「安心してくれ。キミの裸を見るつもりはない」
「…それはそれでなんか腹立つわ。いや、絶対見ないで欲しいけど」
この場所は混浴で、脱衣所だけは男と女で分かれている。
当たり前のように女性用の脱衣所に入ってくると、周囲をぐるっと見渡しながら警備を始めた。
…はあ
なんでコイツの前で服を脱がなきゃいけないのよ…
せっかく伸び伸びしようと思ってんのに、気が散ってしょうがないんだが…
帯を緩め、仕事用の着物を畳む。
この場所は一週間に一回だけだけど、毎日温泉に浸かることができるのは、至福以外の何物でもない。
美味しい料理に天然の温泉。
朝早いし、土日は仕事がある。
でも、それを差し引いて余りある環境が、この旅館にはあった。
そういえば、明日は「買い出し」か。
部屋に戻ったらリストを整理しとかないと…
坂もっちゃんからのリクエストだけは、クリアしてあげないとね。
ただ、朝が早すぎてさぁ
「すごくいいところだな」
「…はぁ、喋んないで?今は話したくない」
「俺は外を警戒しておく。小型の監視カメラを脱衣所には設置しておいた。これで、ひとまずは警戒を怠らずに済むだろう」
「監視カメラ?!ちょっと、なんてもん設置してんの!!」
「しかし、いつ、どこで敵が来るかわからない状況だ。万全を期すに越したことはない」
「ちゃんとあとで外しといてよ?!」
「無論だ。カメラの数には限りがあるのでな」
頼むから、この神聖な場所を汚すのだけはやめて欲しい。
脱衣所に監視カメラって絶対やっちゃダメなことだから。
バスタオルを巻き、湯船に浸かる。
本当はバスタオルなんて巻きたくない。
たださすがに全裸で浸かる気にはなれない。
アイツはアイツで、なんで服着たままなの?
風呂に入れよ。
「ねえ、入んないんの?」
「…?入るとは?」
「風呂だよ風呂。どうせこのあと私から離れるつもりもないんでしょ?入るなら今しかないと思うけど」
「必要性を感じない。研究によれば、週に2回程度の入浴が理想的だと言われている」
「…なんの研究、それ。あんたねえ、私の“付き人”になろうってんなら、体くらいちゃんと洗って」
「…しかし」
「それとも何?そのダサい服来たままじゃないと、私のこと守れないっての?」
「…いいだろう。では言葉に甘えるとする。だが、警戒は怠らないでくれ。服を脱ぐ時、一瞬の間死角になる。その隙を突かれては元の子もない」
どんだけ神経質なんだ…?
そんな一瞬の隙を狙う強者が周囲にいるなら、何やっても無駄でしょ。
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