召喚された世界は色々ごっちゃごちゃ!戦士なんて無理だよぉ~!

不死鴉(ふしあ)
不死鴉(ふしあ)

第十話

公開日時: 2022年3月18日(金) 08:00
文字数:3,412

「筋肉ちゃん、敵を引き付けて!」


 ホロが筋肉に叫び、ホロの左手の薬指の指輪が光り両手にブレードが美しい曲線の双剣が装備された。

 これは神速の双剣。攻撃力等はそこまで高くはないが、確実に使用ターンは先制出来る双剣である。


「了解っす!」


 筋肉の筋肉の右手の小指が光り、大きな鬼の角のような形をした剣が右手に、青い獅子が刻まれた盾が左手に装備された。

 これは羅刹の剣盾。羅刹は人を食らう悪鬼であったが、のちに守護神として転ずる、という羅刹の生き様をイメージした武器だ。この剣は薙ぎ払うように攻撃する範囲攻撃武器であり、ヒットしたモンスターを狂暴化し挑発状態とする。そして、盾はその加護により装備者の物理防御力、魔法防御力を飛躍的に高めてくれる。挑発した相手の攻撃を防御力を高めたガーディアンが受け切る。攻防一体型のガーディアンにふさわしい武器である。


「っしゃぁおらぁぁ!神速剣!」


 飛び掛かってくる五頭のグランドタイガーの一番先頭に来た一頭に、ホロの双剣の連続斬りがヒットする。連続斬りにより、石に刃物が激しく衝突するような音を立て、最後は割れるような音が響き一頭のグランドタイガーは消滅した。


「いよっしゃぁぁぁ!羅刹薙神(らせつていしん)!」


 ホロの攻撃の直後、残り四頭に筋肉が薙ぎ払いを食らわした。


「グギャッ!ガルルルル!」


 食らわした四頭は吹っ飛び、立ち直ると目の色が赤く血走っていた。そして四頭は、筋肉に一直線に攻撃を仕掛けてきた。


「ぽん子ちゃん!今だよぉ~!」


「オッケー、いっくよー!」


 ホロがグランドタイガーの方を見ながら叫んだ後、ぽん子が後ろから銃を構え叫んだ。

 ぽん子が今回構えた銃は、シヴァガン。死、崩壊、破壊を司るシヴァ神の四本の手のように放たれる弾が、確実に相手にヒットし爆発する。シヴァガンが放たれる前には、シヴァ神の第三の目が炎を放ち天を明るくしたように、標的となったモンスターを崩壊の炎が襲い、物理、魔法防御力ダウンの効果を付与する。範囲は狭く対象も少ないが、そのダウン効果と一撃一撃の火力の強さから、四体よりも少ないモンスター戦ではトップクラスの火力を誇る銃である。なお、四体よりも少ない場合、ランダムに四発ヒットする。


「くたばれぇぇぇぇ!」


 ぽん子は叫んだ。そして、シヴァガンが青い光を放ち、四本のレーザーがグランドタイガーめがけて放たれた。


「グギャンッ!」


 四頭全頭にヒットし、それぞれのグランドタイガーは、吹っ飛ばされ地面に横たわったまま消滅した。


「ぽん子さん!筋肉さん!ホロさん!みんなかっこいい!」


 Chisaが目をキラキラさせて三人を見つめ、両手を合わせて言った。


「いい連携だったわぁ♡三人ともナイスよぉ~♡」


 ラファエルが嬉しそうにくるくる回りながら言った。


「はぁっ、はぁっ…これよりさらに強いモンスターがいるなんて、なかなか苦労しそうねぇ~…。」


 ホロは肩で息をしながら言った。筋肉もぽん子も笑顔を作ってはいたが、多少疲れているようだった。


「ちょいとあそこで休憩しようかぁ~!」


 ホロは皆に休憩場所に良さそうなところを指差して言った。

 しばし休憩し元気を取り戻した五人は、足をさらに進めた。

 グランドタイガーの群れはその後も何度か襲ってきた。ただ、群れは多くても五頭が最大だった。その度に筋肉が引きつけ、ラファエルかぽん子が十体に満たない程度を対象とした中程度の範囲攻撃を繰り出し、問題なく討伐することができた。


