「イズナさん、分かってます。あとでイズナさんにもお姫様抱っこをしますから、今は助けに行くことを優先しましょう?」
自身満々の表情でそう告げると「コイツ、何を言っているんだ?」そんな表情をイズナは見せる。
その後、何かに気づいたイズナは呆れた様子で「はぁ……」と深いため息を吐き、俺の前を通ってそのまま歩き出す。
「あっ、イズナさん! 待ってください!」
女性をお姫様抱っこした状態で急いで追いつくと、イズナは不機嫌そうに頬を膨らませながら俺を無視して駆け出していった。
「イズナさん……」
「ふふっ、本当に醜いですね〜、女の嫉妬って。それよりもういいんじゃないですか? 放っておいても」
「……いえ、そうは行きません……だってイズナさん、道を間違えてますから……」
「……ぷっ! あはっ、あははははははっ! 何よそれぇ、おっかしぃーっ!」
大きく笑い続ける女性を見ているうちに段々と憤りを感じ、それはイズナを貶されたからでもあるが、自身も同じように貶されたことが過去にあったからだ。
そして、そのように憤りを感じることは以前の俺ではあり得ないことで、徐々に変わりゆく己の心に対して恐怖心を抱き始める。
だが今は己のことよりも、イズナが貶された事実を許すわけにはいかず、その場で足を止め、女性に向けて一言発した。
「あの、そこまで笑う必要は無いですよね? もしこれ以上イズナさんを貶すようなら、その時はアナタを置いていきますんで」
「えっ!? あ、あの、その、す、すみません……」
女性から笑顔が消え、シュンと落ち込む様子は、俺の心に罪悪感を植え付けた。
それは、たとえ己が間違った行ないをしていなくとも、人を傷つけたことには変わりないのだから。
しかし、それでも後悔はしていない。
決して俯かずに前だけを見据え、イズナへ向けて大声を上げる。
「イズナさぁぁぁーっん!! そっちではなくぅぅぅっ、そこから南へ30度の方角でぇぇぇーっす!!」
ガラにもなく大声を上げてしまったが、その甲斐あって、イズナは言った通りの方角へ進み出した。
それを確認し、後を追うように俺も動き出すと、無視を続けていたはずのイズナが前を見たままではあるが、右手を軽く挙げて感謝の意を示す。
「イズナさん……よしっ、それじゃあ行くか!」
自然と笑みが零れ、気持ちが軽くなったことで駆ける足取りも軽くなった。
あとはイズナに追いつきムツコの元へ飛ばすだけだ。
そう思いながら荒れた平原を駆け抜けている最中、無言だった女性が口を開く。
「あの、さっきのことは反省してます……だから、私の瞳を見てくれませんか?」
「えっ……あ、はい……」
突然の頼み事ではあったが、なんの気無しに女性の瞳を見つめると、ハートの形を象った何かが再度浮かび上がっていた。
「あっ、また浮かび上がってる……やっぱり不思議な瞳ですね?」
「う、嘘……本当に効かないの……!? 今までにこの魔眼で魅了されない男なんてーー」
「ーーえっ!? コレが魔眼!? うおぉぉぉっ!! 初めて見た!!」
「ひっ!?」
人生初の魔眼に興奮する俺と、その俺を見て驚き固まる女性。
だがそんな状態でも瞳を輝かせ、口元を緩ませながら魔眼を凝視する俺であった……
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