神々に愛された俺の眷属になると呪いが消えるらしく、みんな解呪と引き換えに俺に全てを捧げてくる

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プロローグ

公開日時: 2020年9月19日(土) 00:17
文字数:3,238

 朝から街の近くの森でモンスターを駆除して、その肉や毛皮なんかを剥ぎ取り夕方には街に戻る。

 モンスターの素材はギルドが買い取ってくれるので、それで得た少しばかりの金で、俺は日々を慎ましく過ごしていた。


 この街に来て一週間が経った。

 自分で言うのもなんだが、かなり順応出来ている方だと思う。




 ――なんせ、巨大なドラゴンに食われて死んだと思ったら、気付けばこの街に佇んでいたのだから。

 ちょっと意味がわからない。




 一週間前。

 俺はいつもの様に、生まれ育った村でモンスターを駆除して生活していた。その日は朝から雲一つない晴れ渡った空模様だったことを覚えている。

 しかし突然の雷鳴と共に、空は瞬く間に暗雲に覆われた。


 何事かと空仰げば……既にドラゴンは俺の視界を覆うほどの至近距離に迫っていた。

 巨大で、その鱗は白い。そして翼もなく宙に浮いていた。

 胴体は蛇のように長く靱やかで、しかし蛇とはあまりにも似ても似つかない。

 牙が生えそろった口は獰猛な肉食動物のごとく俺を威嚇し、青白い稲妻が常にスパークするたてがみは、このドラゴンの怒りを可視化していた。

 それでいて瞳はどこか、人間味のある黒色だった。


 口の中は、生臭かった――。




 そして気が付くと、俺はこの街にぼけーっと突っ立っていた。

 意味が分からない。


 といっても、前と今と生活に違いはあまりない。モンスターを狩って素材を売ってのその日暮らし。

 俺が生まれ育った村にはギルドなんてなかったから、食べ物との物々交換か、隣町で換金していたので、ギルドがすべて引き取ってくれるこの街の方が効率はいいのかなってくらいか。


 あとは、ある日唐突に現れた恐ろしいドラゴンに食べられてしまう……という心配がない事だろうな。大きな街だし警備は厳重だろう。


 最初は夢なんじゃないかと思っていた。死の間際に見るとされる走馬灯のようなものだと。だが、さすがに現実味が有りすぎる。

 ドラゴンの口の中がどうして外の知らない街に繋がっているのかはわからないが、ともあれ、俺はこの街でまあまあ暮らして行けていた。

 ならば焦らず、生活基盤を固めながら情報収集だ。


 そんなわけでこの一週間で得た情報を整理しよう。

 まずここは、ルルノイエ王国のサウスウィンドウという街らしい。うん、聞いたことがない。

 しかし使用させれている言語や貨幣が俺の村でも流通していたものと同じだったのは助かった。

 1モーグ銅貨に、50モーグ大銅貨、銀貨は1,000モーグ、金貨は10,000モーグだ。


 ちなみに俺の財布の中には金貨が10枚ある……。100,000モーグといえば、そりゃ結構な大金持ちだぞ。

 どれくらいの大金かといえば、俺は12歳の頃からモンスター駆除の仕事を村で任されるようになったのだが、それからこの18歳という年になるまでの六年間に俺が稼いできた金額というのが……金貨一枚分にも満たない。


 だから俺は、あの村で生涯を費やしても手に入らないだろう金額を今この手に掴んでいるということだ。

 意味が分からない。


 当然だが、これは俺が稼いだ金じゃない。

 だが、どうも俺の金じゃない……とも言えない状況なのだ。


 というのも、この街に飛ばされて、それで意識を取り戻したら――俺は服装や所持品がまるっきり別物に変わっていた。

 この財布もしかり、それから剣も、12歳の頃からずっと使い古していたものじゃなく、まるで今の体格に合った使いやすいものとなっていた。

 服装だって、言っちゃなんだが、前までの『村人御用達』みたいないなかっぺくさいものじゃなく、襟のついたシャツだぜ。

 意味が分からない。


 ――まあとにかく、ドラゴンに食われたら生活が一変した。


 だがこの金貨にだけは手を付けないようにしようと思っている。他にも財布には銅貨銀貨も散りばめられていて、それは食事代とか情報料とかで使わせてもらったが、最低限、金貨だけは使いたくなかった。

