「心配しなくても、襲われたりなんかしないから!」
「そんな確証はどこにもない。捕まってからでは全てが手遅れだ。気を抜く瞬間などあってはならない」
「100%ないから!ほら、あそこ!シャワー浴びれるとこある!」
「100%のことなど存在しない」
「それ、聞き飽きたわ…。私が保証する。絶対無い!って」
「キミと俺では経験値が違いすぎる。キミの言動には、少し稚拙な部分があるのは自覚しているか?もう少し今の状況というものを危惧するべきだ」
ピクッ
コイツと一緒にいると、こめかみに血管が浮き上がって仕方ないんだが…?
誰が“稚拙”ですって、“誰”が!!
「こう見えても偏差値70以上の頭脳の持ち主だから、私は!」
「偏差値?ああ、この日本での学力の話か」
「そうよ!どれだけの言語を話せるか知んないけど、あんたにバカにされるようなことを言ってるつもりはない!」
「俺は別にキミのことをバカにしていない。もう少し“危機感”をもって欲しいと言ってるんだ。危機管理能力と学力は、必ずしも一致しない。キミの頭脳がいかに優れているとしても、一瞬の油断が命取りになる可能性がある」
「油断してないし、逆にあんたがいたら気が散ってしょうがない!」
「それについては問題ない。俺がその場にいることで、あらゆる危険に対処することができるだろう」
あんたの存在がいちばん「危険」だって自覚してないの?
平気で人の裸を見ようとするその神経が信じられないんだけど。
西館の奥に進んだところに、林の中と一体になったエリアがある。
秋になると紅葉が咲き、春になると枝垂れ桜が、石造りの露天風呂の景色の中に現れる。
針葉樹に飛び石や燈籠を設え、池には色鮮やかな鯉が優雅に戯れる。
四季折々の景色が楽しめるその場所は、現地でも“秘境の湯”として親しまれている特別な場所だ。
住み込みで働く職員のために、佐知子さんの計らいで金曜日の夜21時から1時間だけ、その場所に自由に入ることが許されていた。
普段は混浴で、一般のお客さんも自由に出入りすることができる場所だけど、“清掃中”の張り紙を出すことで、一時的に独占することができた。
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