私の部屋は、透先輩の部屋の隣にあった。
階段を上がって、まっすぐ進んだところの突き当たり。
住み込みの人たちを住まわせているっていうだけあって、家の作りは広々としていた。
横長で、奥に広い。
私の部屋は13畳ぐらいあって、1人で寝泊まりするには快適すぎる広さだった。
ベットはキングサイズで、おまけに低反発クッション付き。
ただちょっと風通しがいいと言うか、冬は寒かった。
暖房をつければいい話なんだが、家自体が古いせいで、外からの風が家の隙間からよく入るんだ。
廊下も壁もひんやりしてるし、部屋以外の空間がめちゃくちゃ寒くて。
夏場は快適だった。
正直、冷房をつけなくてもいいくらい。
まさか、扇風機をフル活用するなんて思わなかったよ。
扇風機なんて旧石器時代の遺物だと思ってた。
それが、まさかMVP級の活躍をするとは…
「隣に先輩がいるから、会ったら挨拶くらいしてね」
「先輩…?先輩というのはこの職場の人か?」
「そうだよ。くれぐれも失礼のないように」
「そうか。ではそうさせてもらおう」
「頼むから変なこと言わないでよ」
「変なことというのは?」
「“使用人”とか、“ボディーガード”とか、その他諸々。全部私が説明するから」
「俺が言うと何か問題でもあるのか?」
「問題だらけよ!“あんたが勝手についてきてる”っていうことを、今一度頭に入れておいて!そもそもこの場所にいること自体まだ認めてないんだからね!?」
「…そうか」
「全部仕方なくよ!仕方なく!何言っても言い返してくるし、やり取り自体めんどくさいから放ってるだけ」
「それは申し訳ない」
「本当に申し訳ないと思ってるんだったら、もう少しこっちのこと考えてね!?いつまでいんのか知んないけど、“歩み寄る”っていう努力ぐらいして!」
デクは申し訳なさそうに無言で頷き、その場に正座した。
本当に申し訳ないと思ってるんだろうか…
歯磨いてさっさと寝よう。
目覚ましは5時にセットした。
明日は宮崎港に行って、魚の買い出しに行かなくちゃいけない。
デクは座った状態で睡眠を取るそうだった。
入り口と窓にセンサーを設置し、侵入者があった瞬間にすぐに対応できるよう、最大限の警備システムを構築した上で。
デクのせいで、一夜にして私の部屋が要塞と化してしまった。
ガラスは防弾製のナノファイバーマットを敷かれ、ドアノブや廊下には振動を検知する振動センサーも。
本当は“寝る場所を特定されること自体危険”だということで、彼がいくつかプランを用意していたみたいだったんだが、全部却下した。
少しだけ、彼のことで分かったことがあるんだ。
デクは自分の仕事を誇りに思っていて、過剰すぎるほどに絶対的な自信を持っている。
任務を完璧に遂行することしか頭になくて、反面、任務を遂行する上での難易度を、“高く設置しがちだ”ということに。
エージェント・フィクサーだかなんだか知らないが、そこで優秀な成績を収めてるんだったら、家を特定された環境下でも守ってみなさいと要求したら、思いの外意外な反応をしたんだ。
彼が言う“合理的”な手段を取るならば、わざわざ火の中に飛ぶこむような真似はしない。
合理的な手段を選ぶなら、私をおぶってでも彼の「プラン」とやらに連れて行くのが筋でしょ?
でも、その選択肢を取る前に、彼は深く考えたあと、こう言った。
「試してみよう」
と。
その表情からは“俺に不可能な仕事はない”と言わんばかりの不敵な自信が垣間見えた。
多分、彼の性格なんだろう。
自分の目が行き届く範囲であれば、ある程度私の要求を呑んでくれる。
逆に自分の目が行き届かないことに関しては、どんな要求でも呑んでくれない。
風呂場に時にそう思った。
何が何でも中に入ってくる割に、服を脱げと言えばすんなり脱ぐし…
ああああ
思い出しただけでも嫌になる。
とにかく早く寝よう。
デク、電気消して!
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