「何か、何か便利な魔法はないか……?」
新たな魔法にヘルハウンド攻略を見出そうと熟考し出す。
街への被害を考えると、火属性と風属性は危険だからパス、土属性と氷属性は発動後の魔法速度が遅いからパス、水属性と闇属性は警戒されていそうだからパス……そうなると、あとは……?
こうして熟考する俺に向けて、あの門兵が声を上げる。
「おいっ、そこの無能! いつまでチンタラやってんだ! そんな犬っころなんて、さっさと片付けやがれ!」
「!? そ、その下卑た言葉遣いは……!?」
門兵からの野次を聞いた瞬間、あの門兵が誰かを思い出し、それに付随する出来事までも思い出してしまう。
それは、二度と思い出したくはない出来事であり、心の傷を抉りに抉るような記憶であった。
「あなたは、あの時の……Aさん……」
俺の中にある闘気は萎え、高速回転させていた思考も低下してしまい、とても戦闘中とは思えない状態となる。
そして僅かに回転する思考で、他のことを考え始めた。
何故、あの人がここに?
確か、今朝はいなかったよな?
もしかして、午後からの勤務なのか?
どちらにせよ、もう会いたくはなかったな……
そんな戦闘とは関係ないことを考えては落ち込む俺。
そんな俺の姿にヘルハウンドは好機と見たのか、前触れもなく駆け出し、俺に襲い掛かろうとする。
「お、おいっ!? 無能、なんで動かない!? お前がやられたら、誰がその犬っころを倒すんだ!?」
門兵Aからの野次に、俺は無反応のまま俯く。
その間もヘルハウンドは俺の元へ向かい続けている。
距離にすると、あと10mほどだろうか。
ヘルハウンドはそこから更にスピードを上げ、一気に俺を噛みつきにきた。
「グァァァーッ!!」
大口を開けて噛みつこうとするヘルハウンド。
それでも微動だにしない俺。
「おおお、おいっ!?」
門兵Aが不安げに声を上げた瞬間、ヘルハウンドの首は綺麗に切断され、俺の頭上を通過してそのまま地面に落ちて行った。
すると、頭部と胴体は切り離されているものの、出血は殆どしていない。
何故なら、ヘルハウンドが目の前まで来た瞬間に、光熱の白い刃で切断と止血を同時に行なったのだから。
実は俯いていたのは演技であり、その後はヘルハウンドに警戒されぬよう、心の中で新たな光魔法である「白刃」を唱えていたのだ。
ただ、全てが演技と言うわけではなく、きっちり精神的ダメージは受けている……ぐふっ!
もし出陣前にニカナから勇気を分けてもらえてなければ、きっと立ち直れなかっただろう。
「ニカナ……ありがとう……」
ニカナの入った御守袋をギュッと握り締め、小さくそう呟く。
その直後、ニカナから喜びの感情が流れ込み、自然と俺まで喜び微笑み出す。すると……
「す、すっげぇー!」
「それな! マジすげぇーっス!」
西門の隅から、今朝に俺を見下し陰口を叩いていた、門兵DとEがひょっこりと姿を現し、興奮しながら俺を褒め称えてきた。
「え、えっと……ど、どうも……?」
今まで他人に褒め称えられたことが無かった俺は、どう対応すれば良いのか分からずに、ただただ困惑していた……
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