「早く、早く急がないと! 疾駆! 纏雷!」
全身に順風と雷電を纏い、今出せる最高速度で北門最後の戦地へと向かう。
今の俺に「躓いたらどうしよう……」といった不安は一切なく、ただ必死に前だけを見据えて駆けるのみ。
それから少し経つと、その必死さが功を奏したのか、すぐに戦地が見えてきた。
「もうすぐ着く……っていうか、もう着いちゃったよ……ははっ、速すぎだろ……ん? 前の方に誰かいる……?」
早くも戦地へ到着できたことに小さく驚いていると、土煙が広範囲にわたって立つなか、前方に何者かの影姿を目にしたので、即座に疾駆と纏雷を解除してから急停止……のはずが、速度を出しすぎて急には止まれず、危機を感じて声を上げる。
「まっ、マズい! 全然止まらない! このままじゃーーうっ、うわぁぁぁーっ!!」
「!?」
俺の叫び声に影姿は反応したように見えたが既に避けられる状況ではなく、どうせ当たるならばと、咄嗟に両手を前方へ突き出して身体での衝突だけは避けた。すると……
「ドンッ!」
何者かと衝突……というよりも、一方的に両手で突き飛ばしてしまい、その何者かは凄い勢いで吹き飛んでいく。
そして奥にいた魔物達を次々と撥ねていき、最後には「パンッ!」と破裂して四散する。
「う、嘘だろ……俺、人を殺して……ん? なんだ……? 両手に残るこの感触は……もしかして、体毛か? でも、そうなると俺が押し飛ばしたのは、一体……?」
両掌を見ながら何を突き飛ばしたのかを考えている最中、急に背後から女性が声を掛けてきた。
「そこのアナタ、私を助けてくれたのね? 礼を言うわ、ありがと!」
聞き覚えのある声に自然と振り返り、誰だったかな? と答えを探るように顔を覗いてみると、そこにはイズナの姿が。
「えっ!? あ、アナタは……あの時のFランク!? 何故アナタがこんな場所に……!?」
俺が驚くよりも早くイズナは驚き、その際に口にした言葉はまさに、俺がセイナに言ったことと同様の言葉であった。
突然の邂逅に驚き合っていると、不意にイズナから述べられた礼のことを思い出す。
(……ん? そういえば、イズナさんはさっき助けてくれたって言ってたよな……)
「……ということは、俺が突き飛ばしたのって魔物だったってことか……? いや、寧ろそうでなくちゃ困るんだけどさ……」
推察するうちに、いつの間にか没頭して独り言を呟いており、ハッと気づくとイズナが怪訝な表情で俺を睨んでいた。
それはまるで「うわぁ……コイツ、変人だ……」と言いたげであり、やらかした感が半端ない。
(やっぱり変人に思われたよな……まぁ、間違いではないんだけどさ……はぁ……ん? これは……!?)
心の中でため息を吐いた直後、魔物達の気配を感じ取るが、どうやら既に取り囲まれていたらしく、全方位から殺気を向けられることに。
イズナもそれらに気づいたようで、怪訝な表情から一気に険しい表情へと変わり、動揺を隠しながら小声で俺に話し掛ける。
「ねぇ、聞いて……私が逃げ道をつくるから、アナタはそこを駆け抜けなさい……いいわね?」
そう話し終えたあと、イズナは額に冷たい汗を掻きつつ、辺りを見渡しながら俺を逃がすための道筋を探り始めるのであった……
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