虫も眠りにつく深夜。
普段は体を動かす人達や、遊びに訪れた子供達で賑わっている運動公園。流石にこの時間ともなれば、人の気配はまるでなかった。
物寂しく外灯が申し訳程度に周囲を照らしている。
そんな場所を、うごめく何かが居た。
形は不定。辛うじて頭部と思われる部分と、細長い手足のような部位が生えているのが分かる。しかしそれが移動するたびに、辛うじて残されたその特徴でさえも形を変えてしまっていた。
蠢く何かは『影』だった。ただし今は、酷く弱っているようにも見える。
まっすぐ進むのにも苦労しているようで、目的もなく、まるで助けを求めているかのように這いずっているようにも見えた。
人も居ない公園をさまよって、その『影』はある場所へとたどり着く。
そこは、公園内に作られた池だった。子供達が中に入って遊ぶのを前提としている為深さはなく、大人が入ったとしてもふくらはぎの半ば程度しか浸からないだろう。
源流となっているのか、水が定期的に溜まっては下流へと流れていく。中央には無機質な噴水があり、とめどなく水を池に流し込んでいた。
そんな池に、『影』はゆっくりと入っていく。
今までの様子を見るに、通り掛けに足を踏み入れただけだろう。何をするでもなく、ただゆっくりと前にだけ進む。
すると、一段深くなった場所に『影』は落ちた。
深くなったと言えど、大人なら股下に水が届く程度。子供なら、肩まで浸かる程度の水深。
ゆうに二メートルを超える『影』であれば、何ともないはずの深さ。なのに、落ちた拍子に倒れた『影』は起き上がる気配を見せない。
しばらく水面を漂っていた『影』が変化を見せる。
不定の体表はその形さえも変えて、辛うじて生き物らしかった姿を完全になくしてしまう。
ゆっくりと水面を覆った『影』は、次第に池の底へと沈んでいく。
それ程時間を掛けずに水底へと到達した『影』は、落ち着く場所を見つけたかの如く、柔らかな材質で作られた池の底にゆっくりと染み込んでいく。
池に広がった波紋が落ち着くと、文字通り影も形もなくして、公園には静かな夜の風景を取り戻す。
なんてことない、とある夜の一幕だった。
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