「と、取り敢えず今は、市街地へ行かせないようにしないと……」
スタンピードの脅威に焦りつつ、ヘルハウンド攻略の策を考え始める。
黒沼でいくか? いや、ダメだ、こいつは喚虎よりも速いからきっと躱される。
なら、水穿では? は? バカか! それは前に失敗してるだろ!
それじゃあ、黒葬なら? うーん……街を破壊してもいいならアリか……?
他にも色々と考えてはいるのだが、これといった策は考え付かず、また閃きもせず、ただ時間だけが過ぎていく。
せめてもの救いは、ヘルハウンドが動かずにいることである。
恐らくは俺を警戒して様子を見ているのだろう。
しかし、その救いも無くなってしまう。
そう、ヘルハウンドがとうとう動き出したのだ。
「!? 真っ直ぐに向かって来た!? もしかして、無策なのか……?」
ヘルハウンドは迷うことなく、一直線に俺の方へ駆けてくる。
しかもそのスピードは速く、とても余裕を見せられる状況では無い。
だが、それでも魔法が当てやすくなったことには変わりない、そう思った俺は透かさず魔法を唱えた。
「く、黒沼!」
前方へ向けて放った影は、ヘルハウンドのいる方へと伸びていき、あと少しで届くところまできた。
「よしっ、捉えた!」
突進してくる相手には有効であり妙手でもあるので、あの厄介な機動力をこれで確実に封じることができる! そう思っていた。しかし……
「なっ!? と、跳んで躱した!?」
ヘルハウンドは影を踏む手前で勢いよく跳び、黒沼に掛かることなく接近してくる。
地上からではなく空中から仕掛けてくるとは予測しておらず、不意に動揺を見せてしまう。
「でも、結果的には機動力を封じれたぞ!」
動揺したのは一瞬だけであり、寧ろ好機だと捉えて早急に魔法を。
「水じーー」
魔法を唱え終える寸前、ヘルハウンドは口から炎を吐いてきた。
まるで火炎放射のように勢いのある炎が俺を襲い、魔法の名唱を中断しつつ、咄嗟に右方へ駆けて炎を回避。
突然の攻撃で魔法は唱えられなかったが、回避にはまだ余裕があったように感じる。
「あっぶなぁ……はっ! 街は!? ……良かった、無事だ……」
空中からの炎だったので周囲には燃え移っていない様子で、舗装された地面には直径1mほどはある、炎の焦げ跡がくっきりと。
己よりも街を心配したが、被害がなくてホッと一安心。
すると、何やら変な匂いが……?
「……なんだ? この温泉のような匂いは……?」
気にはなるが、今はそれどころではないので気にするのをやめた。
その後すぐ、ヘルハウンドに目を向けるが、俺をジッと見つめながら再び様子を見ているようだ。
あの、漆黒の体躯に深紅の瞳という組み合わせは、いかにも恐怖を覚えさせる見た目であり、脅威の象徴と呼ぶに相応しいだろう。
そして低ランクの犬系魔獣とは違い、一滴のヨダレすら垂らさず静かに俺の動向を注視しているところが、底知れない不気味さを感じさせている。
だが、正直なところ負ける気は全くせず、スタンピードの脅威による焦りも既に消えていた。
「さてと、次はどう攻略していくかな……」
そう呟くと、再度ヘルハウンド攻略の策を考え始めるのであった……
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