「じゃ私が誘ったから最初に選ぶね」リコが言う。
「いやいや、私がリコを運んだんだから私が選ぶ」
私、スイも言い返す。我ながらめちゃくちゃな言い分だ。
「いや私が」
「いやいや私が」
「いやいやいや私が」
「いやいやいやいや私が」
その様子をナグリアイは「?」を頭上に浮かべながら見ていたが「あ、なるほど!」と豆電球マークに変え、片手を上げて笑顔でアピールする。
「わたしもわたしも!」
「「………」」私とリコは顔を見合わせる。
リコは肩をすくめて、私は片手で頭を抱え、空を仰ぐ。
「え? え? 二人は『どうぞどうぞ』じゃないの……?」アイは頭上に「!?」と浮かべる。
「はあ、アイちゃんが選びたいってんならいいよ」私はわざとらしくため息をつく。
「そうそう、どうしてもっていうならね」リコも同調する。
「え……あ、えっと……うんじゃあおすすめの奴を」アイは戸惑いつつジャンルを選択する。
「きっとすごく面白いやつなんだろうなぁ。選ぼうとする私たちを押しのけて勧めるぐらいだもん」
「そらもう鉄板よ。さっき鉄板ネタ滑ったけど」
「いや、無駄にハードル上げんといて……しかも滑らしたのは君たちのせいやん…」アイはエセ関西弁語尾らしきものまで出てきて相当混乱してるのがわかる。
私とリコは視線を交わし、にやりとする。この娘、からかうと面白い。リコも同じ考えだろう。
「とりま、はよ」「はよはよ」
「わかったよもう! 最初はこれ!」少しむくれながらアイは1つのジャンルを提示した。
『異世界ファンタジー〜世界は誰の手に〜』
「おっいいじゃん! これやりたかったんよね!」リコはその選択に素直に喜んでいる。最近リコは異世界ファンタジーにドハマりしている。私も釣られてリコほどじゃないけど気に入っているジャンルだ。
「さっすがアイちゃん。私達の好みわかってる〜」私も雑に褒めておく。
「えへへ。そうかなぁ。まあ高性能AIですから?」アイはさっきのむくれが嘘のように照れ笑顔になる。
ちょろいなぁ、と私は思う。
「あ、これデフォルトのタイトルだから二人向けに変更するね!」アイはそう言って胸の前にキーボードを出現させ打ち込みはじめた。
『異世界ファンタジー〜スイとリコ、幼なじみの二人は仲良く転生し、矛盾というチートで世界を救う、そして世界を支配するのは〜』
「ほほう、いいじゃんいいじゃん」リコは満足気にしている。
「……矛盾チート?」私は疑問点を口にする
「そう、矛盾チート。ネタバレになっちゃうから秘密だけどやってみればわかるよ」
「スイ、これでいいっしょ? 」リコは目を輝かせている。
「そだね。じゃアイちゃん、お願い」
「はーい。では、VR、レディ、ゴー!」
ナグリアイの掛け声とともに世界が暗転する。
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