「おかしい、魔物が2匹足りない……でも、一体どこに……?」
迫ってくる魔物はヘルハウンドが4匹とステルスリカオンが2匹の計6匹であり、ステルスリカオンがあと2匹足りないことに気づく。
しかし探している余裕はなく、今は6匹の魔物を一刻も早く倒さねばならず、すぐに対処しなければ俺の方が倒されかねない。
そのことを即座に察知して、透かさず魔法を唱えた。
「光砂!」
前方へ突き出した左手からキラキラと無数の光の粒子がばら撒かれると、黒沼を警戒して横の間隔を空けていた6匹の魔物達全てに光の粒子が当たり、その当たった箇所がチカチカと輝いた瞬間、魔物達の全身から血が噴き出して、あっと言う間に6匹の魔物達は倒れてしまった。
そのあまりの悲惨さに思わず顔を背けて呟く。
「まさかこんなことになるなんて……イメージでは出血なんて無かったから……」
まるで言い訳をするように呟いては肩を落とすと、突然左右から同時にステルスリカオンが姿を現して噛みついてきた。
「ぐあっ、痛い! このっ、離せ! おいっ、離せったら!」
噛みつかれた箇所は左上腕と右脹脛で正直かなり痛いが、せめてもの救いはダイアウルフほどの膂力と牙を持っていないことだろう。
更にニカナの影響で身体強化が成されていることも大きく、以前の状態なら今頃お陀仏となっていたハズ。
そう結論づけたあと、痛みで痺れ出す前に魔法で魔物達を倒すことに。
「纏雷!」
魔法を唱えた直後、雷に打たれて全身に雷電を纏い、噛みついていた魔物達は感電して口を離す。
その好機を見逃さず、左側の魔物には右ストレートでワンパンキルを。
そして流れるように振り返りながら、右側の魔物には左ローキックでシュートを見舞う。
痛みをくれた仕返しで4割ほどの力で攻撃したのだが、思いの外に威力が凄く、魔物達は吹き飛んでいる途中で打撃箇所が破裂してスプラッターと化してしまった。
「ゔっ……これは、さっきのよりキツい……」
魔物達の望まぬ姿を見て、気味悪さと罪悪感に心を痛める。
その痛みは噛まれたことの比ではなく、それと同時にある答えに行き着く。それは……
「……俺って、冒険者に向いてないのかも……」
左上腕と右脹脛から出血しながら、ポツリとそう呟いた。
実は昔から悩んでいることがあり、それは生き物に対して非情になれないこと。
仲間内からもよく指摘されてはいたが、結局は治らず今に至る。
今回初めて口に出してしまったが、そろそろ潮時なのかもしれない。
そんな苦悩を抱えて気落ちしていると、俺の呟きを聞いていた門兵の2人が西門の影から声を掛けてきた。
「そんなことないっス! 兄さんは立派な冒険者っスよ!」
「そーっス! 兄さんは冒険者オブ冒険者っスよ!」
2人にそう言われて嬉しくはあったが一度抱いた苦悩を消すには至らず、そんな中途半端な状態のまま死を告げる魔物と相対することとなる。
1000を超える魔物達が倒されても、動揺することなくゆっくりと近づき始めるアヌビシオ。
決して知能が低いわけではなく、明らかに全てを理解したうえでのこの落ち着きようなのだろう。
「俺は、こんな状態で勝てるのか……?」
苦悩により、不安を抱えての戦いとなるのであった……
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