「なっ、なんだお前ら!? なんでそんな目で俺を見るんだ!?」
住人達からの視線に、何故といった表情で狼狽える門兵A。
ふと気づくと、門兵DとEも住人達と同じ視線を向けている様子。
今の状況が続くのは少し可哀想に思えたので、門兵Aを覆っている水牢を解除しようと動く……がその前に、先ずはヘルハウンドを黒箱へ収納してから向かうことに。
ヘルハウンドを黒箱へ収納して水牢の解除に向かう途中、地面に付いた炎の焦げ跡がふと目に入り、あの時に嗅いだ温泉のような匂いが脳裏に蘇る。
「あの時の匂いは一体……ん? 何か匂うな……もしかして、まだ焦げ跡から匂いを発してるのか?」
不可解に思いながらも「まぁいいや」と呟き、止まることなく水牢の解除に向かい続けた。
「遅いんだよ! ったく……さっさとココから出しやがれ!」
俺が着くなり門兵Aは怒鳴りながら命令し、それに対し再び苦笑いをしながら軽くお辞儀をして水牢を解除。
不意に噛まれた腕に目をやると、無理矢理に剥がそうとしたせいか、僅かに出血していることに気づく。
「あの、右腕を怪我してるようなので、もし良ければ治しますよ?」
「……ん? おぉ、本当だ、痛みが消えたから気づかんかった……ほれっ、治してくれるんだろ?」
心無しか落ち着いてきた門兵Aは、右腕を目の前に差し出して俺からの治療を待つ。
あの時のことは忘れられないが、それを引きずることなく右腕に向けて治癒魔法を唱える。
「ヒール!」
鎧の上からでは分かりづらいが右腕は確実に治癒されており、それは門兵Aの緩みゆく表情を見れば一目瞭然であった。
どうやら骨や神経にも異常は見られず、治す過程での不都合は無さそうだ。
余程気持ち良いのか泥酔したかのように表情は緩み切っており、恐らくは「治癒中毒」によるものだと推察。
「だ、大丈夫ですか? もうすぐ終わりますから、寝ないでくださいね?」
ヒールではなくハイヒールにしておけば良かったと反省しつつ、治癒が完了したのですぐにヒールを解除。
「……はっ!? ふ、ふん! 治すのが遅いんだよ! ……あっ!? も、もう俺は帰るからな!?」
ヒール解除から10秒ほど経つと門兵Aは正気に戻り、一言文句を言うと急に慌て出して逃げるように走り去る。
何か嫌な予感がした俺は「待った!」と声を上げるも無視されてしまう。
すると、走っていたはずの門兵Aは突如叫び声を上げて地面を転げ回り出した。
「火がっ、火がいきなり足にぃぃぃーっ!?」
足元で燻っていた炎はあっと言う間に全身へと燃え移り、火だるまとなった門兵Aは動きを止める。
「Aさん!? だっ、大丈夫ですか!?」
その急な事態に驚きながらも門兵Aの元へ即座に向かい、間髪入れずに水魔法を。
「うぉ、ウォーター!」
大量の水で一気に炎を消したあと、火傷に苦しむ門兵Aを再び治癒魔法で回復。
「メガヒール!」
本当はハイヒールでも良かったのだが、先程の件もあるので敢えてメガヒールに変更。
だがその甲斐あって、門兵Aは見る見る回復していき、火傷の跡を残さずに全快へと至る。だが……
「ま、まさか……この焦げ跡が……!?」
そしてその時に気づく、再燃した原因が地面に付いた炎の焦げ跡であることを……
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