「あっ、そうでしたです! でもどうすれば解けるですか!? 私ちゃんはギンのおかげで解けたですが、他の人様は無理でしたです!」
どうやら例の銀魔狼は『ギン』と言う名前らしい。とても分かり易く良い名だ。
(……ん? それなら、さっきムツコさんが呼んだのは例の銀魔狼のことか……っとそれはともかく、早く呪縛を解いてアヌビシオを倒さなきゃな!)
現状を見るからにギンの爪牙ではアヌビシオにダメージを与えられてはいないようで、逆にギンの綺麗な銀毛が出血によって赤く染まり始めているのだ。
「ムツコさん、説明してる時間は無さそうなので、これから俺のすることを見て理解してください」
「はっ、はいです!」
ムツコから元気の良い返事を聞けたあと、動けずにいる9人の元へ向かい、解呪魔法を唱えるために左手を前に突き出す。
しかし、9人分を連続して唱えることはできない。
それは魔法には冷却時間があり、たとえ連魔解放があっても2連続までが限界だからだ。
別に冷却時間を待ってもいいが時間が掛かりすぎるうえに、全員の呪縛を解く前にギンが倒されてしまう恐れがある……いや、その可能性が高いと言っても良いだろう。
左手を前に突き出したままどうすればと悩んでいると……
「おい! 何ボーッと突っ立ってんだ! どうせ解けるわけないのにできるフリなんてするな! この無能者め!」
俺に無能者と言い放った男はザルマだ。
己の無能さを棚に上げてよく言ったものだと思ったが、呪縛が掛かった状態でもあれだけ話せるのは精神が図太い証拠であり見習いたい部分でもある。
だがムッとしないわけではなく、以前とは違い落ち込むよりも腹立たしく思えてならない。
そんな腹立たしく思う感情が顔に出てしまったようで、ザルマが続けて言い放つ。
「なんだぁ? 俺様に図星突かれて腹立ててんのかぁ? んー? なぁ、もし違うってんならコレを解いてみろよ。まぁ、どうせできやしないだろうけどな! はっはっはっ!」
ザルマの話に辟易して「はぁ……」と深いため息を吐く俺。
そして、折角エリザからの見下しや蔑みがなくなり、他の人達からも暖かい目で見られるようになったとしても、こういった輩はまだまだ多いのだろうなと考えさせられて嫌気が差す。
だが確かにこのままでは無能者だと肯定しているようなものだ。
なので、俺が無能者ではないと証明できて更に相手を黙らせられる方法はないかと模索することに。
(1人ずつ解呪したとしても無能者じゃない証明は充分できるけど、多分黙りはしないだろうな……どうせなら、ぐうの音も出ないようなことをしたい……なぁニカナ、何かないか?)
「ーー」
(なるほど、そんなことができるのか……よしっ、ソレをやってザルマ君を黙らせよう!)
ニカナによる助言を受けた俺は、ザルマにある提案をする。
「ザルマ君、もし俺が呪縛を解いたらどうする?」
「あー? その時は全裸で『すみませんでした!』って土下座してやるよ! なんならパ……親父に頼んでEランクに昇級だってさせてやる! まぁ、解けたらの話だけどなぁ? くくくっ……」
「……約束だよ?」
(よしっ!)
上手く乗せられたことに気づかぬザルマに対し、心の中で笑う俺であった……
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