花火大会を2人で見るために俺たちは、歩みを進めていた。
「先輩、どこで花火大会見るつもりなの??」
まだピンと来てない紡に俺は
「俺らには、俺らしか入れない特等席があるだろ?」と紡に返してみる。
「…はっ!思い出の場所?!」
うーん、それもありだったけれど、さすがにあそこは車がないと行けないし、時間もない…。
「もっと身近な場所だよ?」
「…ああっ!!もしかして…っ!!」
「ああ、紡、帰るぞ」
俺は、イカちゃん人形を大事そうに持つ紡の手を取り、自宅への帰路に就いたんだ。
◇ ◇
―花火大会まで20分
家の近くまで来た俺たちは一度、手を離していた。これから花火大会で集まってくる人の流れに逆らって、自宅へと戻っていく俺たち。
「…あっ!先輩!コンビニ寄る時間ある?!」
家の近くにあるコンビニに寄りたいと急に言い出す紡。時間はまだあるから寄ってもいいけど…またなんで今なんだ…?
「うん?いいけど何買うんだ?」
「この後、ほら!卵焼き作るから、卵とか買わないと♪」
なんだよ、ちゃんと覚えててくれたのか…後でまた行くよりかは、済ませちゃった方がいいよな??
「そうだったな…!楽しみにしてたんだ…///」
「えへへっ!!じゃあ寄ろうっ!」
そう言って俺たちは、近くのコンビニに足を運んだんだ。
コンビニに入るや否や「先輩、ごめん…!トイレっ!!!」とそのまま俺にイカちゃん人形をぼふっ!っと渡して紡は、トイレに駆け込んでいった。
そう言えば紡、今日会ってから全然トイレに行ってなかったよな…。
相当我慢していたのかもしれないな、あんなに慌てるなんて…。でも、それもまた可愛いと思う俺はどうかしているよなっ…。
あ、そうだ… と俺は紡がトイレに行っている間に自分の買物を済ませた。
「…せ、先輩、おまたせっ!!」
浴衣での用足しに少し手こずっていたようだ。やばい、時間が無いぞ。
「大丈夫だよ、時間も無くなってきたから買いたい物カゴに入れて?」
「…分かった!」
そう言葉を残し、紡はサッサッと躊躇なくカゴに物を入れていく。
卵
薄口醤油
植物性油脂
(俺には…無縁のものばかり…)
マヨネーズ
(はっ?!!マヨネーズ?!)
「うん、とりあえず…これで大丈夫!」
よく分からないままカゴにいれた商品をレジに通し、俺は商品を受け取った。
「よし、家に戻るぞ」
「うん!先輩、ありがと!」
俺たちはコンビニを後にし、少し早足でマンションに足を向け直した。
◇ ◇
―家に着き
花火大会まで5分ばかしとなっていた。リビングの電気は付けないでキッチンの照明だけを灯す。
「先輩?冷蔵庫開けてもいい?」
お祭りやコンビニで買ってきたものを片付けてくれようとする紡。
「いいよ…あっ!!!でも…」
ガチャ!
「うわぁ…うふふっ、あはっ!ほんっと何も入ってない…!!」
冷蔵庫を開けて、笑う紡に俺は、ただただ恥ずかしくなってしまった…。料理に無縁な俺ん家の冷蔵庫は冷蔵庫と言うより、ただの冷たい箱になってるぐらいだ…そして、冷えてるものは飲み物ぐらいで…。
「ねぇ、先輩?」
「…う、うんっ?!」
「今度…さ?ここに色んなもの入れても…いい?…先輩に美味しいもの作ってあげたくて…///」
そんな風に、可愛くそしてあざとく言う紡に俺の鼓動は、毎度抑えきれなくなるんだ…。
「…あ、ぁあっ…もちろん…!た、楽しみにしてるよ…///」
俺の返答にニコッと笑う紡…ああ…愛おしくてたまらないな…今すぐキスなんかをしてやりたいけれどもう、時間がない…!
「紡、花火大会始まるぞ!」
「あ!ヤバいヤバい!!」
冷蔵庫に荷物をしっかり片付けた紡の小さな手を俺は握りしめて、2人だけの《特等席のベランダ》へ向かっていったんだ。
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