「さ、私たちも帰りましょっか。やることはやったしね」
「そうだね。虎牙も心配してくれたし、暗くなる前に帰ろう」
最後に一通り、片付けが出来ているか見て回ってから、私たちも秘密基地を後にした。
空は晴れわたっていても、やはりこの森の中まで降りてくる光量は少ない。所々、明るくなっている部分はあれど、それ以外はどんな天候でも暗いのは一緒だった。
――そう言えば。
分岐路まで戻ってきたとき、私はふと思い出す。この道の先に、電波塔や観測所以外にもとあるスポットがあることを。
そしてそのスポットには、意味深なことに、鬼の名が付けられていることを。
「ねえ、玄人」
「うん?」
「玄人も、もう満生台に来て一年経つし、知ってるとは思うんだけどさ。……この先にある池のこと」
「池……」
彼も何となく聞いたことがあるらしく、その名前を思い出そうと考え込む。ともすればずっと悩んでいそうだったので、私は正解を先に告げた。
「その池、鬼封じの池とか言われてるらしいのよね」
「……鬼、ね」
「うん。何か、気になるのよ」
鬼という言葉には、玄人も興味というか、謎があるらしく、真剣な目で話の続きを促してくる。
「三匹の鬼の伝承は、何となくこの村に広まってるじゃない? だから、自然と知る機会もあったんだけどさ。どうも鬼封じの池っていう名前の理由は、まるで情報が入ってこないじゃない。そっちの伝承だけは皆忘れちゃったっていう可能性もなくはないけど、それはちょっと違和感があるのよねえ……」
「鬼繋がりで、何か関連がありそうな感じもするもんね。池のことを誰も知らないってのは、そういえば変かもしれない」
多分、誰も知らないということはないだろうが、長い年月を経ているし、正確な内容が分かる人がいなくなっているのかもしれない。まず、瓶井さんが鬼の祟りを口にするまで、皆言い伝えそのものを持ち出したりなどしなかったのだから。
鬼封じの池。そこに鬼に関する何かがあるのだろうか。それを確かめてみたい。
「最近のことがあって、鬼について色々調べたいなって思い始めてきちゃって。……だから、あの池も探検してみたいなーと」
「探検?」
「そ。ちょっと危ないかもしれないけどね。こうやって秘密基地で遊ぶくらいだし、そういうことしてみても悪くはないんじゃない?」
「僕は全然構わないけど。虎牙とか、満雀ちゃんは行けるかな?」
「虎牙は無理やり引っ張って来るわよ。でも、そうねえ。満雀ちゃんは呼ばない方向でいきましょ。絶対、負担がかかっちゃうから」
「それがいいかな」
満雀ちゃんには悪いけれど、秘密基地よりも森の奥深くにある池だ。危険のある場所には、連れては行けない。
「んじゃ、ちょうど明日は日曜日だし、早速探索行ってみましょ!」
「え、明日?」
「こういうのは早い方が良いのよ」
玄人は呆気にとられているようだが、どうせ用事などはないはずだ。拒否もしてこないから、オッケーということにしておく。
「決まったところで、虎牙に連絡しとこ」
私はすぐにスマホを取り出して、落ちないように気をつけながら、チャットアプリに文章を打った。
『明日の昼、三人で鬼封じの池に探検に行くわよ! 拒否権は無し!』
「うん。これでオッケーね」
「あはは……そうだね」
返事はすぐに来た。
『めんどくせえ』
奴の感想は聞いていないので、手短に集合時間を知らせておく。
『今日と同じく、一時集合ね』
その一文はすぐ既読になったが、虎牙からの返事はもう来なかった。まあ、見てくれたからそれでいいのだ。
「じゃ、明日の昼一時ね! 玄人のことだから心配はしてないけど、遅れないように」
「了解。じゃ、また明日」
「ん。また明日」
私たちは手を振りあって、それぞれの方向へ別れた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!