「そういえばさぁ、極秘任務の件はもう報告しないの?」
「……はっ!? そうだ! すっかり忘れてた!」
セリーヌからの問い掛けにハッと思い出し、俺は急いでギルドへ駆けて……は行かず、ミカゲの足元で片膝を突き、魔法を唱える準備に入る。
「行く前にやれる事をならないと……」
俺との勝負時にミカゲは右足を負傷しており、その負傷箇所を治癒するべく俺は魔法を唱えた。
「ハイヒール!」
喚虎戦でも使用したこの治癒魔法でミカゲの右足は瞬く間に治癒され、その光景にセリーヌとミカゲは驚き、そしてある事に気付く。
「そういや確か、お前って魔法使えなかったよな? なのになんで今は使えんの?」
「そうなのよねぇ、実は私も気になってたの……」
「……」
俺は無言のままニカナの事は話さなかった。
それは物凄く心苦しい事ではあるが、たとえセリーヌ達であっても話す訳にはいかない。
もし話してしまったら、ニカナを奪おうとする輩が間違い無く現れるからである。
『……』
俺の気持ちを察したのか、セリーヌとミカゲは詮索せずにいてくれた。
「2人ともありがとう……それじゃあ、行ってきます!」
2人の気遣う気持ちを嬉しく思いながらも振り返る事無く、俺はギルドへ向かうことに。
「全く、本当に世話が焼けるんだから……」
俺の背中を見つめながらセリーヌはそう呟く。
「セリーヌ……ゔっ!?」
呟いた時のセリーヌはとても愛おしそうな表情をしており、その表情を見たミカゲはズキンと胸を痛め切ない気持ちに……
「す、すみません! 改めて報告に来ました!」
勢い良くギルドの扉を開き、俺は声を上げ報告宣言を。
すると、少人数の冒険者達と3人のギルド職員達、そしてエリザがギルド内にはおり、その全員が俺を見ながらキョトンとしている様子。
ギルド職員達はともかく、この場に残っている冒険者達は俺の事を知らないか無関心かのどちらかだろう。
そう推測していると、ある若い男女2人の冒険者達が俺についての会話を小声で始める。
「なぁ、あいつ誰だ?」
「さぁ? でも、なんか頼り無さそうね」
「ははっ、そう言うなよ、可哀想だろ?」
「ふふっ、そうね」
「……なぁ、それよりあの頭見ろよ、黒髪だぞ? 俺、初めて見たよ」
「!? 馬鹿っ! その話に触れちゃダメってギルド職員の人に言われたでしょ!?」
「!? やべっ! そうだった!」
「もー! しっかりしてよね!」
男女の会話をうっかり聞いてしまい、その時に初めて自分の髪がとても珍しい事に気付いた。
(そういえば、俺以外の黒髪の人って見た事が無いかも……)
そう考えながら何気無くエリザの方を見ると、冷や汗を掻き動揺する姿が。
(もしかして、エリザさんもさっきの会話を聞いたから動揺を……?)
根拠は皆無だが何故かその様な気がしてならず、しかもその事が無性に気になり仕方が無い。
(うーん……少し怖いけど、聞いてみるか……)
そしてその事を確認する為に俺は、エリザの元へ静かに歩み寄るのであった……
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