「今件は20年に1度の脅威であり、その正体は大規模なスタンピードとの報告があった! それに伴い、これから人員配備の割り振りを伝える!」
スタンピードとは魔物達による大暴走のことで、対処が間に合わず滅びた街が存在するほどの脅威である。
20年前はどうにか防げたらしいが、その時はSランク冒険者もとい、Sランカーがいたからだと伝えられている。
そして、いよいよ人員配備を言い渡されることに……
「先ずは東門! 指揮者は『剣姫』のセリーヌ、お前に任せた!」
「はい、了解しました」
流石はセリーヌだな。『剣姫』の二つ名を持つはずだ。
最もキツい場所に配備され、更には指揮者まで任されても眉一つ動かさないとは。
今この街にいる中では、セリーヌが最強と言っても良いだろう。
しかも指揮能力も相当に高く、非の打ち所が全く無い。
「次は南門! 指揮者は『紫影』のミカゲ、お前だ!」
「あいよ! 任せとけ!」
やはりミカゲも指揮者を任されたか。
この街にいるAランカーは僅か4人しかおらず、その4人の中に入るほどの実力を持つ男だ。
ただまぁ、性格に難はあるのだが……
因みに『紫影』の由来は髪色が紫色で、影を自在に操る闇属性魔法を得意とするからである。
「続いては北門! 指揮者はムツコ! イズナを補佐にして連携を密に図れ!」
「了解です! 頑張るですよ!」
まさかムツコが北門の指揮者を任されるなんて。
残り2人のAランカーではないので、きっとBランカーのハズ。
同じBランカーのイズナを補佐にすることで、あの脚力を活かし広範囲の連携を図る作戦と見た。
例の銀魔狼もいるので、あとは配備される他の冒険者達次第となるだろう。
「最後は西門! 指揮者は……キュロス、お前だ!」
「……え? えっ!? お、俺が指揮者ですか!?」
「あぁ! ていうか、お前一人で西門を守り切れ!」
「えぇっ!? おお、俺が一人で西門を!?」
てっきり補給係くらいに思っていたので、完全に意表を突かれ、驚き動揺し狼狽えた。
(うぅ、俺にできるか……? いや、やらなきゃならないだろ!? でも、震えが……)
ヒュドラとの連戦時さえ、ここまでの震えは無かった。
それほどまでに今件の脅威を恐れており、ニカナによる影響の範囲外という証明でもある。
すると、俺の震える姿を目にしたセリーヌが口を開く。
「無理です! キュロス一人だけなんて、無謀過ぎます!」
「異論は認めん! キュロスならやれる! 俺様が言うんだ、間違い無い!」
「ですが! それにはなんの根拠もーー」
「セリーヌ! もういい……俺なら大丈夫だから……」
セリーヌの言葉を遮りながら虚勢を張った。
だがそれは自棄からではなく、信頼を受けたからである。
「キュロスならやれる!」その言葉を聞いた瞬間に胸が熱くなり、そして勇気が湧いてきたのだ。
「セリーヌ、ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
「う、うん……」
(えっ? さっきとは別人みたい……?)
「よしっ! あとは手筈通り頼むぞ! 今は街の衛兵らと領主の私兵どもが堪えてくれているはずだ! それでは、解散!」
『おぉーっ!!』
シャカの号令後、早急に自身の配備場所へ向かい出す冒険者達。
その最中、俯きながら瞳を閉じ、右手で心臓の鼓動を確かめる俺であった……
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