「これから仕事なのか?」
「買い出しよ買い出し。昨日言ったでしょ」
「宮崎港に行くと言っていたが、どうやって行くんだ?」
「コーさんが連れてってくれる」
「コーさん?」
「料亭のおじさん。坂もっちゃんの弟子みたいなもん。バンを出してくれてるから、あんたは後ろに乗ってね」
週に1回、当番の人が買い出しに行く。
買い出しっていうのは備品とか食材とか、掃除用品とか諸々。
メインどころは「魚」になってる。
宮崎市は太平洋に面してて、南九州の入り口とも言われる宮崎港が市内の中心にある。
時期によって旬の魚が変わり、この時期の目玉はカンパチとかトビウオとか、あとスズキなんかも。
コーさんは筋肉質の元サラリーマンで、5年前にこの旅館に飛び込んできた40代のおじさんだった。
元々は工場勤務か何かで、食品関連の製造をしていたみたいだった。
ちょっと強面で、口数も少ない。
だけど笑うと可愛いんだ。
どこかおっちょこちょいっていうか、強面の割に小心者なところとか。
「コーさんごめん。この人後ろに乗せていい?」
「んん?…構わんが、新人か?」
「まあ、そんな感じ」
「本当か!名前は?」
「堂島龍生と申します」
「ハハッ。礼儀正しい青年だな。ようこそ、姫乃旅館へ」
「コーさん。騙されちゃダメだよ。こう見えて無神経の塊だから」
「おいおい、アズサに言われちゃーおしまいだな(笑)アズサは旅館一の肝っ玉娘だから、気ぃつけろ」
「ちょっとちょっと、コーさん!?」
「それについては把握しています。逞しい女性だと」
「お、わかってるじゃねえか」
「逞しいって、褒め言葉になってないからね?」
「そうか?俺は最大級の賛辞だと思っているが」
「私はか弱い“女の子”なんですけど??レディーよレディー。繊細でお淑やかな生き物なの」
「…ふむ、それについては、少し疑問の余地があるな」
「あんたねえ…」
「ハハハ。面白いな、お前たち」
氷漬けにしたクーラーボックスとビール瓶のカゴを乗せ、バンを走らせる。
目指すは、宮崎港。
空港のそばを通り、大通りへ。
8月だけど、少し肌寒い。
先週はこんなことなかったのにな。
お盆を過ぎて、道端には彼岸花が咲いてた。
夏休みはあっという間だった。
友達と遊びまくって、全身日焼けして。
青島の海は最高なんだ。
宮崎港から見える海とはまた違って、空を近く感じる。
青島街道に連なる椰子の木が、カラフルなビーチパラソルの沿岸沿いに続いていく。
2年前まで、この街のことは何にも知らなかった。
海が青いことも知らなかった。
空気が美味しいって感じたのは、この町が初めてだった。
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