それは、春の訪れを匂わせる、暖かな小雨模様の晩のことでした……。
二月十四日です。
そうです、いわゆるバレンタインデーです。
女の子が、ちょっとだけ勇気を出したり、愛想を振りまいたりする日です。
あんまりそういうのとは縁無く、今までわたし、生きてきましたけど……。
「あっ、あのっ、これ! 食べてもらえませんか!」
わたしは一つの勝負に出たのです! 出たのでした!
目の前にいるのは、どう見てもわたしなんかにはもったいなさすぎな不釣り合いすぎな、(多分)社会人のお兄さんです。ちょっと顔色が悪いです。ちょっとヒゲが濃いだけかもしれません。髪の毛が濡れてます。この人が誰なのかは、後で言います。
と、とにかく!
わたしはとても必死でした。なんとか受け取ってもらえないかと必死でした。
あああ、なんと無謀だったことでしょう。無謀すぎでした。
これには、深い理由があったのです……。
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