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堂島龍生。
通称、デク。
ひょんなことから彼が付き人になって、はや1日。
夕食食べながら、彼と色んな話をした。
「独学で日本語を学んだって言ってたけど、具体的にどうやったわけ?」
「教材だ。リスニングというものがあるだろう。覚える方法はいくらでもある」
「基本は英語を喋るって感じ?」
「色々だ。英語の時もあれば、スペイン語も。中国語やインド語も熟知している。日本語は比較的覚えやすい言語ではあった。単に「音」の認識なら、日本語は母音が5つ。発音は文字が一音づつであるため、想像がしやすい。英語は母音も子音も日本語より細かく別れているため、聞き分けが難しい上、発音が不規則であり、文字を想像し難い。そういう意味では、比較的短期間で理解することが可能になった」
「中国語にインド語…。試しに喋って見てよ」
「どんな言葉がいい?」
「んじゃー、ドイツ語!」
「Entschuldigung, wo ist die Toilette?(エントシュルディグング ボー イスト ディ トァレッテ)」
「…どういう意味?」
「トイレはどこにあるかという意味だ。ちょうど聞きたかったのでな」
「なるほど。…ってか、すごいね」
「大したことではない。生きていくための術の一つだ。キミも俺と同じような立場であれば、少なからず似たようなスキルを覚えていたはずだ」
「似たようなスキル…ねぇ。元海兵って言ってたけど、…もしかして人を殺したこととかもあるの?」
「ある。何人かまでは、覚えていないが。俺の部屋には、味方のドックタグも、敵のドックタグも保存している。戦争に出るものは皆深いところで繋がっている。殺されるものもそうでないものも、立場は違えど、“同志”だからな」
「物騒な話だね…」
「世の中ではどこかで戦争が起こっている。日本は終戦以来長らく銃を持つ日常が訪れていないが、それは単なる“偶然”に過ぎない。束の間の安息というやつだ。もしかしたら10年後、この場所が紛争の地域になっている可能性も0ではない」
「それはないない」
「何事も、“100%そうならない”ということは存在しない。真の平和など、遠い未来に於いても実現が難しい話だ。「人間」という存在自体が、不確定要素の塊だからな」
「あのさぁ、その堅苦しい話し方、なんとかなんないの?」
「む、変か?」
「んー、まあ、控えめに言って変かな。ちょいちょい小難しい単語挟んでくるしさぁ」
「…そうなのか。師匠には褒められたが」
「師匠って誰よ」
「俺が所属していた部隊の長官だ。元殺し屋でな」
「殺し屋ぁ!?」
「ロシア生まれの元諜報員で、凄腕のスナイパーなんだ。親日家でな」
「へ、へー。殺し屋が親日家…、かぁ…。ってことは、日本に来たこともあるってこと…?」
「もちろんだ。むしろ彼女に、日本について様々なことを教わった」
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