召喚された世界は色々ごっちゃごちゃ!戦士なんて無理だよぉ~!

不死鴉(ふしあ)
不死鴉(ふしあ)

第十二話

公開日時: 2022年3月19日(土) 07:00
文字数:3,481

「くるねぇ~!皆気をつけて!」


 ホロは、ギガントブレードを装備して言った。筋肉はアブソリューター、ぽん子はシヴァガンを装備している。お互いの出方を伺うように見つめあい時が過ぎた。

 次の瞬間だった。軽く跳ねるような動きをしたロックマジロは、身を丸めて五人に向かって転がってきた。激しい音を立てて勢いよく転がってくる。


「ひえぇ~!」


 ホロがあまりの転がりの速さに逃げようとした時だった。


「絶対防御!」


 筋肉が、アブソリューターによる絶対防御を発動した。筋肉は盾を突き出し、巨大な球体となったロックマジロの進行を止めていた。激しい音を立てながら、筋肉は押し込まれながらも盾を突き出し続けた。筋肉は押されたが防御しきって、ロックマジロの回転を止めた。回転が止まりそれ以上進めなくなったことで、ロックマジロは球体状態を解除した。

 解除した状態でロックマジロの動きは止まっていた。やはり、モンスターはミドラのバトルが踏襲されていたようだった。今、ロックマジロは次の攻撃までの準備期間に入っていると全員考えた。


「ホロさん、今っす!」


 筋肉がホロに叫んだ。


「ありがとねぇ~、筋肉ちゃん!」


 ホロがギガントブレードを振りかぶって、ロックマジロに向かって力強く振り下ろした。硬いもの同士が接触する音が周囲に大きく響き渡った。


「くっ!この子、やっぱりとんでもなく硬いわぁ!」


 鉱石で覆われた外皮に多少の傷が入り血が飛び出たものの、思っていたようにダメージは与えられなかった。


(この子に本当にマキシマムさんとかは勝ったのぉ?)


 ホロがそんなことを思った時だった。


「ホロさん、どいてぇ!」


 ホロが横に避けると、ぽん子がシヴァガンを放った。


「オラオラオラオラァ!」


 ぽん子が叫ぶと四発のレーザーが。ロックマジロに当たった。


「はぁっ、はぁっ!どうだっ!?」


 ぽん子が肩で息をしながら言った。爆風が徐々に無くなり、ロックマジロが姿を現す。

 ロックマジロの顔の外皮に若干の傷が入ったようだったが、ピンピンしていた。


「防御力低下のデバフが効いてないっ!?」


 ぽん子が驚き声を上げた。ロックマジロにシヴァガンの防御力低下のデバフが入っていれば恐らく大ダメージだったのだが、あまりのダメージの入らなさにそう叫んでしまった。

 恐らくロックマジロには防御力低下のデバフは無効だったのだろう。


「こんだけ硬いのにデバフも無効ぉ~?もうこんなのチートじゃないのぉ~!」


 ホロが叫んだ時だった。止まっていたロックマジロが、行動を開始した。

ロックマジロはまた体を丸めてひたすらに飛び跳ねた。まるで跳ねるボールのように、地面でバウンドを繰り返した。そして、勢いを増して高く飛び上がり五人の上から落下してきた。


「マッスルさんっ!」


 ぽん子が叫んだ。ホロ、ぽん子、ラファエル、Chisaはその落下から逃れたが、筋肉はロックマジロの下敷きとなった。筋肉を押し潰したロックマジロは、半球状にへこんだ穴から転がり出て、また体を揺らしながらその身を動物の姿に戻した。

 ロックマジロが落ちた地点に、ぽん子が必死に走り出した。そこには、半球状に潰れた地面の中心に盾を前に突き出すように、仰向けに筋肉が埋まっていた。


「マッスルさん!マッスルさん!」


 ぽん子は何度も筋肉を呼んで叫んだが、筋肉の返事はなかった。

 ロックマジロは攻撃を仕掛けたためか、止まっていた。


「マッスルさんっ!マッスルさんっ!」


 ぽん子は泣きそうになりながら何度も叫び続けていた。下敷きになった筋肉は動かない。

 しかし、その直後だった。


「おいっ!ぽん子!声でけぇって!」


 筋肉がそう言うと目を開けて、反動をつけてそのまま起き上がった。


「マッスルさんっ!もうっ!生きてるなら返事くらいしてよっ!」


 ぽん子が泣きながら、筋肉の体を激しく叩きながら言った。


「いや、ごめんごめん!結構な衝撃でさ!少し意識飛んでた!」


 筋肉がぽん子の頭に手を触れ言った。


「心配かけてごめんな!大丈夫だよ!ありがとな!」


 筋肉は立ち上がり言った。そして視線を変え、窪みの上にロックマジロを睨んだ。


「ちょっと行ってくるわ!」


 そう言うと、ロックマジロに向かって颯爽と走っていった。筋肉は六つに刀身が分かれた剣を右手に、阿修羅像が刻まれた盾を左手に持っていた。

 この剣盾は阿修羅の剣盾。左手の盾は、過去の後悔等を乗り越えた阿修羅が凛々しく刻まれている。この盾で受けた敵の攻撃や衝撃は、右手の憤怒の剣に伝えられる。そして、その受けた分のダメージと装備者の物理攻撃力を相乗して憤怒の剣で放つ。HPが高いガーディアンにおいては、被ダメージ次第では防御しながら最大級のダメージを出せる武器である。


