂と爆風ではなく、眩い閃光と奔る電流だった。




『まさか……EMP兵器だとっ!?』




 EMP兵器。電磁パルス兵器とも呼ばれ、高エネルギーの電流を発生させ、周囲の電子機器にダメージを与える、近代兵器の天敵とも呼べる兵器である。


 しかし、EMP兵器は2085年現在確かに実用化されているが、三大勢力でも特殊なコンデンサを利用した時限式のものしか開発に成功していない。


 携行可能で、それもグレネードとして使えるものは開発されていない筈だった。




『実用化されていたのか……い、いかん!?全機急いで退避しろっ!!』




 その指示に、最初隊員達は戸惑っていたが、続けて聞こえてきたオペレーターの言葉によって、全員が事態を把握することになった。




『EMPによりリアクター出力の過剰上昇を確認!間もなく臨界に達します!!』


「なっ!?」




 EMPは電子機器を麻痺させるだけでなく、過剰な電力により誤作動を誘発させる事もできる。それを応用し、リアクターの暴走を早めたのだろう。


 なら何故最初から使わなかったのか?EMPは出力の調整を誤れば、ただ回路を焼き切ってしまい、目的は果たせない。その為、出来る限り使わないように、最後の最後まで温存していたのだろう。




『理解わかったなら早く退くぞ!!』


「ですが隊長、このままでは被害が!?」


『クソっ……管制室っ!どうにかできないのか!?』




 リアクター臨界の時間が迫る中、ヘイローリーダーはオペレーターへと通信を飛ばす。




『……一か八か、地下のコイルを操作して、臨界方向をコントロールしてみます。確率は低いですが……』




 加速器には、粒子の加速方向を制御するためのコイルが設置されている。それを応用し、暴走したリアクターから漏れ出した粒子の方向をコントロールすれば、被害を最小限に食い止められる可能性があるらしい。


 もちろん、失敗するかもしれない。しかし、ヘイローリーダーは一も二もなく返答した。




『構わない、やってくれ』


『分かりました。リアクターの臨界と同時に磁界を反転させます、急ぎ退避してください!』


『よし、全員撤退するぞ!!』




 隊長からの指示を受け、部隊の全機が脱出口へと急ぐ。しかし、敵の部隊もそうやすやすと逃がしてはくれない。ヘイローチームを逃がさないため、臨界に巻き込まれるのも構わず攻撃を仕掛けてくる。




『コイツら、命が惜しくないのか?!』


『証拠隠滅の為、死んで来いとでも言われてるんだろうよ!』




 その言葉は案外的を得ている。リアクターが暴走すれば、直に巻き込まれた機体は原型も分からない程融解し、放射能に汚染される事も相まって、碌な証拠は得られないだろう。




『止まるなっ!疾走れっ!!』




 隊員達へ指示を飛ばしながら、ヘイローリーダーは両手に装備したマシンガンで敵機を牽制し、退路を切り開く。


 他の隊員達も、撤退を邪魔する敵機を排除しながら隊長機に続き、脱出口へと向かう。ヘイローリーダーは脱出口に陣取り、迫る敵部隊を牽制し、隊員たちの脱出を支援する。




『隔壁を封鎖します!』




 オペレーターの言葉通り、脱出口の上部から隔壁が降りてくる。


 1機、また1機と脱出していき、残るは隊長機を含めた3機のみとなった。




『武宮、急げ!!』


「分かってい―――うおっ!?」


『武宮っ!?』




 そして、武宮も脱出しようとしたが、途中で敵機が放った銃弾が命中し足を止めてしまった。


 体勢を崩した武宮に向かい、敵部隊が銃口を向ける。




『クッ!援護する!』




 隊長機が両手のマシンガンで援護射撃を行うが、運が悪く弾切れを起こしてしまう。




『クソっ!?予備弾倉は……』


『隊長っ!俺がアイツを援護します。隊長は先に行ってください!』


『……スマン』




 ヘイロー4が脱出する足を止め、敵部隊へと向き直ると、バックパックのバルカン砲を敵部隊に向け乱射する。それと入れ替わりに、ヘイローリーダーは機体を翻し、出口に向けて疾走らせる。


 敵部隊の動きが止まった隙に、武宮は体勢を立て直し脱出口へと向かう。




「悪い、助かった」


『今度なにか奢れよ。行くぞ!』




 軽くやり取りをし、二人はリアクタールームから脱出し、それとほぼ同時に隔壁が降り、リアクタールームは完全に閉鎖された。


 だからといって安心は出来ない。確実に臨界をコントロールできる保証もなく、仮に出来たとしてもどこまで抑えられるのか分からない以上、できる限り距離を取っておかねばいけない。


 甲高いスキール音を鳴らしながら、通路を突き進む。




『武宮、もっとスピードを上げろ!』


「これが一杯だ!」




 前を行くヘイロー4に急かされるが、既にペダルは目一杯踏んでいる。




「うおっ!?」




 その時、施設が大きく揺れ、後部カメラの映像に、隔壁の隙間から青白い光が漏れ出しているのが映っていた。




『リアクターの臨界が始まったみたいだな。急ぐぞ!』




 チェレンコフ光。あの光に飲み込まれれば確実に命はないだろう。


 もはや時間はない。一刻も早く施設外へと脱出しなくては。だがそう思っていても、機体のスピードは思うように上がらない。




『うわっ!?』




 しかも最悪なことに、再び襲った振動がヘイロー4の機体の挙動を乱し、転倒させてしまった。


 それを見た武宮は機体を翻しヘイロー4の元に向かい、助け起こす。




『バカっ!俺に構わず先に行けよっ!?』


「さっきのお礼だ。それに、同期のダチを置いていけるかよ!」


『……さっきの衝撃のせいか、出力が上がらない。お前だけでも』


「だから置いていけるかっての!!」




 武宮は助け起こしたヘイロー4の機体に肩を貸し、そのまま牽引する。もちろん、そんなことをすれば大幅な減速は避けられない。


 それでも、見捨てる事はできなかった。




『……バカ野郎』


「うっせバカ」




 ヘイロー4の機体を抱えたまま、武宮は再びペダルを思いっきり踏み込む。


 ライディングホイールが高速で回転し、機体を加速させる。だがやはり最高速度には程遠い。


 そして、臨界の光は容赦なく彼らを襲う。




「ぬぅおおおおおっ!?」


『ぐぅおああああっ!?』




 全身全霊で逃走するが、当然光が迫るスピードの方が遥かに早い。


 そして、彼らは粒子の光に呑み込まれていった。




 …………その後。管制室が行った磁界の操作により、施設周辺への被害は最小に留められた。しかし、武宮とヘイロー4はヘイローチームの必死の捜索も虚しく、その姿を発見することはできなかった。


 暴走した粒子により原子レベルで溶解したと、二人はKIAと判断され、捜索は中断されることとなった。


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