カセットテープのような恋をして…

-笑わない王子×泣き虫僕っ子-
翔(カケル)
翔(カケル)

B面-花火大会、交わる想い

B-14

公開日時: 2022年6月13日(月) 12:37
文字数:1,489

 花火大会を2人で見るために俺たちは、歩みを進めていた。


「先輩、どこで花火大会見るつもりなの??」


 まだピンと来てない紡に俺は

「俺らには、俺らしか入れない特等席があるだろ?」と紡に返してみる。


「…はっ!思い出の場所?!」


 うーん、それもありだったけれど、さすがにあそこは車がないと行けないし、時間もない…。


「もっと身近な場所だよ?」


「…ああっ!!もしかして…っ!!」


「ああ、紡、帰るぞ」


 俺は、イカちゃん人形を大事そうに持つ紡の手を取り、自宅への帰路に就いたんだ。


 ◇ ◇


 ―花火大会まで20分


 家の近くまで来た俺たちは一度、手を離していた。これから花火大会で集まってくる人の流れに逆らって、自宅へと戻っていく俺たち。


「…あっ!先輩!コンビニ寄る時間ある?!」


 家の近くにあるコンビニに寄りたいと急に言い出す紡。時間はまだあるから寄ってもいいけど…またなんで今なんだ…?


「うん?いいけど何買うんだ?」


「この後、ほら!卵焼き作るから、卵とか買わないと♪」


 なんだよ、ちゃんと覚えててくれたのか…後でまた行くよりかは、済ませちゃった方がいいよな??


「そうだったな…!楽しみにしてたんだ…///」


「えへへっ!!じゃあ寄ろうっ!」


 そう言って俺たちは、近くのコンビニに足を運んだんだ。


 コンビニに入るや否や「先輩、ごめん…!トイレっ!!!」とそのまま俺にイカちゃん人形をぼふっ!っと渡して紡は、トイレに駆け込んでいった。


 そう言えば紡、今日会ってから全然トイレに行ってなかったよな…。

 相当我慢していたのかもしれないな、あんなに慌てるなんて…。でも、それもまた可愛いと思う俺はどうかしているよなっ…。


 あ、そうだ… と俺は紡がトイレに行っている間に自分の買物を済ませた。


「…せ、先輩、おまたせっ!!」


 浴衣での用足しに少し手こずっていたようだ。やばい、時間が無いぞ。


「大丈夫だよ、時間も無くなってきたから買いたい物カゴに入れて?」


「…分かった!」

 そう言葉を残し、紡はサッサッと躊躇なくカゴに物を入れていく。


 卵

 薄口醤油

 植物性油脂

(俺には…無縁のものばかり…)


 マヨネーズ

(はっ?!!マヨネーズ?!)


「うん、とりあえず…これで大丈夫!」


 よく分からないままカゴにいれた商品をレジに通し、俺は商品を受け取った。


「よし、家に戻るぞ」


「うん!先輩、ありがと!」


 俺たちはコンビニを後にし、少し早足でマンションに足を向け直した。


 ◇ ◇


 ―家に着き


 花火大会まで5分ばかしとなっていた。リビングの電気は付けないでキッチンの照明だけを灯す。


「先輩?冷蔵庫開けてもいい?」


 お祭りやコンビニで買ってきたものを片付けてくれようとする紡。


「いいよ…あっ!!!でも…」


 ガチャ!


「うわぁ…うふふっ、あはっ!ほんっと何も入ってない…!!」


 冷蔵庫を開けて、笑う紡に俺は、ただただ恥ずかしくなってしまった…。料理に無縁な俺ん家の冷蔵庫は冷蔵庫と言うより、ただの冷たい箱になってるぐらいだ…そして、冷えてるものは飲み物ぐらいで…。


「ねぇ、先輩?」


「…う、うんっ?!」


「今度…さ?ここに色んなもの入れても…いい?…先輩に美味しいもの作ってあげたくて…///」


 そんな風に、可愛くそしてあざとく言う紡に俺の鼓動は、毎度抑えきれなくなるんだ…。


「…あ、ぁあっ…もちろん…!た、楽しみにしてるよ…///」


 俺の返答にニコッと笑う紡…ああ…愛おしくてたまらないな…今すぐキスなんかをしてやりたいけれどもう、時間がない…!


「紡、花火大会始まるぞ!」


「あ!ヤバいヤバい!!」


 冷蔵庫に荷物をしっかり片付けた紡の小さな手を俺は握りしめて、2人だけの《特等席のベランダ》へ向かっていったんだ。

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