「少しは戦闘に対応することが、できるようになってきたのかねぇ~。」


 ホロは何度目かのグランドタイガーを討伐した後に、呟いた。


「確実になってますよっ!グランドタイガーの討伐もかなり速くなりましたし!」


 ホロの呟きに、ギュッと握り拳を作って笑顔で筋肉が言った。


「そうだねっ!少しずつコンビネーションが取れてきた感じっ!」


 ぽん子も頷いて続けた。


「…ふぁぁ。私、何もやってないなぁ~。」


 Chisaが遠い目をして呟いた。


「仕方ないって!こんなところでちーちゃんの出番来たら、それこそこれから先が思いやられるって!」


 筋肉がChisaに笑顔で言った。


「ところで、ラファさん何やってるのぉ~?」


 とげとげした鉱石を見つめて止まっているラファエルにホロが話しかけた。


「あぁん♡ホロ子ぉ~、この石少しずつだけど動いているのよぉ~♡さっきから私たちを追いかけているみたいに♡」


 ラファエルが楽しそうに言った。


「は?それって…。」


「あぁん♡重いわねぇ♡そいやぁぁ♡!」


 ホロが言った直後、ラファエルがその鉱石めがけて、近くに落ちていた人の背丈の半分程度の石を放り投げた。その石は、人から投げられたとは思えない速さで、動く鉱石にぶつかり、鉱石とともに砕けた。


(いや、あんた普通にモンスター殴り倒せる気が…。)


 ホロがそう考えて間もなくだった。


「グジャァァァ!」


 地面から大きな叫び声が聞こえ、五人が立っている周りの鉱石が波を打つように動き出した。そして、地中から蛇の顔のような岩が飛び出し、ホロ達のはるか頭の上にそびえ立った。


「ギィヤァァァァ!」


 その顔が五人に向かって口を大きく開け、丸呑みするかのように突っ込んできた。


「っしゃおらぁ!」


 ホロが神速剣を使い、顔にヒットさせ、なんとか五人の手前に軌道をそらした。


「ちょっ!ラファさん!なんかするなら先に言ってよぉ!」


 ホロが焦りながら声を出した。


「あぁん♡だって、なんか少し近づいてきて気持ち悪かったんだものぉ♡」


 ラファエルが両手を顎に添えて言った。


(これがストーンスネーク。この山脈の中ボス的存在ね。とりあえず…大きすぎだよぉ~。)


 ホロは、その頭の大きさから想像される全長を考えて心の中で叫んだのだった。

 ストーンスネークは食らいつきをホロに弾かれた後、動きを止めていた。


「いやぁん♡大チャンスねぇ♡」


 ラファエルは動きが止まっているストーンスネークを見て、右目でウインクをして言った。次の瞬間、ラファエルの右手の中指が光り、ピコピコハンマーのようなハンマーが出現した。

 これはマジピコハンマーという杖である。振り下ろすと、魔力攻撃力により具現化した巨大なハンマーがモンスターに振り下ろされる、単体攻撃魔法である。こんなふざけた装備だが、装備者の魔力攻撃力が倍加して発動するので、その火力はハイランクのマジシャンが使うと半端ないものとなる。

 ちなみにマジシャンズピコピコハンマーだから、マジピコハンマーとかいうふざけた名前であることは、伏せておく。


「いっくわよぉ♡私の愛を受け止めてぇ♡」


 ラファエルがそう言うと、マジピコハンマーをストーンスネークの頭めがけて振り下ろした。その瞬間、止まっていたストーンスネークの頭に巨大なハンマーが振り落とされた。その巨大なハンマーは、頭のみならずストーンスネークの胴体をも押し潰しかねない大きさのハンマーとなっていた。ストーンスネークを上から潰すように叩きつけ、大きな音を立て、強い震度のような地響きが起こった。


(こっわ!もはや、ぽん子ちゃんもラファさんも、生きる災害じゃ…。)


 ホロが、あまりに巨大なハンマーが振り落とされたストーンスネークを憐れ見て思った。


「ギギャァァァァ!」


 巨大なハンマーの下から、ストーンスネークの悲鳴が聞こえた。


「ラファエルさん!ナイスゥー!」


 ぽん子がそう言った後、Chisaが大きな声で叫んだ。


「まだだよっ!まだ、ストーンスネークは消滅してないっ!」


 ストーンスネークの胴体は動きを止めたが、消滅していなかったのをChisaは見ていた。今まで倒したモンスターは、倒したら必ず消滅していたからだ。

 地割れのような音が響き渡り、ストーンスネークの胴体が地面から全身を現し、激しく動き回った。そして、五人を囲むように、その周囲をグルグルと激しく回り始めた。触れたら弾かれてしまいそうな速さで回転していく。

 五人はまるで、回転し触れることができない岩の壁に囲まれたようだった。ある程度の回転を繰り返しているうちに、その円は次第に小さくなっていき、五人を締め潰す勢いで迫ってきた。


(これはやばい!やばいよやばいよぉ~!)


 ホロはこの世界に来て、初めて味わう恐怖を感じていた。迫り来る壁なんてどう対処していいのか軽くパニックになった。


(なんとかしなきゃ皆が…!でも、私に何ができるのぉ…!?あっ!)


 ホロはハッとした表情の後、右手の小指の指輪を光らせ武器を装備した。

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