神々に愛された俺の眷属になると呪いが消えるらしく、みんな解呪と引き換えに俺に全てを捧げてくる

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第3話:奴隷の証

公開日時: 2020年9月19日(土) 09:03
更新日時: 2020年9月19日(土) 10:14
文字数:3,706

 「えっご主人様は、奴隷が必要で私を買ったんじゃないんですか?」


 話の成り行きで、ミリーを買ったのがただの衝動買いだったと言うととても驚いていた。

 まあそんな突発的に買えるような値段でもないし、買ったあとの使い道を決めてなかったなんてそりゃ驚くよな。


 といってもあの金貨は、俺からすれば急に天から降って湧いたような金だった。いわばあぶく銭ってわけだ。正直、持ってても使っても、実感がない。

 そんな金でミリーを買うことができたのだから、ラッキーという他ないだろう。『呪言《ボイス》』はめでたく『解呪《サイレス》』され、俺が持つ『|武神の祝言《スサノオブレス》』の眷属にまでなってしまったのだから。


「まあ、そんなわけだから、当分は気負わずにゆっくりしていてくれよ。人手が欲しい時は、たまに冒険者の仕事を手伝ってもらうかもしれないけどさ」

「そ、そんな。たまにと言わず、いつでもお手伝いしたいですっ」


 ミリーは大きな胸の前でぎゅっと拳を握って意気込んだ。

 うん、そんなしぐさも可愛いな。

 思わず抱き寄せ、俺の足の間に座らせる。


「あっ」


 ミリーは頑張り屋さんだ。

 長年『呪言《ボイス》』持ちとして虐げられていたからか、ここにきてからもずっと俺の顔色ばかり窺《うかが》っている。

 奴隷商はそれでも他の奴隷と分け隔てなく接してくれていただろうが、全く売れずに、顧客からは白い目で見られ、時には罵倒され、辛い日々だっただろう。


「サナタ様が、とてもやさしいご主人様でよかったです」


 膝の間で、いつしかミリーは涙を浮かべていた。

 その愛苦しさに思わずアイラを抱きしめる手に力が籠る。体は細くて柔らかく、温かかった。


「何か必要なものとかあるかな? いままでの生活と、あまり変化はないようにしたいと思うんだけど」


 ミリーの赤い髪を後ろからなでながら質問する。

 触られると、少し緊張している様子でびくっと反応し、恥ずかしそうに顔を伏せる。


「それでしたら……証をいただけませんか?」

「証?」


 聞き返すと、えりーは顔を真っ赤にさせた。


「はい、私が……ご主人様の奴隷である証拠を、下さい……その、例えば、枷《かせ》とか……」


 なんと、枷をご所望ときたか。手枷足枷、奴隷といえば鎖に繋がれているのが定番だもんな。

 いや例えの話だ。他にあるなら越したことはないってところだろう。

 奴隷の証ね……。ミリーが俺の所有物だという確かな証拠か。


 考えながら、ミリーを撫でるのを止めない。頭を撫でる手はどんどん距離を伸ばし、彼女の腕や背中まで丁寧に撫でまわす。

 すると、だんだんとミリーの緊張がほぐれて行くのがわかる。少しずつ力が抜けていくのを感じることができた。

 俺と一緒にいることにもちょっとずつ慣れてきたかな。


「まあ、それは明日でいっか」

「はい……っ」


 そんな会話をしながらも俺の両手はミリーを撫でる。

 ミリーはなんだかもじもじして、俺に体重を預けてくる。


 ――そんな彼女の頬に手を当て、クイっとこちらを向かせる。

 少し潤んだ赤い瞳が俺を捕らえた。


 小さな唇に、そっとキスを落とす――。




 翌日。

 一人ではまず立ち寄ることがなかった女性向けの雑貨屋に足を運んだ。

 ミリーと二人で、目当てのものを探す。

 それは意外にもコーナーが設けられるほど商品の数は多かった。


「なんだか、おしゃれな首輪ですね」

「違う違う。チョーカーっていう、ネックレスの一種だよ」


 女性向けのアクセサリーだ。割と人気商品らしく、ずらりと並んでいる。


「好きな物を選びなよ」

「あの……こういう、おしゃれなもの、よく分からないので……サナタ様が選んでください」

「いいの?」

「もちろんです。それにサナタ様が気に入った首輪をつけたいですっ」

「チョーカーね。チョーカー」


 ほとほといい娘だなぁ。あの奴隷商も実は溺愛してたんじゃないかと思う。

 しかし俺だってつい先日まで村暮らしだ。おしゃれには疎いぞ。そしたらとりあえず……俺の探知系の『祝言《ブレス》』で、何かいい物を見つけることができるかな。『|仙人の祝言《タイコウボウブレス》』って、あらゆるステータスを確認できるとあったし、物体のステータスも読み取ることができるんじゃないか?


