ライゼルが決戦に選んだ地は、開拓地の郊外に位置するなだらかな丘陵地帯であった。
グランバルトから開拓地までの途上に位置するこの地は、元々隊商の往来も激しく、伏兵を忍ばせやすいゆえ、盗賊の根城が置かれた土地である。
そのため、少数の軍で多数の敵を相手にするには都合がよく、地の利を生かせばまだ勝ち目があると判断したのだ。
バラギットの軍がやってくるより前に陣を築くと、ライゼル率いる軍はバラギット軍を迎え撃つ準備を進めていた。
ライゼルの考えた作戦はこうだ。
まず、兵を三分割し、二つは伏兵として忍ばせておく。
次に、残った兵で敵と交戦し、ある程度戦ったのちに退却し、敵をキルゾーンに誘き寄せる。
敵兵がキルゾーンに到達すると、退却を装っていた軍を反転させ、それと同時に伏兵で包囲殲滅するというものだ。
この戦いで最も消耗が激しく、指揮が困難になるのは、敵を釣る囮の部隊だ。
そこで、囮の部隊には全軍のうち半数にあたる150を配置することにした。
「囮の部隊は、アニエス。お前に率いて貰いたい」
「はっ。ライゼル様のご期待に沿えるよう、力を尽くします」
「それと、囮の部隊は俺も入る」
「ライゼル様が!?」
「そんな……このような危険な任、ライゼル様に負わせるわけにはいきませぬぞ!」
「そうでさぁ! 何も大将が先頭に立って危険な役目につくこともねぇ!」
しれっと自分の配置を宣言するライゼルに、案の定、アニエスやオーフェン、フレイが噛みつく。
「いいんだ。……叔父上が俺の命を狙っているのなら、顔くらい見せた方が食いつくってもんだろ」
「ですが……」
思うところがあるのか、オーフェンが食い下がる。
危険な役目には違いないが、もちろん、死ぬつもりはない。
副官にはアニエスをつけ兵の指揮と自身の護衛をさせた上、さらにカチュアを置くことで、魔法での支援を手厚くさせる。
そこまで補助輪をつけるのであれば、生還の望み十分にあるだろう。
「待ってくだせぇ! 危険な役目ってんなら、大将だけに任せてられねぇ! ……オレにも命張らせてくだせぇ!」
「フレイ、気持ちはありがたいが、お前には伏兵を任せたい。……余計なことを考えずに、やってきた敵にデカいのをお見舞いする。……お前にピッタリの役目だろ?」
「大将……」
ライゼルの言い分に一応納得したのか、フレイが反論をやめる。
「まあ、いいんじゃないっすか? どのみち、この作戦は囮が壊滅したら終わるんで。ボスが居ようが居まいが、失敗するときは失敗するってもんっすよ」
「ライゼル様、こいつも同行させてください。いざという時に盾になります」
「大将、コイツ影武者にしましょうぜ。万が一の時には大将だけでも逃げ切れる」
「なーんか俺の扱いだけ酷くないっすか?」
オーフェンとフレイの提案にアナザが抗議する。
なるほど。たしかに弾除けは大いに越したことはない。
二人の案を採用させてもらうことにしよう。
そうなると、必然的に伏兵にはフレイとオーフェンを当たらせることになる。
ある程度配置を決め、軍議が終わろうとしている中、おずおずとシェフィが手を挙げた。
「ライさ……ライゼル様、わたしは……」
「シェフィは工事の方をやってもらう。……言っただろ。作ってほしいものがあるって」
キルゾーンに誘導するには、敵軍に大河を渡河してもらう必要がある。
しかし、この時期の大河はまだ水量が多く、渡河するには少々決断が必要となるだろう。
そこで、シェフィには魔法で堤を作らせることにした。
自然にできたの窪地に水の流れを誘導し、意図的に大河の水量を減らさせるのだ。
「でも、皆さんが戦おうとしているのに、わたしだけ……」
アニエスの声がしぼんでいく。
ライゼルやアニエスが命を懸ける中、自分一人戦場から離れたところに配属されることに負い目があるのだろう。
気持ちはわかるが、シェフィの感情を優先して配置を変えるわけにもいかない。
純粋な知識量もさることながら、港の工事で実績があり、土魔法が使える。
これらすべての能力を備えるのはシェフィをおいて他にいない。
「なにも仲間外れにしようってわけじゃない。……お前にしかできないことだからだ」
「わたしにしか、できないこと……」
ライゼルの言葉を噛みしめるようにシェフィが繰り返す。
「頼りにしてるぞ」
「は、はい!」
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