「どうした?入らないのか?」
「…本気で言ってる?」
「本気も何も、俺はこれまで冗談を言ったことはない」
脱衣所への入り口でデクのことを睨みつける。
今日は金曜日で、何があってもこの場所に入るって決めてた。
こんなバカのせいで私のスケジュールが乱されるなんてあり得ない。
かと言って、みすみすコイツを入れるわけにもいかなかった。
私だって女子の端くれだ。
立派な「女の子」なんだ。
女子には女子なりの尊厳ってもんがあんのよ!
こっから先は神聖な領域。
おわかり!?
「ここで待っててくれない?」
「それは困る」
「私もね!?」
「キミは困らないだろう。何をそんなに嫌がっているんだ?」
「だーかーら、おかしいと思わないの??」
「一緒に入ることがか?」
「そうよ!」
「…わからないな。昔同僚に言われたことはあるんだ。一緒に射撃練習をしようと言ったら、“1人でしたい”と感情的に怒られてな。それと似たようなものか?」
「…わかんないけど、全然違う!」
「では、説明してくれ。それについて対処しよう」
「この“問題”について対処できるのは、あんたがここに入らないということだけ!」
「いささか説明に具体性が欠けているな。それでは合理的な答えを導き出せない」
「合理的もクソも無いわ!そんなに私の裸を見たいわけ!?」
私が“魅力的な女性だ”っていうことは周知の事実。
だからって中に入ろうとすんじゃないわよ。
なんかあったら叫ぶから安心して?
なんなら最近のスマホは防水性能ばっちしだから、繋いだままにしておくしさ?
「…恥ずかしい?」
「そうよ!わかんでしょ?!」
「裸を見られることがか?」
「そうだって言ってんでしょ!」
「ふむ。その思考については理解がし難い…。少し時間をくれないか?」
…なんで理解し難いのよ
じゃあ何?
あんたは今ここで全裸になれるっていうの??
羞恥心とかないわけ?
「必要とあらば脱ごう。しかし脱ぐメリットがない。この服は戦闘用の服で、防弾性能もトップクラスの代物だ。ナノファイバーマットと言ってな。服に使用された素材は非常に軽く、鋼鉄やケブラーよりも優れた防弾性能をもっている」
「…へぇぇぇ、そうですか」
「それに公共の場で服を脱ぐというのは法律に引っかかるだろう。理に反することはできるだけ避けたいものだ。違うか?」
「その“法律”がなんで制定されてるか、冷静に考えたらわかんでしょーが!!」
「…軽犯罪法第1条第20号か。内容はこうあるな。「公衆の目に触れるような場所で公衆に嫌悪の情を抱かせるような方法で、尻・もも・その他身体の一部をみだりに露出する行為」と」
「その“公衆に嫌悪の情を抱かせるような方法”って意味わかる??」
「俺はあらゆる国の文化や法律に精通しているつもりだ。が、その内容の“制定されたプロセスや理由”についてまでは、網羅していない部分が多い。仮に街中で全裸で歩いている人間がいても、俺は不快に思ったりはしない。しかし、世間の人々はそうは思わないのだろう?だからこそ法律が制定されていると認識する」
…やば
今日イチでびっくりだよ。
どういう神経で生きて来たの?
ってか、どういう環境で育って来たんだろう…
考えても仕方ない。
このバカに説明している時間がもったいない。
減るもんでもないし行くか。
入って来てもいいけど目を瞑ってなさいよ????
それか違うとこ見といてくれる?
頼むから、私の癒しの時間の邪魔はしないで!
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