「特殊な炎って、そういうことだったのか……」
ヘルハウンドが吐く炎が特殊なものだとは情報で知ってはいたが、どう特殊なのかは知らずにいた。
恐らく炎の中にある成分で、発火を促すものがあるのだろう。
触れなければ問題は無さそうだが何かの拍子で発火してしまうと、周囲に次々と燃え移りすぐに手が付けられなくなりそうだ。
だが水を掛ければ無効化するようで、現にこの焦げ跡からはあの温泉のような匂いは既にしない。
「あの炎をところ構わず吐かれたら大惨事になるな……そうなると、炎を吐かれる前に倒さなきゃいけないわけか……」
そんな独り言を呟くと、門兵Aは横たわったまま失禁して、泣きながら独り言を。
「うぅ……くそぉ、また漏らしちまったよ……折角、あの時に漏らしてたことを隠していたのに……ううぅ……」
門兵Aの言う「あの時」とは、きっと治癒中毒の時であり、確かにあの時は様子がおかしかった。
すると、周囲から門兵Aへの蔑む声が聞こえてくる。
『……何あれ……いい大人が……威張っているから……ざまぁみろ……』
その声を聞いていると、自分が言われたわけではないのに何故か心が痛む。
それは今まで己がされていたことであり、心に深い傷を刻まれているから。
徐々に心臓の鼓動が強くなり、それに伴い心の痛みも増していくと、耐えきれずに俺は声を上げる。
「皆さん! それ以上は自分自身を貶めることになるので、もうやめましょう! 俺は……俺は、あの優しい雰囲気を穢したくはありません!」
俺の上げた声に住人達は皆ハッとした表情をし、無言のまま俯く。
それは自身の愚かさを恥じての行動であり、悔いる証でもあった。
そして辺りは静寂となり、誰一人として言葉を発したりはしない。
だがそんな静寂のなか、門兵Aは上半身のみ起き上がり、口を開いた。
「分かってたんだ、本当はお前が無能じゃないってことを……申し訳ない……あと、ありがとな……庇ってくれてよ……」
まだ意地を張ってる感は否めないが、それでもまた一人、俺を認めてくれる人が増えたことを嬉しく思い、自然と笑みが零れる。
そのあと、門兵Aは続けざまに口を開いた。
「俺の名前はスレッグってんだが、お前の名前を教えてくれないか?」
「俺の名前はキュロスです……えっと、スレッグさん?」
「そうか、キュロスか……良い名前だな……」
そう言うとスレッグはゆっくりと立ち上がり、全身びしょ濡れのままどこかへ歩いて行った。
恐らく、火だるまになる直前に行こうとしていた場所へ向かうつもりだろう。
(スレッグさん…………ん!? この感じは……!?)
スレッグを敢えて止めることはせず、そのまま無言で見送ったあとに住人達へ声を掛ける。
「皆さん! 魔物の群れが迫っています! 急いで建物へ避難してください!」
住人達は皆ざわつき、動揺する者も出始める。
でも俺が言ったことは紛れもない事実であり、それはすぐに証明されることに……
『ガァァァーッ!!』
ヘルハウンドの群れによる咆哮が街中に響き渡り、その直後に住人達は叫び声を上げながら建物の中へ避難を開始。
「とうとう来たか、真の脅威ってやつが……」
パニックのなか、西門の先を見据えながらそう呟くのであった……
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