「さーて、終わった終わった」
夕食の配膳を終え、ひと段落ついた。
客室の案内も控えてなさそうだし、部屋に帰ろっと。
デクはフロントでおとなしく待機していた。
流石に私の後ろをほっつき歩くのはまずと思ったんだろう。
あくまでお客さんを装い、運ばれてきたお茶を嗜んでいた。
「仕事が終わったからご飯食べに行くけど、あんたも食べるんでしょ?」
「む、ご飯を…?いや、そんな失礼なことはできない」
…どの口が言ってんの?
今日1日「失礼」の限りを尽くしてきたあんたが、何を畏ってんだ…?
「佐知子さんが準備してくれてるから、言葉に甘えたら?」
「しかし…」
「時間がもったいないからさっさとして。通路を渡ったところに食堂があるから」
「わ、わかった」
旅館の敷地は広くて、本館の他に、別館がいくつかある。
外が見える渡り廊下を渡って、職員用のスペースがある西館に入った。
今日の献立は何かなー
夕食は日帰りで変わる。
お客さんへ提供する料理の残りもので作るため、ご飯と味噌汁以外は決まったものがなかった。
大抵は魚とか漬物とか、日本料理のアレ。
料理長の坂もっちゃんが作る料理は絶品だった。
お米は地元で取れた新米を使ってるから、もう最高で。
「ご飯は自分でついでよ。そこに味噌汁もあるから」
「…すまんが、スプーンはどこかにないか?」
「スプーン??箸がそこにあるでしょ」
「…箸は使ったことがなくてな」
「使ったことがない??あんた日本人でしょ?!」
衝撃の事実なんだけど。
アメリカにずっといたのはさっき聞いた。
でも、日本語は?
そんなに喋れるんだったら、少しくらい日本で生活したことあるんじゃないの?
「日本語は独学だ。日本にいたのは3歳くらいまでで、あとは海外で暮らしている」
「独学!?独学って、両親は?」
「両親はいない。殺されたんだ。生まれてからすぐにな」
「…なんか、ごめん」
「気にするな。両親など、所詮は遺伝子的な配列の上に立つ“関係者“に過ぎない。見方が変われば、赤の他人も同然だ」
「ハハッ、何それ。面白いこと言うじゃん」
「どこら辺がだ?」
「親なんて、所詮血が繋がってるだけの関係でしょ?もし決めれるんだったら、私は違う親がいい」
「ふむ。ずいぶん嫌っているようだが、何かあったのか?」
「…何も。ご飯が不味くなるからこの話はやめ。スプーンは多分ウォーターサーバーの近くにあった気がする。探してみて」
「気遣い感謝する。ちなみに、この食事に関しての代金だが…」
「いらないよそんなの。ちゃんとあとでお礼は言っといてよね。残り物って言っても、坂もっちゃんが愛情込めて作ってくれてんだから」
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