「そうだ……アイツらの性格は……」
冷たい汗が額から鼻の横を流れて顎先で止まる。
急いでムツコ達の方へ振り向くと汗は顎から離れて地面に落ち、それと同時に目の当たりにしたのは、漆黒の魔獣が腰を抜かしている1人の冒険者に襲い掛かろうとしている光景だ。
襲われようとしているのは藤色の髪をしたおかっぱ頭の男冒険者で、俺はその男を知っている。
その男は『ザルマ』というサブギルマス『レギン』の息子で、確か四男だったハズ。
一度だけ魔物との戦闘を目にしたのだが、正直アレは酷いものだった。
他の仲間に任せて自身は何もしなかったり、トドメの一撃のみ参加して自身の手柄にしたりとやりたい放題だったのだ。
なのに、何故かCランカーになれてデカい態度を取っている。俺なんかすれ違う度に無能と蔑まれていたしな。
まぁ、あのサブギルマスの息子だからな仕方ないか……
「……って、今はそれより急げ! あの男はともかく他の人達が危ない!」
ザルマのことを思い出す前からアヌビシオの元へ向かってはいたが、更に加速するために疾駆を唱えようと口を開いた瞬間、アヌビシオの方が早く加速してザルマを噛み殺そうと大口を開ける。
「ギン!」
ムツコが誰かの名を呼ぶが、誰なのかを考えている時間は無いため聞き流す。
「くそっ、間に合わない! こうなったらココから魔法を当てるしか!」
他の冒険者達もいるので本当はもっと近づいてからの方がよかったのだが、そんなことを言っている場合ではない。
急いで聖炎をと考えて左手をアヌビシオに向けるが、その直後にザルマとアヌビシオの間に何者かが割って入った。
「なんだ!? あ、あれは……ムツコさんの銀魔狼か? でも、前に見た時よりも大きくなってる……?」
ザルマとアヌビシオの間に割って入ったのはムツコの隣にいた例の銀魔狼。
先程見た時はグラスウルフほどの大きさだったのだが、今は漆黒を纏ったアヌビシオと同等の大きさとなっており、それに比例して魔力も膨れ上がっている模様。
そして、今こそが本来の姿なのだろう。俺を除けばこの中で最も魔力が高い。そう、あのアヌビシオよりも……
「これは銀魔狼が勝つか? けど、アイツを倒すには神聖魔法が無いと……」
銀魔狼にまで被害を及ぶ恐れがあるため聖炎は唱えずに接近することにしたが、俺の接近を待たずして銀魔狼とアヌビシオの戦いが始まってしまい、それは互いに高速移動をしながら鋭利な爪牙で攻撃し合う壮絶な戦いとなった。
あまりの速さに魔法を当てるのは難しく、下手すると銀魔狼にまで当ててしまう可能性が。
そう考えて、それなら今のうちに他の冒険者達を動けるようにとムツコの元へ向かうことに。
「ムツコさん、大丈夫ですか!?」
「はっ、はいです! あ、他の魔物さんを倒したのはキュロス様です? 炎がブワァーッ! って凄かったです! こうブワァーッ! って!」
「あはは……あ、ありがとうございます……」
「本当にブワァーッ! って凄かったです! もうブワァーッ! って! そうーー」
「ーーあっ、そうだ! 早く呪縛を解かないとなぁ!」
興奮しながら身振り手振りで話すムツコの圧に押され気味になるが、早く呪縛を解かねばと食い気味に話題を変える俺であった……
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