「うおりゃあぁぁぁぁ!三悪道導(さんあくどうどう)!」


 右手の剣が刀身がオーラで巨大化した。半球状の穴の淵に顔を出す形となっていたロックマジロに、アッパーカットのような形で筋肉の切り上げが入った。

 下から打ち上げられたロックマジロは空を見上げ、大きな音を立てそのままひっくり返った。


「ホロさん!お願いします!」


「オッケー!筋肉ちゃん、ありがとねぇ~!」


 筋肉の呼びかけに返事したホロが、ティタンブレードを振りかぶりロックマジロの腹を目掛けて振り下ろした。


「うおらぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ホロの斬撃がロックマジロの腹に、切れ味鋭い音を立て通った。お腹の部分は外皮と異なり、とても柔らかいようだった。ロックマジロは、ティタンブレードの衝撃波によって分断までは至らなかったが、体が大きくえぐれティタンの猛攻により体が何回も跳ね上がるように動いている。

 しかし、まだ消滅はしなかった。


「これでも足りないって言うのぉ~?」


 ロックマジロのHPの多さにうんざりするように、ホロは言った。


「あぁ~ん♡ホロ子ぉ~♡筋肉ちゃ~ん♡いくわよぉ♡避けてねぇ~♡」


 ラファエルがハート型の装飾が付いた杖を振りながら叫んだ。


「あぁん♡天に代わってぇ♡お仕置きよぉ♡」


 ラファエルがくるくる回って、ハート型の装飾が付いたロッドを振った。

 このロッドはプリティーロッド。召喚された恋のキューピッドが相手のハートを射止めるように、可愛いキューピッドが標的に向かってハートの矢を放つ。可愛い武器と攻撃ではあるがそのハートの矢は速く高熱であり、撃たれた箇所は貫通し、さらにその熱で内部から焼かれる恐ろしい単体攻撃召喚魔法。

 急に雷雲に覆われ空が一面真っ暗になり、激しい雷鳴とともに恐ろしいキューピッドがどこからともなく現れた。グレースフィールがいたら、間違いなくこの世のものではないというだろう。恐ろしい笑顔を浮かべたキューピッド。そして、とんでもなく大きい。


(キューピッドさん、ロックマジロちゃんよりはるかに大きいんじゃ…。)


「いやぁん♡可愛いわぁ♡」


 ホロがキューピッドに恐れをなしていた時、後ろでラファエルは腰をくねらせながら言った。


(可愛いって、一体…。)


 キューピッドは、見た者が悪夢にうなされることになりそうな笑みを浮かべた後、力いっぱい弓の弦を引いた。まるで「おらぁ!」とか聞こえてきそうなキューピッドの表情と共に、ハートの矢は放たれた。ものすごい速度で、矢はロックマジロを貫いた。というかほぼ押しつぶした。


「ビギィィィィィ!」


 ロックマジロが、矢に押し潰されながら憐れな悲鳴を上げて消滅していった。


「いやぁん♡とってもプリティーな魔法ねぇ♡」


 ラファエルは嬉しそうに飛び跳ねていた。


…えぇぇぇぇぇぇぇ…。


 その光景を見て四人は、しばらく悪夢にうなされることを覚悟した。キューピッドは不適な笑みを浮かべて消えていった。


「あぁん♡キューピッドちゃん、ありがとうねぇ♡」


 消えていくキューピッドにラファエルはずっと手を振っていた。


「と、とりあえずこれで終わりかなっ!?」


 ぽん子が顔を引き攣らせながら言った。


「そうねぇ、とりあえずなんとかなったわぁ…。皆、お疲れ様だねぇ。」


 ホロはそう言って地べたに座り込んで笑った。


「終わったすねぇ!本当にお疲れ様でした!」


 筋肉もホロの隣に座り込んで笑顔で言った。


「皆すごかったぁ!私、役に立ってなくてごめんなさい…。」


 Chisaは申し訳なさそうに下を向いて言った。


「大丈夫だって!俺たちはミドラやってるから何となく感覚わかってるんだし!これから先のちーちゃんの力は絶対必要なんだから!」


 筋肉はChisaに笑顔で答えた。


「…うん、ありがとうね、筋肉さん!その時はちゃんと頑張るからねっ!」


 Chisaも筋肉の励ましに笑顔で答えた。

 そんな時だった。急に目の前の空間が陽炎のように歪みだし、亀裂が入った。

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