「はぁ……ザルマ君か、多分あの件だよな……」
振り返ってすぐザルマに呼び止められるとは……早くギンを助けに行きたいのに。
恐らくは約束の件だろうが、俺の予想では約束を反故にしようと詭弁を述べてくるハズ。
そう思いつつザルマの方を振り返ると、予想とは違う言葉を聞くこととなる。
「さっ、さっきのはなんだ!? アレも魔法なのか!? あの光景は一体なんだったんだ!?」
「……」
「おっ、おい! 黙ってないでなんとか言え!」
「……」
(うるさいな……)
しかし、なんと答えれば良いのだろうか? 先程のは天界の一部を再現した『天界領域』という『神理スキル』の一つだと正直に答えるわけにもいかないだろうし、そもそも何故そんなスキルが使えるのかも話せない……というか話したくない。寧ろ話したら面倒なことになるのは目に見えている。
さて、どう答えるのが最も面倒事を避けられる……?
「くそっ、俺様に教えるものは何も無いっていうことか! ぐっ……」
……ん? もっとグイグイくるものかと思われたがそれほどでもない? てっきり「俺様にもさっきのアレを教えろ! この無能者が!」とでも言われるのかと覚悟していたのだが。
あと呪縛を解いたことに対しても何か言ってくるかといえばそれすらもないし……もしや、やり過ぎてしまったか……?
とはいえ、元々何も言わせないつもりでやったことなのだから口を開いただけ大したものだろう。
ザルマの動揺しながらもそれを悟られぬように抑えている表情を見ながらそんな考え事をしていると、後方で対峙しているギンとアヌビシオの間で動きがあったのを感じ取った。
「スゥゥゥーー」
「ーーガァァァーッ!!」
アヌビシオが呪縛の咆哮を上げるために息を吸い始め、それを阻止しようと咆哮を上げながらギンがアヌビシオへ向けて駆け出したようだ。
するとアヌビシオは呪縛の咆哮を中断し、ギンとの高速移動での打ち合いを再開した。
こうなってはまた魔法を当てるのは難しい。せめてギンへの誤射をなくせればよいのだが。
それにこのままではギンだけがダメージを負い、負けてしまうのは目に見えている。
とにかく現状を打破する一手を投じなければならないのは確実だろう。
ならば、さっさとこの無意味なやり取りを終わらせなければ……
「今俺に話せることは何も無いから、これで失礼するね? それじゃあーー」
「ーーまっ、待て! まだ話はーー」
「ーー話をしたければ約束の全裸土下座をしてからが筋じゃないのか?」
振り向きざまに見せる鋭い視線と言葉に「ぐっ……」と反論できずに俯くザルマ。
何も言えなくなったか……まぁ、それを狙ってのことではあるし、どうせ彼は約束を守るわけはないのだから話し合いはこれで終わりだろう。
「じゃあ、そういうことで」
無駄な時間を過ごしたなと思いながら後ろを振り返り、ギンとアヌビシオの死闘を見据える。何か良策はないかと考えながら。
その直後、すぐ後ろで地面に両膝を突く音が聞こえた。それはザルマが膝から崩れ落ちた音だった。
だが今はそんなことはどうでもいい……早く何か手を打たなければ……
「何かないか……何か、策は……」
冷静を装いつつも左拳を強く握り締めるのであった……
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