デクは焦りながらパンツを履きにいった。
…ったく、大体服をそこら辺に投げるな!
従業員でもないあんたがタダでこの場所に入ろうってんだから、身だしなみくらいちゃんとして。
ブクブクッ(※湯船の中で息を吐いている音)
…はぁ
とんでもないもの見ちゃったよ…
男の人のってあんななんだ…
じゃなくてッ、なんで私がこんな目に合わなくちゃなんないのよ
多分コイツは私を女として見ていない。
そもそもコイツが、“女性”に興味を持つことなんてあるんだろうか。
言動を聞く限りなさそうっていうか、恋愛自体に興味がなさそう。
仕事第一優先というか、仕事に対する価値観がぶっ飛んでる。
今日一日、コイツの笑顔を見ていない。
四六時中仏教面で、声のトーンでさえほとんど起伏がない。
仕事に向き合う上では、”平常心が何よりも重要だ“とか言ってた。
頼もしいとは思うよ?
ヘラヘラしてるよりかはさ?
でも、物事には限度っていうものがある。
見てよ?
コイツの面。
こんないい湯に浸かってるってのに、めちゃくちゃ周りを警戒してる。
すず虫が鳴いてんでしょ?
月は綺麗だし、少しくらいまったりしたら?
◇◇◇
脱衣所で髪を乾かしたあと、部屋に帰った。
私の部屋は、旅館から少し離れた森小屋にある。
二階建てで、瓦屋根の木造建築だ。
この場所には私の他に、正社員の“夏帆さん”と、宮崎大に通ってる透先輩が住んでいた。
2人とも、私と同じく住み込みだった。
「玄関は靴が多いから、隅っこに置いて」
「承知した」
2階に電気が点いてたから、透先輩はもう部屋にいるんだろうな。
夏帆さんは今週夜勤だから、朝まで帰ってこない。
2人ともびっくりするだろうな…
ちゃんと説明しとかないとだけど、何から説明しよう…
「使用人」って言っても意味不明だよね?
さっき佐知子さんに説明したら、“照れなくてもいいのに”ってあしらわれた。
まじでそんなんじゃないっつーの
デクはデクでちゃんと説明しろよマジで。
ぼーっと突っ立って、私の説明なんて他人事のようにさ?
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