「アズサさん!?今授業中ですよ!」
秋月先生が何か言ってる。
大丈夫だよ、先生。
すぐ終わらせる。
こんなバカ一発だから。
下半身に力を込め、真正面から顔面を捉えようとした。
腕を後ろに引っ張り、ぐるっと肩甲骨を回す。
(コイツ、動かない…!?)
顔面を捉えようかという寸前まで、彼は微動だにしていなかった。
止まる気なんてなかった。
私は。
そのまま受け止めようってんならどうぞご勝手に。
数々の男子をマットに沈めてきたこの右拳を、とくと味わえッ!
バシィィィ
なっ…!?
男は右腕を掴んできた。
全力で振りかぶった右腕をだ。
それだけじゃなく、威力を殺すように後ろへと引き、流れていく体に沿ってステップを踏む。
前に倒れるかと思った。
勢いをつけすぎたあまり、バランスが崩れる。
私の視界では、彼が消えたように見えた。
人の殴り方も、パンチの繰り出し方も、普通の人よりは熟知してる。
パンチを当てられる距離くらいわかる。
「捉えた」と思った。
サンドバックのど真ん中に、パンチを繰り出した時のように。
「痛い痛い痛い!」
彼は右にスライドし、空振りさせた私の右腕をぐるっと背中に回す。
勢いよく回されたせいで、肩甲骨と筋肉の間に痛みが走った。
身動きが取れない。
抵抗しようにも、思うように力が入らない。
「ちょっと、離してッ!」
「これでも“自分の身を守れる”と言えるのか?」
「…くっそ、ふざけんな!」
「俺はふざけてなどいない。自分の身を守りたいなら、それ相応の実力が伴っていなければならない」
「何訳わかんないこと言ってんのよ!今すぐ離さないとただじゃおかないから!」
必死にもがいていると、手を離してくれた。
…この、よくもッ
「そんな目で見られても困る。俺が雇われたのには理由があるんだ。それに、すでに支払いは終わっている」
「なんの話よ!だったらそのお金返金して!」
「俺はただの雇われ人だ。文句があるなら、雇い主に言ってくれ」
「あのクソ親父のことでしょ?!アイツとは連絡を取ってないの。わかる?“絶縁状態”なの。もう赤の他人も同然なの!私の中ではね」
「それはキミの私見だろう?」
「ええ、そうよ。文句ある!?」
「文句はないが、今回の契約に関する条項には、護衛対象からの拒否権限は無いものとされている」
「…へえ、面白いじゃん。じゃ、何?私の意見は一切無視ってこと??」
「あくまでキミの護衛に関することに関しては。それ以外に関してはできる限り対応しよう」
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