「まいった! 今回は俺の負けだ!」
「ミカゲ……」
『!? ……そんな……嘘だろ……あのミカゲが……有り得ない……』
突然のミカゲによる白旗宣言に観衆は動揺を隠せず、とても信じられないといった表情を皆それぞれが見せている。
「それよりお前さぁ……」
「ん? なに?」
「なに? じゃねーよ! 俺を殺す気か!?」
「えぇっ!? な、なんだよ、急に……?」
突然の叱咤に驚きはしたが勝負中とは打って変わり、いつものミカゲに戻っている様子が見て取れる。
しかし、そうなると気掛かりな事が1つだけ。
(なら、あの時感じた殺意は、一体……?)
考えながら険しい表情をする俺。
すると、雷霆の余波で負傷した右足を引き摺りながらもミカゲは歩き、俺の目の前まで来て勝負の理由を話し出す。
「実はセリーヌに頼まれたんだよ、お前と本気で勝負して欲しいってさ!」
「えっ!? セリーヌが!?」
透かさずセリーヌの方へ振り向くと、ヒラヒラと右手を振りながら苦笑いを浮かべる姿が。
まさか2人が示し合わせていたなんて思っても見ないことだ。
だがこれでミカゲとの勝負は全て演技だと分かり、寧ろ喜ぶべきだろう。
「ははっ、そっかぁ……あぁ、本当によかったぁ……」
安堵に次ぐ安堵で一気に気が抜ける俺。
しかし、そこにミカゲが衝撃の一言を耳打ちする。
「でも、お前を殺そうとしたのは演技じゃねぇ……お前を殺して、セリーヌは俺が貰う」
「!?」
勝負中に感じた、あの明確な殺意を再び感じ取った俺は、咄嗟にミカゲから離れ警戒した。
「あぁ、心配すんな。今回は俺の負けだから一先ずは先送りにしてやるよ」
「……」
現状、ミカゲが話す言葉への信憑性は皆無だが、先程感じ取った殺意を今はもう感じない。
なので取り敢えずはその言葉を信じ、警戒を解く事にした。
「……で? これからどうすんだ?」
「……? これからって?」
ミカゲからの問い掛けの意味が分からず、自然と聞き返す。
「はぁ……お前、これから大変な事になるんだぞ? だからそれをどうすんのかって意味だよ」
「……? 大変なこと?」
「はぁ……ダメだこりゃ……」
「……??」
溜め息を吐きながらヤレヤレといった様子で首を横に振るミカゲ。
結局は分からず終いとなり、手っ取り早く事の発端であるセリーヌの元へと向かうことに。
「お疲れ様! 凄かったよ!」
到着して早々にセリーヌが明るく労う。
「あぁ、ありがとう……で、これでよかったかな?」
「うん、バッチリ!」
セリーヌから右手でOKサインを送られ、その様子を見てホッと一安心。
その最中、エリザが困惑した表情で俺達の元へ赴き話し出す。
「私は間違っていないハズだわ……何故なら、あなたは……」
エリザは途中で話すのをやめ、その場から立ち去って行く。
その話を聞いた瞬間、俺が見下され蔑まれる理由がそこに隠されている気がしてならなかった。
だがそれよりも今は、あのエリザが「ハズ」と言った事に微かな希望を見出せ、嬉しく喜び一人微笑む俺であった……
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