「お兄さんって、すっげー人だったんスね!」
「それな! マジ尊敬するっス!」
門兵Dは両手を挙げて近づいてくるなり、燥ぎながら俺を褒め称え、それに併せるように門兵Eも右手の親指を立てながら褒め称えてくる。
その2人の姿を見て、今朝とはえらい違いだなぁと思いつつ、内心は満更でもない。
(もしかすると、この2人はそんなに嫌な奴らじゃないのかもな……)
門兵2人の燥ぎようを見ていると次第にそう思えてきて、いつの間にか憎めなくなっていた。
確かにあの時はかなり惨めな思いをしたが、セリーヌのおかげで今はそれほど気にしてはいないし。
もっとも、他の人なら激昂したり憎悪で仕返しをしてもおかしくはないのだが。
そんなことを考えていると、コツンッコツンッと何かが地面を突く音が聞こえ、その音が徐々に近づいてくる。すると……
「あぁ、君は救世主だ……ありがとう……」
1人の男性老人が杖を突きながら、俺の元へ感謝を伝えに来た。
するとその老人を皮切りに、街の人達が30人ほど家や店から出てきては俺に感謝の言葉を述べ始める。
『君のおかげで家が燃やされずに済んだ、ありがとう! あなたのおかげで娘が助かったの、ありがとね! あんたのおかげで店のパンを食べ荒らされなかった、ありがとな! お兄さんのおかげで襲われる前に避難できたわ、ありがと!』
他にも多くの感謝の言葉を貰い、不意に涙が頬を伝う。
それは、今までどんなに渇望しても手に入らなかった「おかげ」や「ありがとう」の一言をこんなにも多くの人から貰えたのだから。
俺はこの出来事を一生忘れないだろう……
「……すみ、ません……俺、嬉しく、て……」
両手で顔を隠しながら、泣いたことを詫びる。
すると、小さな女の子が目の前まで来て、心配そうに俺を見つめながら一言。
「お兄ちゃん、どうしたの? どこか痛いの? お怪我があるならマリーが包帯を巻いてあげるよ?」
マリーの一言に癒され、余計に涙が流れてしまう。
脅威はまだ去っていないのに、幸せな気持ちになるのはまだ早いのに、無能と見下し蔑む人達はまだ大勢いるのに、それでも嬉しくて嬉しくて堪らない。
何度も馬鹿にされ落ち込んでも、腐らずに冒険者を続けていて良かった。俺は今、そう思っている。
「マリーちゃんのおかげで傷が治ったよ、ありがとう……」
特に外傷は無かったが、心の傷は癒やされたので間違いではない。
そのことをマリーに伝えたかったが上手く伝わらず、マリーは首を傾げて不思議そうに俺を見ている。
(この子は将来、聖女と呼ばれるかもな……)
微笑みながらマリーの頭を優しく撫でると、満面の笑みで返してくれて、その笑顔にまた癒された。
そのやり取りで周囲も優しい雰囲気になり、とても脅威が迫っているとは思えない。
そんな空気が流れるなか、門兵Aが突然声を上げて俺を呼ぶ。
「おいっ! 無能! さっさとココから出しやがれ! さもないとギルドに抗議してやるからな!」
折角の優しい雰囲気を見事にぶち壊してくれた門兵Aに対して、俺を除いた全員が白い目で見る。
その軽蔑するような視線を浴びる門兵Aに、苦笑いを浮かべながら少しだけ同情するのであった……
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