「お、案の定だな」


――


【黒とロザリオのチョーカー】


広く流通している一般的な材質・形状のチョーカー。

特性なし。


――


 アイテムのステータスを読むことはできたが、やっぱり特性はないか。

 それでもしばらく吟味していると、ある程度の効果が期待できるものを発見した。それを見繕い、試しにミリーの首元に掲げてみる。


「うん、似合う似合う」

「あ、ありがとうございますっ!」

「じゃあこれでいい?」

「はいっ」


 購入し、彼女の首にチョーカーをかけてやる。

 ミリーはふふっと笑って、嬉しそうにこういった。


「これで、私は完全にサナタ様の奴隷です」


 ――めっちゃくちゃ可愛い。

 彼女の笑顔が眩しすぎて直視できない。


 最初はおどおどしていたけれど、今はもう、完全に俺に気を許してくれている。

 人の信頼を得るというのは嬉しいものだ。


 俺もこの街でずっと一人だったから、ミリーの気持ちがわかる。

 パートナーがいるって、こうも気が楽になるんだな。




 それから、ミリーも冒険者の仕事を手伝いたいと言うので、武器と防具も揃えてあげた。特に必要なのが、丈夫な素材のアンダーウェア。これがあるのとないとではダメージの質が結構違う。

 武器は剣を、というか俺が使っていたものをお下がりだ。


 そして代わりに、俺は槍を購入する。


「おお、カッコイイです!」

「うん。初めて握るけど、どうしてこうも……しっくりくるなあ」


 こんなにも手に馴染む武器なら、変なこだわりは捨ててさっさと槍に持ち替えとけばよかった。しかしこれが『祝言《ブレス》』の恩恵か……すさまじいな。

 まるで、これまで欠損していた肉体の一部を取り戻したかのような一体感だ。

 この武器を奮う日が待ち遠しい。

 ステータスを確認すると、この時点で俺の職業が『槍士』に変更されていた。


 すると、ミリーが心配そうに尋ねて来た。


「あの、サナタ様。こういろいろと揃えてしまう前に、まず私の使い道を探る方がよろしいのでは……」


 おずおずとそんなことを気にするミリー。

 どうやらまだ自分の『呪言《ボイス》』の事を気にしているようだ。もうそんなもの、俺の『祝言《ブレス》』で書き替えられたというのに。

 俺はミリーの心配事は既に消え去っていることを知っているので、何も心配なく色々と準備を進めていたけど、ミリー自身にも自分の状況を把握してもらって、早く安心させてあげよう。


「わかったよ。じゃあ次はギルドに行くか」


 店を出てギルドに向かう。

 ふと、これから冒険者生活をしていく上で必要な質問を思い立った。


「そういえば、モンスターと戦ったことはあるんだっけ?」


 そういえばステータス自体は高いからてっきり戦闘させる気満々だったけれど、大事な部分を今まで聞いてなかった。

 いくら戦闘向きなステータスでも、経験が無いなら素人と同じだ。


「えっと、実はあまりないんです。お父さんに……あいえ、マスターに拾われる前に、襲ってきた弱いモンスターを精一杯追い払ったくらいで……」


 そうか。ならまず剣の振り方から教えなきゃいけないか?

 まあ、多分大丈夫だろう。

 素のステータスは俺より遥かに強いし。


「無理はする必要ないから。気楽に行こう」


 そんなことを話している間に、冒険者ギルドに到着。

 三階建ての大きな建物だ。

 入り口の扉は開放されていて、頻繁に人が出入りする、活気ある場所だ。


「いらっしゃい。あら、今日は彼女連れ?」


 ギルドカウンターの受付嬢がニコリとほほ笑む。

 優しいクリーム色の長髪がをかき上げる。やわらかく垂れた目尻がどこか色っぽいこの女性はテレーズさんだ。俺が最初にっこへ来た時から、色々な手続きなどでお世話になってる。

 めちゃくちゃ美人で、冒険者のファンは多い。


「まあ、そんなところだね。ミリーっていうんだけど、冒険者手続きをして貰えるかな」

「いいわよ。それじゃあ奥に来て、色々と審査を受けてもらうわね」


 テレーズさんに手招きされて、ミリーはおどおどしながらもついていった。ミリーって素だと人見知りなのかもしれない。

 もちろん俺も保護者だし、ついていく。


「よ、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくね」




 こうして、けっこう時間がかかる手続きは無事に終了し、ミリーは自身の冒険者証を受け取って、にんまりしたのだった。


「ありがとうございますっ」


 ミリーは手続きに付き合ってくれたテレーズさんに頭を下げて、そしてから、冒険者証の中身に目を通す。

 この手帳のような冒険者証は本人確認はもちろん、討伐履歴に依頼の受領状況等様々な情報が書かれてあるし、これからどんどん書き加えられていく。


「あ……」


 そしてミリーは、そのカードのどこにも『呪言《ボイス》』の表記がされていないことにまず戸惑い、それどころか、『祝言《ブレス》』持ちであることが記載されてあることが、どうにも信じられないようだった。

 何度も何度も確認して、ようやく納得したのか、俺の方を見る。


 ――驚きすぎて表情の作り方を忘れてしまったミリーは、無表情に、涙を溢れさせた。


「夢みたいです……」

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