催し物のイベントが決まると、バラギットに持たせる土産物を選ぶべく、市場を見て回っていた。
三人で一通り見て回り、ある程度候補も絞り込むと、ライゼルがうーんと伸びをした。
やるべきことは終えた。
あとは適当に食事でも食べて解散するとしよう。
何か食べたいものはあるか? ライゼルがそう提案する前に、アニエスが口を開いた。
「それでは、私はこの辺で失礼しますね」
「なんだ、もう行くのか。飯くらい奢っていくぞ」
「そうですよ。せっかく仲良くなれたんですし、アニエスさんも一緒にご飯を食べましょう!」
フンスとシェフィが鼻息を荒くする。
「しかし……私が居ては邪魔ではないですか?」
「邪魔なんてとんでもないですよ! アニエスさんが居た方がわたしも楽しいです!」
自分の発言を失言と捉えたのか、シェフィが慌てて補足する。
「……あっ、別にライさんと居るのがつまらないって言ってるわけじゃないですからね? 本当ですよ?」
「ですが、せっかくのデートだというのに、私がいては……」
ライゼルとシェフィが顔を見合わせた
デート? いったい何の話をしているのだ、アニエスは。
二人が首を傾げていると、微妙な空気を察したのかアニエスが尋ねた。
「あの……失礼ですが、お二人は交際されているのでしょう?」
「えっ!?」
「は!?」
ライゼルとシェフィの素っ頓狂な声が重なる。
「なんでそうなるんだよ!」
「ライゼル様のことを愛称で呼んでいるので、てっきりそういう関係かと……」
「そういうのじゃないから!」
「そ、そそそ、そうですよ! 第一、ライさんも迷惑でしょう!? わたしとお付き合いしているなんて噂が広がったら……」
急に話を振られ、ライゼルが固まった。
ライゼルとて婚姻前の貴族だ。
浮ついた噂が広がってしまえば迷惑極まりないが、とはいえここでシェフィの好感度を下げるのも、それはそれで支障が出る。
これが正妻と婚儀を終え、向こうの許可をもらった後であれば側室も迎えることができるが、それも当分先の話だ。
将来的にシェフィを側室に迎えるかどうかは別としても、男として、とりあえずここはウソでもフォローを入れるべきだろう。
「…………全然迷惑じゃないぞ」
「それはよかったです……」
シェフィがほっと胸を撫でおろす。
一方、アニエスは、
(すごく迷惑そうな顔……どうやら交際していないのは本当のようですね……)
迷惑そうな顔をするライゼルを見て、二人の誤解が解けるのだった。
◇
宿に戻ると、シェフィは本国であるモノマフ王国に報告を行なっていた。
「……以上が本日の報告です」
『ご苦労だった。……だが、そこまで細かく報告する必要はない。あくまで重要な情報だけで構わんからな』
「? どういうことですか?」
『買い出しで何を買ったか、何を食べたかまで詳しく報告しなくていいと言ってるのだ。……何が楽しくて儂はお前の休日の話を聞かなくてはならんのだ』
「あっ、すみません。つい楽しかったもので……」
シェフィが頭を下げる。
『まったく……とにかく、何か変わったことがあればまた報告しろ』
「わかりました」
通信魔道具を切り、その日の報告を終える。
布団に潜り目を閉じると、昼間のアニエスの言葉が頭をよぎった。
『ライゼル様のことを愛称で呼んでいるので、てっきりそういう関係かと……』
……
…………
……………………
「えっ!? ライさんがライゼル様だったんですか!?」
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