「こんな数の魔物なんて、見たことも聞いたこともないぞ……」
1000匹を優に超える魔物の大群は止まることなく進行し続ける。
あまりの勢いに土煙が立ち昇り視界は最悪で、駆ける音が地鳴りに変わり不安感と焦燥感を煽り、時折り聞こえる咆哮がまるで死を告げているかのようで勝手に足を竦ませてしまう。
だがそんな状況でも門兵の2人は逃げることなく、俺がどうにかしてくれると信じてやまない。
「大丈夫っス! キュロス兄さんなら絶対に勝てますって!」
「それな! キュロス兄さんなら楽勝っスよ!」
なんの根拠があってそう言っているのかは分からないが、それでも信じてくれるのならやるしかないだろう。
そう思うと身体が軽くなり、頭の中もスッキリして、何故かやれる気がしてきた。
しかし、無策ではとても乗り切れる状況ではないため、この危機を取り除けるだけの策を考えなければならない。
そこで2人には街の中まで下がるよう指示し、今の自分にできる最良の策を模索し始める。
先ず最低条件として範囲の狭い魔法は絶対にダメだ。使うなら広範囲の魔法じゃないと。
なら黒葬だな? いや、あれでは全ての魔物を足止めなんて無理だ。
では灼光なら? 確かに黒葬よりは広範囲だがそれでも到底届かない。
じゃあ、雷槍で感電を伝播させていくのは? 有効だとは思うけど電撃が途中までしか保たないだろうな。
それなら、一体どうすれば……
「ーー」
「!? 今の声は……ニカナ……!?」
最良の策が見当たらずどうすればと悩むなか、突如ニカナから声が聞こえてくる。
今度は気のせいではなく確実に聞こえてきたのが分かり、驚きながらもその声に導かれ、ニカナの入った御守袋を取り出し額に合わせ、祈るように瞳を閉じる。
すると、ニカナから虹色の光りが眩く放たれ、それと同時に周囲の音が全て掻き消され、頭の中へ次々と魔法のイメージが流れ込む。
「す、凄い……色んな魔法を試し撃ちしてるみたいで、なんだか楽しいかも……」
「そんな楽しんでいる場合ではない!」ニカナにそう言われた気がしてハッと目覚めると、魔物の大群は街への距離を縮めていた。
しかし、思ったよりも進みが遅く感じる。
そしてその時に気づく、大群は速度重視の魔物にとっては足枷にしかならないことを。
恐らく足の遅い魔物に併せて移動するよう統率者から指示を受けているのだろう。
ならその統率者とは? これだけの魔物を見事に統率するからには、余程の指揮能力が必要になるはず。
強さだけではなく賢さも必須になるのでヒュドラでは先ず無理だ。
それでは一体、どんな魔物が統率者に……
「キュロス兄さん! どうしたんスか!?」
「もしかして! 腹でも下したんスか!?」
門兵の2人が西門から出て心配そうに声を掛けてきたので、その2人に軽く左手を挙げて応えることに。
確かに考え事をしている間に魔物の大群は街への距離を更に縮ませていたようで、先頭の魔物から街への距離は200mを切っている様子。
「大丈夫! ……じゃないけど、やれるだけのことはしてみないとな!」
独り言を済ませたあと、魔物の大群を見据えながら両手を高々と上に挙げて、街を、人を、そして信頼を守るため、俺は魔法を唱えるのであった……
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