「まっ、待ってください! 私も行きます!」
『!?』
俺達を呼び止めたのは不思議な瞳を持つ女性であり、その瞳は真剣そのものだ。
ただ、よく見ると先程まで浮かび上がっていたハートの形を模した何かはいつの間にか消え、綺麗な黒眼だけがハッキリと映し出されている。
因みに、その女性から出た同行発言はあまりにも意外であったため、俺やイズナだけではなく、4人の男達までもが同時に驚いていた。
(うーん、どうしたものか……正直言って、付いてこれるとは思えないしなぁ……)
この後はムツコのいる場所まで飛ばしていくつもりなので、余程の脚力か速度を上げるスキルが無ければ付いてくることは到底不可能だろう。
そう考えて、どちらか一方でも持っているかを確認しようとしたその時、俺より先にイズナが口を開く。
「残念だけど、アナタじゃ私達には付いてこれないわ。だから、諦めてちょうだい」
「!? そっ、そんな!?」
イズナが女性のことをバッサリと切り捨てると、女性はショックを受けながらも同行の意思を示す。
「嫌です! 絶対に付いていきます! そもそも、アナタには関係ないでしょ!」
「なっ、なんですってぇぇぇっ!! 私はこの人と行動を共にしてるんだから、関係ないわけがないでしょ!」
「ふんっ、そんなの知るもんですか! 私はこのお方と一緒にいたいだけなんだから、邪魔しないでよ!」
2人は更に加熱して「何よ!」「アンタこそ何よ!」と何度も言い合いながら火花を散らすほどの睨み合いを始めたため、これはマズいと思った俺は慌てて仲裁に入ることに。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 2人とも、一旦落ち着きましょう!」
咄嗟に2人の間に入って落ち着かせようとするが、心の中では「きっとこの程度では無理だろうな……」と諦めていた。すると……
「分かりました、落ち着きますね?」
そう言って女性は再び俺に抱きつき、スリスリと顔をこすり付ける。
そのあまりの変わり身に、俺とイズナは唖然としながらも目を合わせて無言のまま話す。
(これは一体どういうことですか!?)
(さ、さぁ……私が聞きたいくらいよ……)
その様子を察知したのか、女性は遮るように俺の顔を見上げ、潤んだ瞳で懇願してきた。
「私も一緒に行きたいんです……迷惑は掛けません……だから、お願い……」
色気を漂わせつつ健気な姿を見せるこの女性に対し、断ることができず、仕方無しに首を縦に振って了承すると、急に女性は態度を変えて俺に頼み事を。
「ありがとうございます♡ それではお願いしますね? お姫様抱っこ♡」
更に唖然とする俺の右手をそっと握り、自身の首裏に右手を添えさせて「どうぞ♡」と笑顔でお姫様抱っこをせがむので、困惑しながらも観念してお姫様抱っこをした……がその直後、イズナは凄い剣幕で声を上げる。
「ちょっ、ちょっと! なんで言う事聞いちゃうわけ!? よりによってそんな女の!」
「え、えっと……」
「あ〜やだやだ、これだから女の嫉妬は醜いのよねぇ。さぁ、こんな女は置いて早く行きましょ?」
「なっ!? 何をーー」
「ーーストップ! ……分かってます、イズナさんの言いたいこと」
イズナの言葉を遮り、自身満々の表情を見せながら口を開く俺であった……
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