「分かってたさ、来るってことは……だから、次はこれで倒す!」
魔物が向かってくることは既に察知していたため動揺や焦燥は一切なく、寧ろ次なる一手を打つべく動き出していた。
それは、雷豹の動きから魔物達の動きを先読みし、効率良く倒せるよう事前に右へ5歩歩き、先頭を駆けるであろう魔物へ左手を向けて魔法を唱える体勢に入っていたのだ。
「来い、来い、来い……今だ! 破光!」
左手の掌に光粒子が集まり収束すると、高密度の光となり直径5cmほどの小さな光球と化す。
その高密度の光球から光を解放するように先頭の魔物に向けて放射した直後、光は先頭の魔物を中心に末広がりとなって魔物達を明るく照らし、8秒間絶えず照らされ続けた魔物達は突如、穴という穴から血を吹き出しては皆倒れていく。
しかし、それでも後続の魔物達は臆することなく俺を狙って迫りくる……が、そこまでしても俺の元へ辿り着けた魔物は1匹もいなかった。
「あぁ、この魔法を浴びるとこうなるのか……そうか……」
光砂を唱えた時と同様、破光も魔物に当てるとどうなるのかはイメージだけでは分からなかったのだ。
だが以前とは異なり、顔を背けたり肩を落とすようなことはなく、更には気味悪さや罪悪感を感じるようなことも殆ど無かった。
「これは、喜んでいいのか? それとも、悲しんだ方がいいのか? なぁ、教えてくれよ……ニカナ……」
「……」
ニカナは黙ったままで反応を示さない。
もしや、教えることで何か不都合でもあるのだろうか? 根拠は無いが何故かそう思えた。
「いや、気にしてる場合じゃないな……今気にしなきゃいけないのは、アイツだ……」
この時、突風が吹いたことで土煙は流され、僅かな時間だが先を見渡せるようになる。
そして眼前にいるのは、西門にいたのと同様の普通ではないアヌビシオただ1匹のみ。
因みに、アヌビシオ以外の200匹はいた魔物達は全て俺1人によって倒されていた。
「やっぱりアイツだけは無傷か……でも、倒す方法は分かってる! 行くぞ、アヌビシオ!」
アヌビシオの元へ向かう最中、分かつ壁となっていた大炎は静かに消えていった。
それは燃やせるものが無くなったからであり、つまりは燃えていた魔物達が完全に燃え尽きたということに他ならない。
何はともあれ大炎が消えたことで、ムツコと他9人の冒険者達は行動が可能となった……と思いきや、ムツコ以外の9人は呪縛に掛かったまま動けずにいる様子。
「何故ムツコさんは呪縛を解くことができたんだ? もしかして、セイナさんと同じように何か秘密の解呪法でも知ってるのか?」
そんな謎を抱え、ムツコ達の方を振り向きながらも進む先は、あの漆黒を纏うアヌビシオがいる場所だ。
「ダメだ、今はアイツに集中しないと! 他の人達が危険に晒される前に倒さなければ!」
再びアヌビシオを見据え、魔法の当たる距離まであと5mを切り、すぐに聖炎を唱えなれるよう左手を奴に向けた瞬間、見据えていた漆黒が突然消えた。
「!? 消えた!? いや、動き出したんだ! でも、一体どこに!?」
遂に動き出したアヌビシオを肉眼で捉え損ね、懸命に周囲を見渡して姿を探すなか、あることを思い出して額から冷たい汗が流れた……
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