 だってなんか怖いし。


 だから何か収入源を得なければと探して見つけたのが『冒険者ギルド』だ。

 そこはギルドに加入した冒険者に様々な仕事を斡旋してくれる、いわば仲介業者。

 その仕事内容は多岐に渡る。


 俺がやっているようなモンスターの駆除はもちろん、庭の草刈りや大工の下っ端。商団《キャラバン》の護衛に、果ては冒険者同士で小隊規模のチームを組んでの大掛かりなミッションなどなど。

 俺は村でも似たようなことをしていたし、これ幸いと早速冒険者ギルドへ足を運んだ。


 そして意気揚々と受付のお姉さんにギルドへの加入を申し込むと――。




 俺は、いかに自分がこれまで狭い世界で生きていたのだろうと、絶大なショックを受けることとなった。


 まず、この世界には『職種《ジョブ》』というものが存在した。

 登録手続きの時に、言われるがまま紫色の魔法石に手を当てると、俺は、本質的に『槍士《ランサー》』の職種《ジョブ》適正があることを告げられる。

 紫の魔法石は、その人が持つ資質を見出して職種《ジョブ》を定めるものだという。

 俺は六年もの時を、ただ一本の剣に命を預けて生きてきたわけだが、それを真っ向から否定された気分だ。


「まあ、開拓が進んでいない地方の人って、結構そういうことありますよ。気にしないでください。それで、どうします? このまま剣士《セイバー》で登録しますか? それとも槍士《ランサー》にします?」


 生まれ持った職種《ジョブ》を選んだほうが成長も早いし技術面でも大きく差がでるという。適正外の武器でそれを覆すことは並大抵の努力じゃ難しい。


「……ひとまず剣士《セイバー》でおねがいします……」


 だけど、そうやすやすと六年の信頼を手放すことはできない。

 まずは剣士として登録して、そこからいろいろ思案することにした。




 それから、これもギルドでの登録の際に調べられたのだが、一番の驚きはなんといっても『祝言《ブレス》』という神の加護が俺に授けられていたということだ。


 これも職種《ジョブ》と同じく生まれ持った天性のもので、『祝言《ブレス》』を授かる者は非常に少ない。というか俺は、子供の頃にじいちゃんが聞かせてくれた昔話にしか登場しない夢物語という認識しかなかった。まさか自分が夢物語の住人になるとは……。


 ギルドではあくまでもその有無を知ることができるのみで、どんな『祝言《ブレス》』を持っているかは把握できない。

 だから自分がどのような『祝言《ブレス》』を授かっているのかを知りたい場合は、教会で自身のステータスを調べてもらう必要がある。


 というわけで、サクっと教会で祈りをささげて、お布施して……。

 その結果、俺のステータスがこれだ。


――


【サナタ・エイトミリオン】 男 18歳

『職種《ジョブ》』:剣士 Lv.21

人族:ルルノイエ人


体力:A(+6)

筋力:B(+4)

技量:C(+10)

敏捷:B(+5)

知力:D(+6)

魔力:C(+16)


『|神槍の祝言《ブリューナクブレス》』:槍の扱いに大幅な補正がかかる。また、常に各種ステータスを上昇(+1)

『|武神の祝言《スサノオブレス》』:様々な武器の取り扱いに補正がかかる。また、常に各種ステータスを上昇(+2)

『|魔神の祝言《サタンブレス》』:魔法の扱いに大幅な補正がかかる。また、常に知力ステータスが上昇(+2)魔力ステータスが大幅に上昇(+5)

『|技神の祝言《アルテミスブレス》』:経験値ボーナス付与。熟練度ボーナス付与。また、常に技量ステータスを大幅に上昇(+6)敏捷ステータスを上昇(+1)

『|慈母神の祝言《テテュスブレス》』:体力の減少により自動で【再生《リジェネレイト》】が発動。状態異常無効。また、常に体力ステータスを上昇(+2)

『|仙人の祝言《タイコウボウブレス》』:あらゆるステータスを確認できる。千里眼を行使できる。また、常に魔力ステータスを大幅に上昇(+7)

『|精霊王の祝言《ティターニアブレス》』:精霊との対話が可能となる。物に宿る精霊の力を読み取ることができる。また、各種ステータスを上昇(+1)


――


 七つもあるとか聞いてないんですが。

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